第15話 パーティー

 王都を出発した龍達は、目的地に向け馬車で走っていた。


「グランデ様、目的地までは、どのくらいなんですか」


 龍が、そう質問すると、馬車を操りながら答えた。


「そうだな、大体馬車で2時間ぐらいだな」


「だいぶ前に、廃村になった所で今は、誰も住んで無いはずだ」


 グランデ様が、そう言うとリファが、話に入ってきた。


「魔族の中には、人が居ない所に、好んで住む奴も居るからな」


「何でなんだ」


「それはな……」


(リファの、話によると、魔族の中には、新たな魔法を生み出す事を生きがいにしている者も多く、人がいない所の方が、魔法に失敗しても実害が、出ないからだそうだ)


「新たな魔法って、ヤバイの出来たりしないのか」


 単なる好奇心で、聞いてみたがリファは、深刻そうな顔つきになった。


「正直、そ言う時もあるし、今回もそれに近いだろ」


「近いって事は、なんか違うのか」 


 すると、リファは、昔話をし始めた。


 その話の内容は……


(今から、約230年前、リファが20才ぐらいの頃の話だ。


 リファは、魔法の使い方を学ぶ為に、ある人に弟子入りした。


 その人は、優秀な魔法の使い手だったが、かなり変わっていて、暇さえあれば、新たな魔法を研究していた。


 弟子入りして、3年程たった頃、リファは、その人がやっていた研究が気になり、こっそりと、研究内容を見てしまった。


 その研究は、黒魔術と、書かれていて非人道的な、魔法や大変危険な魔法が書かれていた。


 それを、リファは、周りに喋ってしまい、その人は、危険人物として、王宮に捕らえられてしまい、それ以来会っていないそうだ)


