第10話 あの日の約束

 2日後に、王都に行く事になった龍とニーニャは、その準備を進めていた。


「そう言えば、2人で王都に行くって事は、リファとのパーティーは、どうなるんだろう」


 昨日は、その場の事で、手一杯で、そこまで頭が回っていなかったのだ。


 これは、まずいと思いニーニャと急いでリファの所に向かったが、家は、留守で居場所が分からなかった。


「リファ、怒ってるかな……」


 ニーニャが心配そうに言った。


 リファとは、せっかくパーティーを再結成したばかりなのに、直ぐに、王都に行く事になった為、リファは怒ってるのではないかと、ニーニャは思っていたのだ。


 リファが、見つからないので、諦めて2人は、家に帰るとそこには、なんとリファが居たのだ。


「あっ、お二人さんお帰り」


 どうやら、ただ単に入れ違いになっていただけだった。


 ニーニャは、リファに抱きつくと、慌てて謝罪した。


「ごめんなさい、リファ」


「せっかくパーティー再開出来たのに……」


 そう今にも泣きそうな、ニーニャの顔を見たリファは、なんでニーニャがそんな深刻な表現をしてるのか、疑問だった。


「なんで、そんな深刻そうなの2人とも」


 龍も、ニーニャ同様謝罪した。


「ごめん、リファせっかくパーティー組めたのにまた解散みたいになっちゃって……」  


 その言葉に、リファは、大爆笑した。


「にゃはははは!」


「何かと思ったら、そう言う事か」


 ニーニャと龍は、その笑いに呆気を取られた。


「大丈夫だよ、私も王都行くから!」


 その予想外過ぎる発言に、度肝抜かれた2人は、とりあえず落ち着いて、話を聞く事にした。


「リファも、王都に行くって、いいのか」


 リファが答える。


「大丈夫だよ、それにパーティー再開してまだ、一か月ちょとだよ!」


「それも、ほとんど龍の特訓で、依頼なんて最初のイノシシ討伐しかやってないんだ」


「そんなで、せっかく再開した、パーティーを解散させる訳ないじゃん」


 すると、龍はある疑問が浮かんだ。


 そもそも王宮入りしたら、魔族隊や兵士、騎士団になってしまうから、パーティーでの依頼は、難しいんじゃ無いかと。


 その事をリファに伝える、リファは、ニヤッと笑った。


「それは、大丈夫なのです!」


 どっかの、ク◯リャ◯カさんの、ルールメイトさん募集中見たな言い回しをしながらも、話を続けた。


「実は、昨日2人が帰った後、グランデと話をしたんだ!」


「パーティー再開したばかりなのに、どうしてくれるんだって」


「で、色々言って結果的に龍は、王宮入りはするけど、役職には着かずに、3人でパーティー組みながら、好きに依頼をこなして良いって事になったの!」


 その、色々な部分の話しが、気になったが、リファの手の回し用に、2人は驚いた。


「えっ、じゃあ王都で暮らす事以外は、今と変わらないって事」


「そう言う事だね!」


「緊急事態の時や龍が必要な時以外は、基本自由だよ!」


 龍は、更にリファに問いかけた。


 何故そんな許可が降りるのに、テレポートでの通いは、許されなかったのかと言う事を。  


「じゃあ順を追って説明するね!」


 リファが、分かり易く説明してくれた。


 それによるとこうだ。


 まずは、俺が王宮入りしなきゃいけないのは、俺が王国にとって無害な存在だと言う事の証明と、王宮での依頼は、王宮入りした人しか、受けられない為、俺を王宮入りさせないと、緊急事態の時も、俺に依頼を出す事が出来ないからだと言う事。


 次に、テレポートでの通いは、昨日グランデ様が言った通り、王宮入りした者は、王都で暮らすのがルールで、それを特別に許可してしまうと、他の人との平等制が損なわれ、指揮の低下を招くからと言う事。


