第16話 家族

 ドリドロスを捕らえて、王都に戻ってから1週間が経った頃、ドリドロスの処遇を決める、裁判が行われた。


 龍とニーニャとリファは、その結果を見る為、王宮に居た。


 裁判は、王宮で執り行われ、国王様が判決を下す事になっている。


「では、裁判を始める!」


 国王様がそう言うと、扉が開き、縄に繋がれたドリドロスが兵士に連れ、姿を現した。


 ドリドロスは特に抵抗する素振りもなく、その表情は、反省と後悔に満ちた顔で、あまり食べていないのか、少し痩せている様に見えた。


 リファは、そのドリドロスの姿を見るのが辛かったのか、目を背けていた。


「罪人、ドリドロス、罪状は、国家反逆罪」


 国王様の、横に立っていた兵士がそう言うと、国王様が、喋り始める。


 国王は、ドリドロスが国家を滅ぼしかねない程重大な罪を、お前は犯したと、強く責めた。


 その話を、大人しくドリドロスは、聞いていた。


 国王様は、お前は、今直ぐにでも死刑にしても誰も文句は、言わないだろと、物凄い剣幕で言うと、ドリドロスに、何か反論は、あるかと尋ねた。


 ドリドロスは、一言「有りません」と答えると、国王様は、ドリドロスの前に行き、そっと肩に手を触れると、跪くドリドロスに、目線を合わせた。


「充分に、反省している様だな」  


 国王様のその言葉に、俯いていたドリドロスは顔を上げた。


 国王様は、ドリドロスが何故こんな事をしたかを、事前にグランデ様から聞いていたそうだ。


 その話で、国王様は、ドリドロスが王国への復讐のきっかけとなったのは、以前ドリドロスを取り調べた取り調べ官がリファを、侮辱した事が原因だと判断して、条件付きでの、釈放を言い渡した。


