第21話 トラブルメーカー

 休日の昼下がり。

 太陽が煌く快晴の中、僕は噴水の縁に腰を掛けていた。

 四月の下旬、まだ肌寒さが残る季節としては珍しく今日は心地よい気温だった。そんな陽気に加えて、市街地のど真ん中という好条件も相まってか、平日とは比べるまでもなく賑わっている。


 あのカップルは、今からどこに行くんだろう。ショッピング? あの若者軍団は、意気揚々となにをしに行くんだろう。ナンパとか? 休日にも関わらず、律儀に制服を着ている方もいらっしゃる。応援団長かな?

 と、根拠もない考えに浸る。


 別段、一人で寂しく妄想するのが趣味というわけじゃないよ。無論、用事があるからここにいるわけで。わけわけ尽くしの――そう、待ち合わせというわけだ。

 僕は街頭の時計を視界に、昨日のことを振り返った。


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「言也君」


 一日の授業も終わり、チャイムが鳴り響く中、


「今週の日曜日、暇かな?」


 日曜日、か。

 帰り支度している手を止め、声のする方へと向き直る。予定なんてあるはずもない。というか、予定なんてできるはずもない。最早、この教室――この『葉言高校』で、僕に話し掛けてくる人物は限られている。風宮さん、天音先輩、夕凪、と――わぁ、片手で事足りた。まだ指が余っているよ。誰か埋めてくれてもいいんだよ。


「うん。超暇だね」


「あはっ、超が付くんだ。よかった!」


 と、嬉しそうに手を叩く夕凪。僕は快活な笑顔で、


「僕、友達いないからね」

「は、反応に困るよ、それっ! 夕凪、夕凪は友達じゃないの?」

「……トラブルメーカーかな」


 僕にとってはね。


「ふぇっ! トラ、ブっ?」

「大丈夫。半分冗談だから」

「も、もう、驚いちゃったよ。……半分?」


 他愛のないやり取りをしつつも、僕の心中からは不安が立ち上っていた。

 先日の放課後――みたいなことには、ならないよね? 記憶の扉を叩けば、恐怖で体が震えてくる。か、風宮さん、それ以上はっ! だ、駄目っ! 夕凪が、夕凪が死んでしまうっ! だ、誰かあっ!

 僕の心情を読み取ったのか、


「心配しないで」


 夕凪は天使のように微笑みながら、その瞳から光彩を消失させ、


「に、二度と、二度と、こっ、ここ、言也君には『論争』なんて、い、挑まにゃい、挑まない、から。……ごめんなさい、許してください、夕凪が悪かったの悪かったの悪かったの悪かったのののほぅう」

「カムバック!」

「はぅっ! そ、それでね、話の続きなんだけど――」


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 そして、日曜日に至る。


「お待たせ」


「あ。今、僕も来たとこ――」


 と、お決まりの台詞の途中で言葉を失う。

 肩の少し露出した、大人っぽい服装。下はジーンズとブーツ、首に付けているアクセサリーがまた全体を調和するかのよう、素晴らしいハーモニーを奏でている。ファッションに疎い僕でも、一目で似合っていると感じた。しかしながら、素直に称賛するのも気恥ずかしいので、言葉を飲み込む。


 目の前の人物は僕の手を大胆に取り、


「ほら、行こう。言也君」


 その温もりに僕の心拍数が跳ね上がる。

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