 それと、龍の監視って意味もあったらしいが、テレポート使えるし、昨日俺と戦ったグランデ様がその必要性は、無いと判断したかららしい。


 つまりは、王宮の緊急事態用の秘密兵器的な役割が俺なので、普段は、自由で構わないと言う事だ。


「それだけなら、通いでも良いのにな……」


 龍は、少し不満げに、そう言った。


「まぁ、王宮は、規律とかルールに厳しいから、しょうがないよ」


「一応、王都に住む事以外は、あまり変わらないんだし、よしとしようよ」


 珍しく、リファが龍をなだめると、リファも王都に行く準備をすると帰ろうとした。


 帰り際、リファは、龍とニーニャに言い忘れた事を言った。


「あっそうだ、王都には行くけど、2人とは違う家に住むから、安心してイチャイチャして良いぞ!」


 2人が、言葉に詰まっている内に、リファは、そそくさと帰って行った。


 2人も、一通り準備を終えると、王宮への出発前日の、明日は、この町、パープルでの思い出作りの為に2人で町で遊ぶ事にした。


 明日は、宿屋ニーニャでの最後の手伝いになる。


 朝早く、少し辛い仕事だったが最後となるとなんだか寂しいものだった。


 龍は、明日に備えて、今日は、早めに寝る事にした。


 布団に横たわり、眠りに着くと、久々にアイツが出て来た。 


「久しぶりじゃの!」


 その、久々の登場に龍は、ボケてみた。


「誰だっけ」


 いつもとは、逆の展開になる。


「神様じゃ、おっちゃんだぞい!」


 おっちゃんのツッコミの速度も中々のものだった。


「お主の、生活を神界からちょくちょく観ていたが、お前さん意外と泣き虫なんじゃな!」


 龍は、恥ずかしさのあまり声を荒げた。


「そんな所まで、観てんじゃねえよジジイ!」


 龍のジジイ呼ばわりにおっちゃんも、声を荒げた。


「ジジイは、辞めろと言ったじゃろ!」


 そんな、言い争いも終わり、一応近況報告的なのを済ませると、おっちゃんが何やら真剣な顔つきになった。


「龍、キミと会うのは、これで最後じゃ!」


 おっちゃんの事なんて、何とも思っていなかったが、最後となると、意外と寂しかったりする。


「神界からお主を観て、これ以上お主の監視は、必要無いと判断したのじゃ!」


「だからもう会う必要がないんじゃよ!」


「これからの、お主の人生幸せになる様ワシも願っておる」


「最後に、この言葉を授けよう!」


 そう言うと、おっちゃんは俺の前に立った。


「言葉は、終わらせてこその、言葉じゃ!」


 その「言葉は、終わらせてこその、言葉」の意味は、分からなかったが、何となく心に響いた。


 おっちゃんは、その言葉を告げると、煙の様に白いモクモクを出しながら消えていった。


 龍は、心の中で呟いた。


(ありがとな、おっちゃん)


 おっちゃんと別れ、目が覚めると、丁度朝だった。


 今日は、ニーニャとお出掛けする日だ。


 今日で最後の店の手伝いを終えると、2人は、いつもよりお洒落な服に着替えて町に行った。


 進化物を討伐した報酬を王宮がかなり弾んでくれたので、3人で山分けしても、かなりの余裕があった。


 無論、ニーニャの家にお世話になっているので、その宿代として、マルネスさんにも渡そうとしたが、娘の命の恩人からは、受け取れないと頑なに拒否されてしまった。


「龍君、どこから行こうか!」


 ニーニャはとても楽しそうに、そう言うと、龍の手を引っ張ってあっちこっち連れ回した。


 ニーニャの好きな花を見たり、出店のアイスを食べたり、夕食は、ちょとだけお洒落な店に行ったりした。


 気付くと、辺りは暗くなっていたが、ニーニャが最後に行きたい場所があると言ったので、そこへ行く事にした。


 目的地に、着くとそこは、街灯も人気もない、場所で1つのベンチが、置いてあるだけだった。


「ニーニャ、ここは……」


 ニーニャは、無言で龍の顔を見ると、空の方を指差した。


「うわ――――綺麗!」


 ニーニャが指差した空は、夜の星々で埋め尽くされた天然のライトの様だった。


 暫く、ベンチに座りながら、夜空を楽しむと、ニーニャが口を開いた。


「この場所で、お母さんと、よく星を眺めてたんだ……」


 その顔は、お母さんを思い出して、悲しげと言うよりも、懐かしさに浸る様な表情に見えた。


「お母さん亡くなってから、ここに来るの初めてなんだ」


「どうしても、1人で来れなかったの!」


 ニーニャは、この場所がとても気に入っていたが、1人で来ると、どうしてもお母さんを思い出してしまいそうで、来れなかったらしい。


「でもね、龍君と一緒なら来れた!」


「多分、龍君と出逢わなければ一生ここには、来れなかったと思う」


「龍君は、私の悲しい気持ちを楽しい気持ちに、変えてくれたの」


「だからね、なんて言葉にしていいか判らないけど」


「龍君…………」


「「とってもとってもありがとね!!」」


 ニーニャは、満面の笑みでそう言うと、話を続けた。


「私ね、龍君と会ってから思ったの」


「大事な事って言葉にしなきゃ伝わらないなって事!」


「ありがとう、ごめね、嬉しかった、悲しかった、そう言うのをちゃんと最後まで言わないといけないなって」


「だからね、今の気持ちをちゃんと伝えようと思ったら、あんな言葉になっちゃった!」


 それを聞いて、龍はある事を思い出した。


(言葉は、終わらせてこその、言葉)おっちゃんのその言葉の意味が、今分かった龍は、自分の発言が言葉にすらなっていない事に気付くと、決心を固めた。


「ニーニャの言う通りだと思う!」


「俺は、今まで言葉すらまともに出来ていなかった」


「何を言うにも曖昧で、ニーニャを困らせていたと思う」


「本当にごめん……」


「でも、もう辞めた!」


「自分の、思いや感情をちゃんとニーニャに伝えるよ!」


「だから、聴いて欲しい、あの日、リファの家からの帰り道に話した、あの話の続きを!!」 


 ニーニャは、無言で頷くと、決して龍の顔から目を離さなかった。


「ニーニャ俺も、同じだ」


「辛い時も、悲しい時も、苦しい時も、ニーニャが居てくれたから乗り越えられた!」


「ニーニャがいなきゃ俺は、まだ死んだ現実を受け入れられず、1人で悲しみに溺れていたと思う」


「あの時、ニーニャが言ってくれた(大丈夫)って言葉が何よりも温かくて、優しくて、落ち着いて……」


「ニーニャとなら、どんな事も乗り越えられると思った」


「だから、これからも一緒に居よう、そんで、お互いのいい所も、悪い所ももっと良く知って、それで……」


「「2人で幸せになろう」」


「「付き合ってください! ニーニャ!」」


 ニーニャの顔は、その嬉しさからだろうか、涙で溢れかえっていた。


 その涙が、夜の星々に照らされ、光輝いている様に見えた。


 ニーニャは、その涙を洋服の袖で拭き取ると、その夜の明かりに負けない程、キラキラの笑みで返事をした。


「「ありがとう――龍君――喜んで」」 


 その答えと同時に、2人は、ゆっくりと顔を近づけると、光を増した夜空の祝福の中、そっと、口づけをした。

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