第12話 水城夕凪
とりあえず、学校に着くまでは――安全かな。何故かというと、生徒会長の座は校内に置ける『論争』でない限り、左右されることはないのだ。つまり、校門から一歩でも外に出れば無効となり、校門に一歩でも足を踏み入れれば有効となる。
今日は、なにもする気ないから――今日は、今日は。先ほどの夕凪の言葉が、頭の中で反響する。
再度、僕は疑問を口に、
「……それで、その占いになんの関係があるんだ?」
「えっとね。大人しく過ごすのが吉っていうの」
「大人しく過ごす?」
「占いのピンポイント的な項目あるでしょ? そこで、ラッキーカラーは黒。アドバイスは大人しくしましょう、だったんだよ。だから、今日はなにもしないの。今日はね」
「……それ、今日の占いが絶好調だったら、すぐにでも『論争』したかった、みたいな言い方だな」
「したいよ」
即答。夕凪は快活な笑顔で、
「夕凪はね、強い人と『論争』したいだけだから」
無邪気な敵意が――垣間見えた。
しかしながら、その笑顔が愛らしいため、自然と頬が緩ん――落ち着こうか、僕。純粋な力比べがしたい、夕凪はそう言いたいのだろう。もし仮に、今ここで『論争』を挑まれたら――ふ、不吉な未来しか想像できない。星座占いのランキング万歳っ! おかげで助かった。
それにしても、強い人と、ね。
「……だったら、僕より前の生徒会長の方が」
「なんで? その生徒会長に勝ったよね」
「ん。そう、だな」
「うんうん。言也君の方が強いよ! 間違いないよね。最強、最強っ」
リズムよく、夕凪のツインテールが左右に揺れる。
ううむ。なんとも単純思考だな。最強を倒した者が――新たなる最強。まあ、正論といえば正論だけど。
僕は頭を抱える。
「……本当、厄介なことになった」
「??? どうかした?」
「いや、なにも。……そういや、昨日すごかったよな。あの丸い球体――あれって、見た目通りの水かな?」
「あ、うん。あれはね」
と、夕凪は空に指先を向けて、
「水技――水雨」
ぱらぱらと、頭上から水滴が落ちてくる。
霧雨とでも言うべきだろうか、心地よい感覚が全身を撫でていく。
「夕凪の『言霊』は、水を形作るんだよ」
「……すごいな。個人的な感想を付け加えるなら、真夏日に僕の周辺の温度を下げてほしいよ」
「あはは。その時は言也君の近くにいるね」
僕は是非ともと頷く。夕凪はニコやかに笑いながら、
「……それで、言也君の『言霊』はどういった感じなの?」
「僕? 僕の『言霊』は――『否定』だよ。夕凪とは違って、ちょっと使用するタイミングが難しくてね」
「否、定?」
「まあ、相手のぶるぶぁおっ!」
言い掛けた瞬間、腹にすさまじい衝撃――体がつの字にひん曲がる。
ぐ、ぐぅう、ほおおおおはぁ――あ、足が宙に浮いたよ? 全身の毛穴から、朝ご飯が吹き出るかと思った。
涙で滲む視界の先、相変わらずの気配のなさで、
「おはようございます。言動さん」
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