 その条件は、王国に放たれている、進化物と変進物全てを、消す事だった。


 進化物と変進物は、ドリドロスの支配下のため全てを集めて消し去る事など、簡単な事だ。


 リファは、ドリドロスが助かった、嬉しさからか、涙を流しながらドリドロスに、抱きついた。


「師匠、よかった……」


 国王様は、その光景を見ると、裁判の終わりを告げた。


 ドリドロスの、釈放は、全ての進化物と変進物を消し終わってからになるので、大体、1週間後になる。


 リファは、師匠が釈放された後は、また師匠と暮らす事に決め、龍達の家を出る事にした。


 ドリドロスの釈放の日、リファは、まるで子どもかの様に、はしゃいでいた。


「皆んな世話になったな!」


 そう言って、リファは、ドリドロスを迎えに王宮へと向かった。


 それから1年、進化物などの出現は、1度も無く王国は、平和そのものだった。


 特に、龍への王宮からの仕事も無いので、久しぶりに、ニーニャと話あって、故郷パープルに、帰る事にした。


 グランデ様に、その事を伝えその日の内にテレポートで、パープルまで帰った。


「お父さんただいま!」


 ニーニャがそう言うと、ニーニャのお父さんのマルネスさんが、部屋の奥から、慌てて出てきた。


「ニーニャ、龍君」


 その久しぶり再会に、嬉しかったのか、ニーニャは、少し涙ぐんでいた。


 マルネスさんとの再会の挨拶が終わり、マルネスさんに、ユニの事を紹介すると、優しく、微笑みながらユニの頭を撫でた。


 その日は、久しぶりの、再会を祝してマルネスさんが、豪華な夕食を作ってくれた。


 ご飯を食べながら、ニーニャは、この1年の事を沢山マルネスさんに、話していた。


 夕食を食べ終わるり、一旦部屋に戻ると、ユニは満腹感と遊び疲れたのか、気づいたら眠っていた。


「ユニ寝ちゃったね」


 ニーニャの部屋で、寝てしまったユニに、そっと布団を掛けると、部屋の灯りを消して、部屋の外にでた。


「ねえ、龍君ちょっと外でない」


 ニーニャのその言葉に、賛同し、外に出る事をマルネスさんに伝えて、家から出た。


 外に出ると、ニーニャは、どこか目的地があるのか、歩き始めた。


 暫く歩いたところで、どこに行くのか、予想がついた。


「着いたよ!」


 そこは、王都に初めて行く、前日に2人で星を見た、ニーニャのお母さんとの思い出の場所だ。


 前回の様に、ベンチに腰を掛けながら暫く星を眺めると、ニーニャが口を開いた。


「龍君、前回ここに来た時の事覚えてる」


「覚えてるよ」


 忘れるはずがない、今座っているこの場所で、ニーニャに告白したのだから。


「龍君が、この場所で言ってくれた言葉、凄く嬉しかった」


「時々思い出すんだけど、その度にドキドキしちゃうんだよね!」


 ニーニャは、顔を赤らめながらそう言った。


「もう龍君と、会ってから1年経つけど、未だに龍君がある日突然居なくなってしまうのかなって不安になる時があるの!」


「ニーニャ、大丈夫、俺は居なくならないよ」


「分かってる、分かってるんだけど、不安になるんだよね」


 ニーニャは、何か不自然な感じだった。


「それでね、なんて言うのかな……」


「ニーニャ、大丈夫ゆっくりでいいよ」


 ニーニャは、少し考えると、また話はじめた。


「龍君、前にこの場所で、私が話した事覚えてる」  


「言葉にしなきゃ伝わらないって言ったやつ」


 龍は、ニーニャの顔を見ながら頷いた。


「だからね、その、龍君が居なくなってしまうかもって、不安になるのは、私がちゃんと伝えてないからだと思うの」


「私は、龍君にずっと甘えていて、1番大事な事を伝えてなかった」


 ニーニャが言いたい事は、分かりそうで解らなかった。


「つまりね、龍君が私の前から、居なくならない様に、私が努力しなきゃねって思ったの!」


「だから、私の思いちゃんと聴いてね」


 ニーニャは、そう言うと、真剣な顔付きで龍を見つめた。


「じゃあ言うね!」


「龍君、私は龍君の事が、大好きです」


「龍君に、どこにも行って欲しくないし、誰にも渡したくない」


「だから、龍君……」


「「私と結婚して下さい!」」


 その、いきなりのニーニャの、告白に頭が、真っ白になった。


「ニーニャ……」


 直ぐに、答えを出さなきゃと思うと、なんて言っていいか分からなくなったが、無理矢理頭に浮かんだ言葉を発した。


「ごめん、ニーニャ」


「え…………」


 ニーニャの、顔に一筋の涙が溢れた。


「ニーニャ、違う」


「ニーニャに、その言葉を言わせて悪かったて、意味だよ」


「本当は、俺が言わなきゃいけない事なのに!」


「だから、俺からも言わせてくれ!」


「俺は、何があろうともニーニャを幸せにする!」


「楽しい事も、嬉しい事も、辛い事も、悲しい事も、全てをニーニャと、分かち合いたい」


「「だから、俺と家族になろうニーニャ!」」


「俺とニーニャとユニで、沢山色んな事して、沢山思い出作ろう!」


「龍君……」


 ニーニャそう言うと、高ぶった感情を押さえきれなくなり、龍に抱きつくと、優しく口づけをした。


「龍君、ありがとう!」


「そして、よろしくお願いします!」


 夜空に浮かぶ、星々が気付いた時には1つになり、その灯りが、2人をスポットライトの様に照らしていた。


 2人は、再びお互いの唇に触れると、暫く離れようとはしなかった。


 その後、その事を早速、マルネスさんに伝える事にした。


 家に着き、マルネスさんに、結婚する事を伝えると、マルネスさんは、心から喜び、涙を流しながら2人を祝福してくれた。


 その喋り声に、ユニは目を覚まして、部屋からで出来たので、ユニにもその事を伝えた。


 ユニは、部屋の中を走りながら喜ぶと、2人の前に行き、2人に最高の、言葉をかけた。


「おめでとう、パパ、ママ」


 始めて、ユニが呼んでくれた事に、2人は歓喜あまり、流した涙が止まらなかった。


「ユニ、ありがとう」


 俺は、ニーニャとユニを必ず幸せにすると、心に誓うと、2人を一緒に抱きしめて、「愛してる」と伝えた。


 その日は、初めて、3人で寝る事にした。


