第13話 ラッキーカラー

「か、風宮さん? な、なにするんですか!?」

「おかしなことを聞きますね。朝の挨拶です」

「……朝の挨拶でしたか。それなら、仕方が――って、バイオレンス過ぎるでしょう!?」

「優しいスキンシップです」

「今ので!?」


 と、横で傍観していた夕凪が、


「……言也君。敵かな?」


「えっ? て、敵? なんの敵? 敵もなにも、入学式の時に――」


「水技――水鉄砲!」


 皆まで言う前に、夕凪が風宮さんに攻撃を開始する。


「……丁度いいです。言動さん、本気のスキンシップというのは――こういうことですよ」


 と、風宮さんはその場で回転――華麗に球体を避け、スカートを翻しながら、


「ふぇ? ぇ、ひゃわっ」


 夕凪を蹴り飛ばした。


「おはようございます。確か、水城さんでしたよね」


 吹っ飛んだ。

 容易く、人間とは思えないくらい吹っ飛んだ。路上の端から端、数秒間の浮遊、鈍い音と共に――夕凪は地上に落下した。五、六メートル先、死体のように横たわる姿――ぴくりとも、動く気配はない。


 ……死んだ? 


 超展開すぎる。こんな時、どんなリアクションを取ればいいのかな。唖然とする僕、風宮さんは無表情のまま、


「正当防衛です」


「えぇっ! かなり過剰ですよ!?」


 風宮さんはそもそもですね、と人差し指を立て、


「軽々しく、自分の『言霊』を口にしてはいけません。生徒会長になったという重責、重大さをもっと考えてください」


「はぁ、すいません。肝に命じま――って、それどころじゃないでしょうっ!」


 混乱したまま、僕は問う。


「……な、何故、ここまで過激に?」

「今日のラッキーカラーは栗色。アドバイスは派手にやってみましょう、でした」

「あ、アドバ?」

「だから、派手にやってみました」


 ラッキーカラー、アドバイスって。


「……もしかして、占いですか?」


 こくり、と頷く風宮さん。

 衝撃すぎる。風宮さんがまさか、占いを信じていたとは。現実主義的なイメージを払拭されたのは勿論のこと、占いのアドバイスだけでこんな――こんな惨劇を繰り広げてしまうなんて。

 おぅのぅと呟く僕を見て、風宮さんは首を傾けながら、


「??? どうしました?」


 本当にどうしましたですよ。こっちのセリフですから。


「……えぇと。色々、言いたいことはあります。が、こんなやり取りをしている場合じゃなくっ」


 慌てて、僕は夕凪に駆け寄る。


「大丈夫か? 夕凪、夕凪っ!」


 声を掛けても、返事はない。

 ぺしぺしと、軽く頬を叩いてみる。体温は――冷たい、かな? よくわからない。


「心音を確認してみては?」


 いつの間にか真横、風宮さんが尋ねてくる。


「おぉ、ナイスアイディアですね。……ナイス、アイディ」


 ん、心音?

 そ、それは、つまるところ――胸の付近に、耳か手を当てるってことですよね。


「さあ、早くしましょう」

「いやいや、待ってください。おかしいでしょう? なんでそんな他人事みたいな言い方なんですか? 張本人、風宮さんがやれば――」

「さあ、早くしましょう」

「……いや、風宮さんが」

「さあ、早くしましょう」

「……はい」


 押しに弱いよね、僕。

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