「つまり、近いと言うのは、意図的かそうでないかと言う事だ」


 龍は、意図的にそんな魔法を作る人がいる事に少し驚いた。


「今回の、ケースだと完全に意図的だな」


「それも、王宮に恨みがある人だろうな!」  


 リファのその考察力は、流石のものだった龍は、思った。


「そろそろ着くぞ!」


 その言葉、全員の気が引き締まる。


「ここだな」


 目的地場所に到着すると、そこは聞いていた通り、人に住んで居る様には、到底思えない寂れた、廃村だった。


 ボロボロに、崩れた家の跡が幾つもあるが、特に変わっている所は、見当たらない。


「これは、特に収穫は、無さそうだな」


 グランデ様の、その言葉に諦めかけていた時、ニーニャが何かを見つけたのか、俺達を呼ぶ声がした。


「ニーニャどうしたんだ!」


「この下、何かありそうなの」


 ニーニャの指差した所は、周りとは、違い不自然に草が散りばめられていて、その上に重石が乗っていたのだ。


「どかしてみよう!」


 グランデ様と、その重石をどかして、散りばめられていた草を除けると、そこには、地下に繋がっていそうな扉が現れたのだった。


「降りてみよう」


「皆んな、油断するな、何があるか分からんからな」


 グランデ様の、指示に、緊張が高まった。


「ギギギギギギ!」


 錆びた鉄の、音が響くと、扉が開いた。


 扉を開けると、下の方まで階段が続いていて、中は、電気が通っているのか、明るかった。


「灯が点いてる」


「誰か居るかも知れないな」


 グランデ様が、先頭でゆっくりと階段を降りると、突き当たりに、扉があった。


 その扉を静かに開けると、なんとそこには檻に入れられた、沢山の動物達がいた。


「これは、どう言う事だ!」


 辺りを見渡し、何かないか探していると、机の上に一冊の本があった。


「グランデ様、これ……」


 本の、中を観ると、そこに書かれていたのは、動物を凶暴化させる、魔法の、詳細が書かれていた。


「リファ、ちょっとこれを見てくれ」


 グランデ様の声に、気付いているはずなのに、返事をしないリファに、「リファどうした」とグランデ様が問いかけた。


「これ……あの時のだ」


 リファが手に持っていたのは、「黒魔術」と書かれた一冊の資料だった。


「間違いない、犯人は、師匠だよ」


 リファは、悲しげな表情でそう言ったかと、思うと、いきなり焦り出した。


「とりあえず、早く出なきゃ、師匠が戻ってくる前に!」


 リファのその、慌て様に、直ぐに外に出ようとした瞬間


「人様の家に、無断で入るとは、いけないな」


 最悪な事に、鉢合わせしてしまった。


「ドリドロス……師匠」


 リファの、その言葉で、すぐに誰か理解した。


「コイツが、リファの師匠……」


 見た目は、かなり老けていて、人間年齢で表すと70才ぐらいに、見える。


 黒い、全身を覆ったマントがいかにも、悪そうな魔族と言う感じだ。


「リファ、久しぶりだな」


「お前のお陰で、大変だったよ!」


 リファは、その恐怖からか、言葉が出ない。


「ドリドロスとか、言ったか、お前は、ここで何をやっているんだ!」


 グランデ様は、剣幕を立てながら強い口調で言った。


「なんだ資料は、見たんだろ、まだ分からんのか」


「まぁいい教えやろう!」


 ドリドロスは、そう言うと研究の内容について喋り出した。


「私が、研究していたのは、動物を変化させる魔法だ」


「魔法で動物の身体を無理矢理強化して、どの様になるかを調べてだんだ」


「酷い、なぜそんな事を!」


 ニーニャが今までに見た事のない程の怒りを見せた。


「酷い……酷いだと!!」


 ドリドロスが、いきなり大声を上げた。


「お前らは、何も分かっていない」


「私は、ただ純粋に、魔法の研究をしていたんだ」


「それを、そこに居るリファが喋ったせいで、王宮に囚われ、罪人として、扱われたのだぞ!」


 王国の決まりとして、国を危険に陥れる可能性のある魔法の研究は、禁止されており黒魔術などの研究は、捕らえられて、当然の悪行なのだ。


「リファは、何も悪くない」  


「捕まったのは、自業自得でしょ!」


 ニーニャの怒りは、収まらない。


「それに、あなた、無関係な王都の人々を襲ったのよ」


「絶対に許さない!」 


 ニーニャは、そ言うと、腰の剣を抜いた。


「やろうと、言うのかね!」


「待って!」


 リファが2人を止めた。


「ニーニャありがとう」


「でもこれは、私の喧嘩だから!」


「それに、まだ聞きたい事もあるしね!」


 ニーニャ闘志に、動かされたのか、いつものリファに戻った。


「師匠、まず聞きたいんだけど、進化物を作ったのは、アンタで間違い無いんだね」


「進化物……ああ、君達は、そう呼んでいるのか」


「そうだ、あれは、私の魔法で動物を強化した物だ!」


 ドリドロスは、更に話を続けた。


「お前らの、言う進化物は、そこそこ強い動物、熊、イノシシ、虎、それらは、1回目は、確実に強化出来る」


「1回目、それはどう言う事だ」


 龍は、ドリドロスに、問いかけた。


「簡単な事さ、1回強化させた進化物をもう1回強化したらどうなるかと言う事だよ」


 この時、龍達は、理解した。


