第11話 王都

 王都出発当日、3人で、最後の朝食を取った。


「マルネスさん、お世話になりました」


 龍が、今までの感謝を述べると、マルネスさんもそれに返す様に返事をした。


「龍君、キミは、家族なんだ」  


「だから、そんな挨拶は、不要だよ」  


「困った時は、いつでも2人で戻って来なさい」


 その家族という言葉の、響きは何度聞いても心地の良いものだと龍は、感じていた。


「それから、娘を宜しく頼むよ!」  


 マルネスさんのその言葉に、龍は、強く返事をした。


「はい!」  


 朝食を食べ終わると、再度マルネスさんに挨拶をして、出発場所のギルド前に向かう事にした。


「お父様、行ってきます!」


 その言葉に、マルネスさんは、俺とニーニャを姿が見えなくなるまで送り出してくれた。


 ギルド前に着くと、既にリファとグランデ様が馬車の前で待っていた。


「2人とも、準備はいいか」


 グランデ様の、その言葉に頷くと、馬車の中に1人ずつ乗り込んだ。


「よし、馬を出せ!」


 グランデ様の声に、馬車の運転手は、すぐさま馬を走らせた。


「王都までは、まる1日掛かるからな」


 そう話を切り出したグランデ様に対して、リファが皮肉を言った。


「グランデが、走ればもっと早く着くと思うな」


 リファのその言葉に、ニーニャと龍は、苦笑いしか出来なかった。


 暫くすると、馬車がいきなり急ブレーキを掛けた。


「どうしたんだ!」


 グランデ様が慌てて外に出ると、馬車の行く手に人が倒れているのが見えた。


 龍は急いで、その子に近づき抱き起こすと、お腹に酷い怪我をしていた為、直ぐにスキル、リカバリーで治療した。


 暫くすると、意識を取り戻した。


「大丈夫」  


 龍のその言葉に、気付くとその子は、慌てて喋り始めた。


「助けてください! 村が大変なの」


 その、同様具合から、ただ事では無いと察した龍達は、その子を落ち着かせると、話を聞いた。 


「まず、私はユニと言います」


 ユニと名乗るその子は、近くのエルフ族の子どもで見た目は、10才ぐらいの女の子だった。


「村が、進化物に襲われて……」


 どうやら、この近辺のエルフ族の村が、いきなり現れた、虎の見た目の進化物に襲われたそうだ。


 ユニは、襲われながらも何とかここまで来たと話した。


 事態を把握した龍達は、グランデ様の指示で村に向かう事にしたが、ニーニャは、ユニの護衛の為馬車に残した。


「虎の進化物か、あの時以来だな」


 グランデ様の言うあの時とは、ニーニャのお父さんとギルマスのバルクさんに、助けられた時らしい。


 ここで、龍はリファに、言われたある事を思い出した。


「グランデ様も、1人で進化物を倒せると、リファから聞きましたが、何故その時は、やられそうになったのですか」


「それはな……」


 グランデ様の、話だとその時の進化物は、普通の進化物と明らかに違う程の力だったそうで、マルネスさんとバルクさんの加勢で、何とか致命傷を負わせたが、逃げられてしまいそれ以来生死は、分かっていないと言う話だった。


