第22話 これってデートなの?

 しかし、言也君――か。


「……君付けとか、止めてください」

「ふぇっ」

「気色悪いです」

「ひ、ひどい」

「気色悪いです」

「二回も言ったっ!」

「そのキャラなんですか? ……天音先輩」

「むー、連れぬやつよのう」


 そう。

 あの時の話には――続きがある。夕凪曰く「夕凪の働いている店に遊びに来ない? ご馳走するよ。……迷惑を掛けたお詫びっていうか。よかったら、生徒会の先輩方も誘って来てね」と。


 聞いてみたところ――天音先輩は二つ返事。風宮さんは「生徒会の雑務があるので遠慮します。天音と楽しんで来てください」と丁寧な返答。最近、僕は生徒会長という存在意義について問いたくなる。マジで椅子に座っているだけなんですが。


「して、お主の友達の店はどこかの?」


 僕は丸い文字で書かれた手製の地図を取り出し、


「えーと。あそこの通り、飲食店が並ぶ一角にあるみたいですね」

「よし、行くぞ!」

「……ところで、いつまで手を握っているんですか?」

「駄目なのか?」

「いえ。……だ、駄目というか」


 僕は言葉を濁す。

 ぐぅっ、返答に困るな。はっきりきっぱり、拒絶するのも――べ、別に、いやというわけじゃないし。


「なら、これでどうかの」


「んなっ」


 と、天音先輩は一層のこと体を密着させて、


「ふふ。ラブラブというやつじゃ」


「あま、天音先輩っ! い、いくらなんでも――」


 僕は動揺を隠せない。

 腕組み――腕組みだ。はぉおっ! 胸が、むむ、胸がっ! あああ、当たっているんですがっ!! ……やばっ、鼻の奥底が熱くなってきた。


 ……休日に、年頃の男女が仲睦まじく横並び。


 これは、一般的にはどう捉えても――デートというものでは? チラリと、僕は隣の天音先輩を見やる。華やかな立ち姿、それに見合う長く艶やかな漆黒の髪。まるで、どこかの雑誌から飛び出た――モデルさんみたいだ。


 デートなどという、愚かな考えを改める。

 つ、釣り合ってなさすぎるっ! 天音先輩のスタイル、ルックスに寄与する箇所が僕には見当たらない。百歩、千歩、万歩譲って――仲のよい姉弟くらいだろう。


「――ほら、天音先輩。歩きにくいですから、そろそろ離してくださいよ」


「むぅ、いやじゃ」


 天音先輩は、僕の耳元に顔を近付け、


「……少しでも、近くにいたいもん」


 至近距離――とろけるような、甘い一言。

 もんって。突発的にキャラ変えるの――反則ですから、可愛すぎますから。本当にもんもんだよっ! 僕がもんもんするよっ!! はぉお、落ち着け、落ち着くんだ。


 ――ふっ。


 追撃――耳に息が吹きかかる。こ、この連携はやばすぎる。市街地の中心で奇声を発してしまいそうだ。

 冷静、冷静に――意識、意識を繋ぎ止める。


「か、からかわないでくださ――」


 はむっ。


……。

…………。

……………………。


「――ぃずゎっふ! い、今、桃源郷が」


 口から逆バンジーした魂を、必死で呼び戻す。

 悪戯に舌を覗かせる天音先輩。最早、僕は逆らう気も起きず――観念。ため息を一つ吐いた。


「して、友達の店とやらは――まだ、先の方かの?」


 再度、僕は丸い文字で書かれた手製の地図を取り出し、


「えーと。……あっ、ここですね。着きましたよ」


 メルヘンチックな外観の喫茶店だった。

 店先には『プリティー子猫ちゃん』という立て看板が出ている。一緒に掛けられているメニューを一瞥する限り、デザート類がメインらしい。ランチのパフェセット、ケーキセット、甘い系統のセットばかりだ。それに伴ってか、ガラス越しに見える店内も――客層も、女性で占められていた。


 ……天音先輩と一緒に来てよかった。


男一人で入店するには、とてつもない勇気と根性が必要だろう。


「さあ、中に入りましょうか」


 振り向きながら促す。と、天音先輩は訝しげな表情で、


「……お主の友達とやらは、女子なのか?」

「そうですけど。どうかしました?」

「むぅ、なんでもない」

「はぁ」


 僕は質問の意図が分からぬまま、入り口の扉を開いた。

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