第14話 …えっち
仕方ない。
手よりは――耳で確認する方が確実かな。どう表現すればいいのか、大きいとも小さいともいえず、成長要素を含んだ未来ある丘に――ダイビング。
……ま、マシュマロ!?
男の夢が凝縮された匠の一品、とでも言おうか。素晴らしい感触だっ! 今日という記念日を忘れないよう、ノートの全面に記し――待て待て、感想は後回しにして、生命の有無を確認しないと。
どくん、どくん。うん。鼓動は感じ取れるから、安心――、
「……な、なに、してるの? 言也君」
「お約束すぎる! 絶対こうなると思ったからねっ!!」
「や、約束? 夕凪、なにか約束とかしたの?」
「いや、そういう意味じゃなくて。……あー、いー、うー、えーっと」
「私が説明しましょう」
――言葉に詰まる僕の代わり、風宮さんが口を開いた。
おぉ、助け舟。頼みましたよ。というか、説明しますもなにも――事態の発端は風宮さんだよね。
風宮さんは咳払いを一つし、
「要約すると、気を失った水城さんの胸に――言動さんが飛び込みました」
要約しすぎじゃない?
泥船だ。漕ぎだして一秒持たずに沈没したよ。ウサギさんが作った船でも、もう少し耐えたからね。風宮さんは続けて、
「無言で感動に浸っていましたよ」
完全にオーバーキルだ!
確かに、感動に浸っていたけどもっ! まさか、僕の心を読んだなんてことは――ないよな。ないよね? 風宮さんなら、ありえそうで怖い。
夕凪は頬を紅潮させながら、
「か、感動に浸ってたの? ……言矢君に挨拶してから、どうなったんだっけ? 途中から記憶が曖昧で」
すごい欠如だね――挨拶って、激しく序盤だよ。
「曖昧なのは、言動さんの飛び込みがすごかったからです。衝撃により、水城さんは気を失ってしまいました。男子高校生の衝動的な過ちなので、許してあげてください」
「……あぅ、飛び込み。だから、倒れてたんだ」
「ちょ、納得しないでっ! 風宮さんもなにを言ってるんですか! 違う、違うんだ。僕は、僕は」
「あぅう、あの。……とりあえず、頭を退けてもらっても、いい、かな?」
し、しし、しまった!
あまりに居心地がよく、無意識にマシュマロの上に長期滞在していたようだ。完全に有罪判決、説得力のない状況――どうりで視界が横になっていると思ったよ。
「ごめんっ!」
飛び退きざま、僕は素直に頭を下げる。
謝罪する以外、選択肢が思い付かなかった。なにを言っても、言いわけにしか聞こえないだろう。
さあ、顔面識別不可能なくらいに殴るだの、蹴るだの――どんと来い。できれば、生命の灯火は消さない範囲でお願いします。
「……えっち」
そんな僕の予想を裏切り、
「言也君の、えっち」
なに、その反応――か、可愛いな。
夕凪はそう言うや否や、真っ赤な顔で――そのまま、走り去ってしまった。呆然と、僕はその後ろ姿を見つめる。風宮さんはポツリと、
「言動さんの、変態」
「一文字も合ってないですから」
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