 その進化物の事をグランデ様は、こう呼んでいる。


 何かしらの変化が加わった進化物、変進物へんしんもの


「もしかしたら、その時の変進物かもしれない……」


 普通の、進化物もかなり凶暴だが、村人全員でかかれば倒せない訳じゃ無い。


 実際、王宮の兵士とかなら、通常10人程で討伐できる。


「因みにだか、龍君が倒したあの熊も、恐らく変進物だ」


 確か、バルクさんが言っていた。


 あの熊に、出向いた王宮兵士が壊滅されたと。


「龍君、状況次第では、早速仕事してもらう事になるかも知れない」


「私の力でも、変進物は1人では、倒せ無いからな」


 グランデ様の、その険しい顔つきに、緊張感がます。


 村に着くと、その悲惨な状況に言葉を失った。


「これは、間違いなく変進物だな」


 辺りは、変進物に食い散らかさせ見るも耐えないものだった。


「リファ、済まないが探索魔法を頼む」


 グランデ様のその言葉に、リファは、探索魔法、レーダーで辺りの生物反応を見た。


 その時、リファが大声で叫んだ。


「正面、草むらから来るぞ!」


 すると、リファの言った通り、巨大で口の周りに血の痕が付いた虎の見た目の変進物が、姿を表した。


「あの時の、ヤツだ!」


 そう一言だけ言うと、グランデ様はスキル、パワー瞬時に発動し、腰の剣を抜くと、一気に変進物との距離を縮め、フルパワーで斬りつけた。


「ガオーーーー」


 剣は、虎の首元にクリーンヒットしたが、その身体の硬さで、致命傷には、ならなかった。


 グランデ様は、更に間髪入れずにひたすら剣を振った。


 その状況に、龍も加勢しよとした瞬間グランデ様が、叫んだ。


「いい、龍君は、手を出すな!」


「これは、リベンジでもあり、過去の俺を超えるチャンスなんだ!」


 その、威圧の凄さに、龍はこの戦いを見届ける事にするしかなかった。


 龍は、初めて見る命のやり取りに、これまでに無い程の緊張感を覚えた。


 グランデ様と、変進物の虎との戦いは、互角だった。


「このままじゃ、埒があかないな」


 そう言うと、グランデ様はスキルを発動した。


「スキル――パワークラフト!」 


 すると、グランデ様の剣は、激しい光を纏い、気付いた時には、変進物の虎の首は、無くなっていた。


 その、桁外れの速さと威力に、龍とリファは呆然とした。


「なんとか勝てたか」


 グランデ様は、スキルを解除すると剣を鞘に戻した。


「グランデ、今のはなんだ!」 


 聞いた事の無いスキルに、リファは、興奮気味だった。


「今のは、俺のオリジナルスキル、パワークラフトだ!」


「俺は、2つのスキルを持つ、ダブルスキル持ちだからその2つを組み合わせて作った技なんだ」


「人間族のスキル、クラフトで剣を一瞬でその対象物を斬るのに最適な形状に変えて、ビースト族のスキル、パワーを身体にではなく、剣にかけて威力を上げその2つを融合させる事により、桁違いの速さと威力を出せる技だ」


 リファは、その説明を聞くと、開いた口が塞がらなかった。


「そもそも、パワーって身体以外の強化も出来るのかよ!」


 グランデ様は、当たり前の様かに言った。


「なんだ、知らなかったのかリファ」


 リファは、呆れた表情で言った。


「知る訳無いでしょ!」


「ビースト族ですら、そんな使い方してないぞ!」


 その言葉に、グランデ様はリファの頭を優しく叩いて言った。


「いいかリファ、目に見える事が全てじゃ無いんだぞ!」 


 グランデ様はその後、変進物の討伐を確認すると、リファに遺体を持っていく様に指示した。


 辺りを、リファの探知魔法で、確認したが人の気配は、無かった為、3人で馬車に戻った。


 馬車に戻ると、ニーニャに、村での事を説明した。


「そんな事になってたんだ……」


 ユニを1人には出来ないので、相談した結果、王都に連れて行く事になった。


 ユニには、酷な話かも知れないが、隠しとく訳にもいかないので、村のでの事を包み隠さずに話した。


「済まない、ユニ村に着いた時には、もう……」


 ユニは、暫く泣いた後、落ち着きを取り戻した。


 再び、馬車を走らせ、王都に向かいながらユニに話を聞いた。


「ユニちゃんは、今幾つなの」


 ニーニャが優しくユニに聞いた。


「ユニは、今10才だよ!」


 エルフ族は、長寿だと聞いていた龍は、リファ同様ユニもロリババアかと心配したが、当てが外れてホッとした。


 ユニは、産まれてからずっとさっきの村に住んでいた為、他の村や町には、知り合いが居なく行くあてが特に無い事が分かった。


「とりあえずは、王宮保護と言う形になると思うが、それも王都に、着いてからじゃ無いとなんとも言えないな」


 ニーニャは、グランデ様に王宮保護にていて尋ねた。


「王宮保護は、迷い子や孤児などを一時的に王宮が預かる制度で、親や引き取り手が見つかるまでの間有効なんだ」


「ただ、それには期間があって半年経っても引き取り手がない場合は、孤児院に送られてしまう」


 ユニの、場合王宮保護された所で、引き取り手が居ないので、半年で孤児院に送られる事は、確定だった。


 ニーニャは、更に聞いた。


「王宮保護された子どもの、引き取り条件は、なんですか」


 龍も、大体話が読めてきた。


 ニーニャは、恐らくユニを引き取ろうと考えているのだろう。


「条件は、親や、親族なら特に無いが、血縁関係の無い者が引き取る場合は、年齢18才以上で、犯罪歴が無く、金銭面も余裕がある者、更にそこから王宮が身辺調査をして問題が無ければ晴れて引き取り手になれるんだ」


 条件は、かなり厳しかった。


 ニーニャは、まず年齢すら基準に達していなかった。


 ニーニャの、表情は、見るからに暗かった。


「なら、俺が引き取るのはダメかな」


 龍の、その言葉に、ニーニャは俯いた顔をパッと上げた。


「龍君、本気なのか」


 グランデ様のその言葉に、龍は、強く頷いた。


「子どもを育てるのがいかに大変かは、理解してる」


「ニーニャとマルネスさんは、見ず知らずの俺を家に住まわせてくれて、俺を家族だと言ってくれた!」


「その温かさがあったから、今の俺が居るんだ」


「だから、その温かさを今度はユニに与えたい」


 その真剣な目つきに、嘘偽りの無いと判断し、グランデ様は、言った。


「龍君、キミの本気度は、理解した」


「だから、王宮には、私の推薦状をだそう」


「推薦状ですか」


「そうだ、それが有れば直ぐにでもユニの保護者になれる」


 龍は、その言葉に「お願いします」と返すと


 ユニに向かって「俺達の家族にならないか」と言った。


 ユニは、その真っ直ぐな笑顔で「うん」と頷くと龍に抱きついて「ありがとう」と涙を流した。


 夕食を食べ、また馬車に揺られていると、満腹の気持ちよさから、直ぐに寝てしまった。


「龍、寝ちゃったね」


 リファがそう言うと、ニーニャは、自分の膝の上に龍の頭を置いて、膝枕をし、頭を撫でながら「ありがとう」と呟いて、ニーニャも、眠りの中に落ちていった。


 明け方、目を覚ますと、行手の先には、既に王都が見えていた。


「もうじき着くぞ!」


 グランデのその言葉に、全員起きると馬車を降りる為の準備をした。


 暫くして、王都の入り口に着くと、そこには、とても立派で巨大な門があった。


 その門が開き始めると共に、龍の新たなる冒険への扉も開いたのであった。

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