 ユニを間に挟み、2人で抱きしめながら、眠りについた。


 翌日、結婚する事を、リファやグランデ様にも、伝える為、王都に一旦戻った。


 王都に着き、まずはリファに、その事を伝えると、笑いながら「やっとかよ」と、リファ也の祝福をしてくれた。


 次に、グランデ様に会いに行き、結婚する事を伝えると、「おめでとう」と一言いい、話を続けた。


「挙式は、どうするんだ」


 結婚する事の嬉しさで、そんな事まで頭が回ってなかった2人は、言葉に詰まった。


 そんな2人を見ていたグランデ様は、ある提案をしてくれた。


「王宮で挙式をしては、どうだろうか」


 そんな事可能なのかとグランデ様に聞くと、2人はグランデ様に連れられ、国王様の元に連れて行かれた。


 国王様の部屋に着くと、グランデ様が国王様に、まず2人が結婚する事を伝え、次に挙式を王宮で挙げたいと、説明した。


 それを聴いた国王様は、王宮での挙式を快く承諾してくれた。


「その挙式、王宮で取り仕切られせてくれるか」


 国王様から、まさかそんな事を言われるとは思っていなかった2人は、驚きを隠せなかった。


 勿論、そんな事断る理由が無いので、有り難くお願いする事にした。


 王宮での挙式が、1週間後に決まると、当時までのサプライズという事で、挙式までの間、王都への立ち入りが国王様に禁止された。


 仕方がないので、パープルに戻り挙式までニーニャの家で、待つ事にした。


 挙式当日、マルネスさん、ロズンダさん、ギルマスのバルクさんを連れて、王都にテレポートすると、その光景に皆んな驚いた。


「何これ……」


 なんと、2人の、結婚を祝福する為に、王都の街の皆んなが、集まってくれていたのだ。


「龍、おめでとう」


「王都の、英雄に祝福を」


 王都の街の人々の、色々な祝福の声の中、王宮へ到着すると、王宮の入り口には、国王様が待っていた。


 国王様は、2人を連れて、とある部屋に案内した。


 その部屋は、カーテンで2つに仕切られていて、お互いの姿が見えない様になっていた。


「持ってきてくれ!」


 国王様がそう言うと、龍の方には、タキシード、ニーニャの方には、綺麗なドレスが持ち込まれた。


 2人は、その服を王宮の、メイドさん達に着せてもらうと、その姿をお互いで、確認した。


「ニーニャ……」


 あまりの美しさに、なんて言っていいのか分からなかった。


「龍君も、ステキだよ!」


 ニーニャに、そう言われ、少し照れ臭かったが、とても嬉しかった。


「じゃあ、行こうか」


 国王様がそう言うと、次の部屋に案内された。


 そこは、普段は国王様がいる部屋だった。


 扉が開くと、そこには、今までに会った皆んなが挙式に、参加する為に、来ていてくれた。


 その中を、2人は、手を繋ぎながら歩き、国王様しか登る事の出来ない祭壇に、2人は上がると、国王様が2人に祝辞を述べた。


「龍君、ニーニャちゃん結婚おめでとう」


 国王様の祝辞が終わると、2人の誓いの言葉に移った。


 国王様がその、見届け人となり、2人に誓いを求めた。


「いかなる時も、2人は共に歩く事を誓うか」


「「はい!」」


「辛い時も、悲しいときも、2人で乗り越えると誓うか」


「「誓います」」


「では、ユニ壇上へ」


 国王様が、そう言うとユニを壇上へ上げた。


「じゃあユニ、最後に頼んだ」


 そう国王様がユニに、言うとユニが話始めた。


「あのね、ユニはね、本当のパパとママは、もう居ないけど、2人を本当のパパとママの様に思っているの」


「だからね、ユニと家族になってくれますか」


 2人は、ユニのその言葉を聴くと、2人でユニをそっと抱きしめた。


「ありがとう……パパ、ママ」


 その光景に、周りの人もつい涙を流した。


「じゃあ、パパとママ、誓いのキスをしてね」


 やるとは思っていたが、それをユニ言われるとは、思っていなかったので、少し動揺したが、2人はゆっくり顔を近づけると、そっとキスをした。


 周りか、歓声と祝福の拍手が贈られると、街の人々へのお披露目の為に、外に出る事になった。


 王宮の、外に出ると、そこには、街の人達が作った、結婚おめでとうと書かれた横断幕があり、花のシャワーがそこら中から降ってきた。


 2人は、街の人々で出来た、バージンロード風の道の中を歩くと、その先には、街の皆んなが作った、宴会場が街の広間にあり、沢山の料理が並んでいた。


「皆んなありがとう!」


 龍は、大声でそう言うが、街の歓声の方が遥かに大きかった。


 今まで生きてた人生で、こんなにも嬉しく、こんなにも幸せな日は、初めてで、人の温かさが心地よくて……


 そう思うと、再び涙が止まらなかった。


「龍君、今は、泣く時じゃないよ」


「今は、喜ぶ時だよ、だから沢山笑おう!」


 ニーニャの言葉に、流した涙を、洋服の袖で拭き取ると、街の人達と、沢山喋り、沢山、笑った。


 これからの人生、辛い事も、悲しい事も、苦しい事も、沢山あると思う。


 だけど、ニーニャとユニが居ればきっと乗り越える事が出来ると思う。


 ただ、出来ればこの景色を前世界の、両親や友達にも見せたかった。


 だから、聞こえるかは、分からないけど、皆んなにも伝えるよ。


(お父さん、お母さん、皆んな、俺はもう寂しくないよ。


 それは、大切な仲間が出来たからだよ。


 だから、皆んなも悲しみを乗り越えて、沢山笑って、幸せになる事を願っているよ)


 龍はそう心の中で呟くと、天高く、空を見上げた。


「龍君!」


 ニーニャにそう呼ばれ、皆んな元に駆け出し龍は、この先何があってもきっと、大丈夫であろう。


 それは、どんな時でも、どんな事でも、一緒なら乗り越える事が出来る、龍とって1番大切な存在、「「家族」」が出来たから。


 完

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

異世界転喚したヤンキーは、恋に落ちました 凪 渚 @naginagisa

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