第16話 放課後ブレイクタイム
生徒会長に就任後、幾日か過ぎた昼休みの生徒会室にて、
「そろそろ、生徒会長の紹介誌でも作ろうかの」
唐突に、天音先輩はそう言った。
「紹介誌? なんですか、それ」
菓子パンを片手に僕は聞き返す。天音先輩はおにぎりを一口、
「……んぐっ。生徒会長がどういった人物か。どういった信念のもと、これから活動していくか。選挙で言うところの、キャッチコピーみたいなものじゃな」
最近の昼休みは、もっぱら生徒会室に滞在していた。
理由は簡単、教室で食べると僕を気にしてか――そそくさと、クラスメイトが移動して行くからだ。あの空間で一人ランチタイムとか、自然と塩分満載になっちゃうよ。
ジュースを一口。なるほど、と僕は頷き、
「天音先輩は、どんなキャッチコピーだったんですか?」
「弱肉強食」
「……」
入学式の時、盛大に壇上で叫んでいましたね。
というか、その紹介誌は絶対に作らなきゃいけないんだろうか。
「無論、強制じゃからな」
先に、釘を刺されてしまった。天音先輩は顎に手を置きながら、
「ふむぅ。悪鬼羅刹、なんてどうかの? 強そうに感じるじゃろ」
「却下で」
「悪漢無頼」
「却下で」
「暴飲暴食」
「何故、悪役っぽいキャッチコピーばかり!?」
「ふふん。センス抜群じゃろ」
「最後の方とか、意味合いからして全く関係ないですよ。……とりあえず、四字熟語から離れてください」
そう言った僕に、天音先輩は不服そうに頬を膨らませる。
「風宮さんは、なにかありますか?」
「……そうですね」
と、静かに弁当を食べていた風宮さんは箸を止め、
「変態、なんてどうでしょう」
「簡潔すぎますよ! しかも、そのネタどこまで引っ張る気ですか?」
「では、変で」
「文字数を減らす発想はなかったですよっ! ……真面目に考えてください」
天音先輩、風宮さんは声を合わせ、
「真面目じゃぞ」「真面目ですよ」
「嘘っ、絶対に嘘だ!」
「むぅ、わがままなやつよのう。ならば、お主はどんなキャッチコピーがよいのじゃ?」
んん。
自分で考えるとなると、照れくさいな。キャッチコピーか――よしっ! 僕はコホンと咳払いを一つし、
「優しさの貴公子、とかですかね? 生徒会長というからには、やはり皆に対する優しさを第一にして、笑顔を平等に振り撒くべきだと思うんです。今はなんやかんやで恐れの対象になっていますが、きっと理解してくれるはずです。うん! 僕も毎日、笑う練習を鏡の前でしなくちゃいけませんね。一日千笑、スマイル命!」
ニコッと、親指を立てながら予行演習よろしく話を終了する。
完璧だ、ぺきかんに決まったよ。喝采でも起こるかな、と思ったのも束の間――怪訝な視線が二つ、僕に突き刺さる。
「お、おう。意外と乗り気じゃのう」
「……文句を言う割には、饒舌ですね」
いたたまれない。いたたまれない気分だよ。
「どうして引き気味なんですか!? 僕は、僕は――」
「む、午後の授業が始まる。また、放課後に決めるとするかのう」
「同じくして、私も行きますね」
「――えっ、ちょっと、待っ」
無機質なドアの音が、生徒会室に響き渡った。
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