 そもそも進化物自体、自然発生ではなく、ドリドロスが作り出していた事。


 そして、その進化物をもう1度強化したのが、変進物だと。


「ただ、2回目は、その強化に耐えられず、殆どが死んでしまうのだよ!」


「しかし、その強化に耐えられた物は、強靭な強さを手に入れられる」


「私が、強化したそいつらは、私の指揮下に置かれるので自由に動かせるが、野放しにした方が面白いから今は、強化だけして、放置しとるわい」


 これで、進化物がそこら辺に居る理由がわかった。


「なるほどねぇ」


「じゃあ、ドラゴンもアンタの仕業」


 ドリドロスは、不気味な笑みを浮かべながら言った。


「あれは、私の最高傑作魔法だよ」


「この世界最強のドラゴンを、呼び出し服従させる事が出来るのだ」


 ドリドロスは、天に両腕を上げ、高笑いしながらそう言った。


「だか、膨大な魔力を使う為に、最低でも1ヶ月は、魔力を貯めなきゃならないがな」


 龍がこの世界に、来たのが、1ヶ月前、そしてそれから1か月後、王都にドラゴンが現れた。


 時間軸的に、ドラゴンを出していたのは、ドリドロスに間違いないだろう。


「この魔法が、完成したのは、1か月ちょと前でな、王都を潰す前に、他の町で試す事にしたのさ」


 俺達がいた町パープルに、間違い無いだろう。


「ただ、何者かに2回ともドラゴンを討伐された……」


 皆んなは、一斉に俺の方を見た。


「ドリドロス、それ俺だわ!」


 龍のその言葉に、ドリドロスは一瞬固まると、直ぐに頭を抱えて、大声を上げた。


「嘘だ!」


 どっかのひ◯ら◯のレ◯みたいな事を言うと、更に大声で喚いた


「この世界最強の存在を、倒すなどあり得ない、きっと魔法力が足りなく、不完全なドラゴンだったんだ!」


 またも、皆んなが俺の方を見た。


「あーごめん、俺全異世界最強の存在なんだわ!」


 その龍の、言葉に、ドリドロスは、膝から崩れ落ちた。


「な、何を言っているんだ、全異世界最強の存在……」


「殺してやる、殺してやる!」


 ドリドロスは、いきなり壊れた様に龍似襲い掛かってきた。


「あーあ、私がやりたかったのにな!」


 龍を知る者にとって龍に襲い掛かるなど、自殺行為としか思えないのだ。


「ドス!」


 ドリドロスは、龍のパンチ一発であっさりと気絶した。


「龍、私のカッコいいセリフ返してよね!」


 龍は、すまん、すまんと右手の腕を上下に動かしなが、リファに、必死に謝ると、それに免じて許してくれた。


 ドリドロスを持ってきた縄で、拘束すると、証拠品として、研究室の本や資料を幾つか回収した。


 ただ、研究室の資料を見ていると、ドリドロスの魔法に対する愛は、かなりのものだと感じ、その研究さえ間違えなければ、間違いなく王国を代表する様な存分になっていたと思う。


 全ての、作業を終えて、王都に戻る道中、リファは、ドリドロスに、ついて色々と話してくれた。


 初めて、魔法が使えた時、いっぱい褒めてくれた事。


 初めて、魔法で人を傷つけた時、沢山叱られた事。


 初めて、夢を語った時、頑張れって言ってくれた事。


 その、1つ1つがリファに、とっては、大切な忘れられない思い出だと言う事。


 そして、またいつか一瞬笑い会えたらと……


 そう語るリファの顔は、涙で溢れて前も見えない状態だった。


「リファ済まなかった……」


 ドリドロスは、いつから目を覚ましていたかは、分からないが、その目、薄らと泣いている様にも見えた。


 リファが何故こんな事をしたかをドリドロスに、問い詰めると、ドリドロスは、静かに語り始めた。


 リファがドリドロスの、研究を見てしまい、それを話したから、研究がバレて捕まったと、リファは思っていたが、真実は、違った。


 リファが研究の事を喋ったが、誰もその話は、信じておらず、陰でリファの事を、皆が嘘つき呼ばわりしていだそうだ。


 自分の弟子が、嘘つき呼ばわりされているのに、腹が立ったドリドロスは、自ら研究を、王宮に分かる様にし、捕まる事で、リファの言葉が嘘じゃ無い事を証明したのだった。


 それから、王宮で取り調べを受けた際に、王宮の取り調べ官に、こんな研究をしているやつの弟子などろくな人間にならないと、リファの事を罵倒され、それが今になっても許す事が出来ずに、今回の事件を起こしたと言う話だ。


 全ては、リファを思うドリドロスの、過剰な思い入れが原因だっのかも知れない。


 ドリドロスの罪は、決して軽いものでは、無く最悪死刑も、十分にあり得るのだ。


 ただ、その話を聞くと、人間だけに、同情したい気持ちも少しながら感じてしまう。


 ドリドロスが、どうなるかは、王宮の判断を待つしかないが、リファは、どうにか掛け合って死刑だけは、回避させると、心の内を語った。


 王都に着くと、グランデ様がドリドロスを王宮に、連れていた。


 リファは、その後ろ姿を見えなくなるまで、じっと見つめると、溢れそうな涙を、拭き取り笑顔で「帰ろっか」と2人に言った。


 俺達に出来る事は、無いかも知れないが、それでもどうにかして、リファを支えて行きたい。


 だって俺とニーニャとリファ3人でパーティーなのだから。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る