第15話 ラッキーカラー(続)
放課後。
一緒に帰ろうぜ! と気さくに声を掛けてくる友人など、存在するわけもなく通学鞄を片手に、僕は生徒会室へと足を運んだ。
今朝の出来事も相まってか――気乗りはせず。その足取りは重い。
正直な話、行ったところでどうすればいいのかも不明だ。生徒会長ってなにをするんだろう。あの無駄に貫禄のある机で、お茶でも飲んでいればいいのかな。
そんな疑問を念頭に、僕は生徒会室の扉を開く。
「ふむぅ」
入るなり、天音先輩のため息。
生徒会室には既に、風宮さんも含めて二人がいた。風宮さんは机の上で束になった書類をまとめており、天音先輩は遠くを見つめながらたそがれていた。
軽く会釈しつつ、僕は椅子へと腰を降ろす。
「ふむぅ」
「……」
「ふむぅ」
「……風宮さん。その書類の束、なんですか?」
えっ、聞く相手違うくない? 的な表情の天音先輩は無視する。
とんとん。風宮さんは書類を机で叩きながら、
「言動さんに『論争』を挑もうとしていた生徒の情報です」
今、激しく物騒な答えが耳に――気のせいかな。
「今日だけで、十六人いましたね」
「そんなにっ!?」
盛大に鬼ごっこができちゃう数だよ。
「生徒会長の入れ替わり時は、よくあることですよ。自分も勝てるんじゃないか、と身のほどを知らずに来るんです」
「そ、そうなんですか」
でも、おかしいな。
その割には、僕のところに誰一人として来てな――、
「皆殺しにしておきました」
――ほう!?
「全員、皆殺しにしておきました」
「み、みなっ?」
風宮さんは、相変わらずの無表情で、
「……詳しく、知りたいですか?」
「ぃ、いいえ」
マジで怖いんですが。
確かに、守るとかどうとか言っていたけど――まさか、本当に実行しているなんて。今朝の一件も、それの一環なのだろうか。守ってくれるのは素直にありがたいが、今日一日、夕凪は視線すら合わしてくれなかったという。
これ以上、言及するのはよそう。僕は続けて、
「天音先輩、どうしました?」
「むっ! 聞いてくれるか」
最初から、めちゃくちゃ聞いてほしそうだったよね。
「……実はのう、朝から残念な出来事があったのじゃ」
「占いのランキングが悪かった、なんてオチは止めてくださいよ」
「ワシの心を読んだのか!?」
「正解だったのっ!?」
僕の方が驚きですよ。
「乙女座は十位だったのじゃ。二桁とは、縁起が悪い。ラッキーカラーは赤。アドバイスは清楚な一日を心掛けるよう、とな。清楚、清楚――ワシは常に清楚じゃから、そこは問題ないか」
わぁ、自分で言っちゃった。
「天音先輩って乙女座だったんですか」
「うむ。乙女、乙女――まさしくっ! ワシに相応しいじゃろうて」
何故か、胸を張る天音先輩。僕は冗談まじりに、
「乙女というより、おじいちゃんみたいな雰囲気ですよね」
「……ぇ。お、おじ?」
昨日、散々に弄られたお返しといわんばかり――僕は調子に乗った。
「その喋り口調、古風ですから。乙女座じゃなくて老人座とか。まあ、そんな星座は存在しませんけどね。あはは、なんちゃっ――」
「…………」
んん、様子がおかしい。
「――あ、天音先輩?」
「老人座、か」
「あの。冗談、冗談ですよ。……もしかして、怒りました?」
「怒ってないよほほぉおい」
「嘘っ、瞳から光彩が! 口調もおかしいし!!」
天音先輩は天使のように微笑みながら、
「今日のラッキーカラー、捻出してもいいかな? ……無論、あなたの体内から」
ちなみに、僕はかに座だったりする。
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