第7話 風宮蓮②

 な、何故この質問だけ普通に反応してくるのか?

 てっきり『そうですね』って返って来るものかと。どう返答すればいいのか――確かに大きい。小さな背丈とは裏腹に、制服の上から見てわかるくらいに、巨大な山脈がそびえ立っている。

 風宮さんはスッと両手で胸をかばい、


「……そんなに、見つめないでください」


 変わらぬ無表情。

 しかしながら、その艶かしい仕草に――不覚にも、ドキッとしてしまった。おぉっぱ、落ち着け、僕。落ち――、


「見たいですか?」


 ――ちっ!?


「冗談です」


 ちろっと、舌を出す風宮さん。


「本気で焦ったんですけど!? 冗談かどうか掴みにくいですよ!」


「生徒会長たるもの、嘘を嘘と見抜く眼力。そして、強固な精神。簡単に揺らいではいけませんよ」


 健全な男子高校生には無理難題だと思う。


「……というか、その生徒会長の件で」


「駄目です」


 ……まだ、途中までしか言ってないんですけど。


「駄目です」


 風宮さんは再度、呟く。

 先ほどのやり取りとは違う。僕がなにを言いたいのか理解しながら――強調的、明確な否定だった。

 再び訪れる沈黙、数秒の間を置いて風宮さんが口を開き、


「本名、言動言也。自宅から遠のいた『葉言高校』を選択し、入学を決める。過去を遡る限り仲のいい友達はおらず、単独行動が多い。目立った経歴もなく、これといった趣味もなし。好きな食べものは、定番のカレーライス卵入り。小学校、中学校、共通してあだ名は暴――」


「どこでその情報を!?」


「――それらを踏まえた上で、代弁しましょうか?」


 眼鏡の奥、鋭い眼光が僕を射抜く。


「僕には生徒会長なんて無理です。僕には生徒会長なんて荷が重すぎます。僕は生徒会長なんて器じゃないです」


 正直、ぞくりとした。

 全てを見透かされた感覚。淡々と文字列を並べただけのような、感情のこもらない表情も相まってか――背筋に、ひやりとしたなにかを感じる。

 風宮さんは出会った時と同じく、ぺこりと一礼し、


「違ったのなら、謝罪します。真偽のほどは?」

「……正解です」

「素直なんですね」

「隠したところで、仕方ないですから」


 僕は足を止める。

 趣を感じる古びたドア。その上部には『生徒会室』と書かれた、白いプレートが飾り付けられていて――気付けば、目的地まで到着していた。


「風宮さんの言った通り、僕は――」


 これ以上、前には進めない。


「――器じゃないんですよ。生徒会長を倒せたのも偶然に偶然が重なっただけで、たまたまとしか言いようがないんです。だって、僕の『言霊』は」


 そっと。

 それ以上言わなくてもよい、という意味だろうか。静止するよう、風宮さんが僕の唇に人差し指を当てる。


「……どうしても無理、と?」


 僕は力強く頷く。


「す、すいません。辞退できるなら、辞――」


「了解しました」


 あぁ。

 優等生な見かけ通り、話のわかるお方だ。


「ならば、不慮の事故で死亡と言うことに」

「――んんっ?」

「短い生涯、お悔やみ申し上げます」


 その一言を最後に、僕の意識は暗闇の中に飲み込まれていった。

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