第9話 王宮

 次の日、王宮との交渉をどうするか考える為に、ニーニャと龍とリファは、ギルドに、集まっていた。


「とりあえず、話を整理しようか!」


 リファが、提案すると、2人もそれに賛同した。


「まず、龍の絶対条件は、ニーニャと離れない事だよね」


 龍が、頷くとその話に少し付け足した。


「後は、俺の存在を知っている者へ危害を加えない事かな」


「よし、じゃあ王宮に入る事は、別に構わないんだな」


「ああ、構わない」


 しかし、王宮入りすると王都で暮らす事になる為、その間の話をリファは、切り出した。


「王宮入りしても、王都では暮らさない」


「テレポートで、通える様に交渉する予定だ」


「俺がこの町にいる時に、用が有ればテレパシーで呼んでくれれば、テレポートを使って一瞬で王都まで行けるし、このくらいの、条件は、呑んでくれると思う!」


 リファとニーニャも、龍の考えに、同意した。


「じゃあ、今のところ龍が王宮入りするのに出す条件は、龍の素性を知っている人に危害を加えない事とニーニャと離れない為に、この町に住みながら王宮入りする事で良いかな!」


「そうだね!」


 話が纏まるとリファが、ある話を切り出した。


「次に、物凄い問題だよ!」


 龍は、何となく自分の事が言われる気がした。


「龍の手加減問題!」


 やっぱりその話かと龍は、思いながらも確かに大問題だ。


 今の状態では、手加減したつもりでも人が爆散してしまう程の力なのだから。


「とりあえず、王宮の人会う前に、力の制御を出来る様にならないとな」


「だから、今日この後から特訓だからな!」


 リファは、何故かテンションが上がっていた。


 すると、そこにギルマスのバルクさんが来た。


「ちょといいか」  


「昨日の事王宮に、報告したら直ぐに会いたいとか言い出してな」


「色々、難癖付けて一か月後ここに王宮の連中が来る事に決まった!」


 バルクさんのお陰で、結構な期間を稼げたのでひとまず安心した。


「バルクさん、ありがとうございました」


 龍がお礼を言うと、軽くて手を上げて歩いて行った。


 午後から、リファの特訓が始まった。


 ニーニャもリファと一緒に特訓に付き合ってくれている。


「ほーらまだそれじゃ人死んじゃうよ!」


 リファの創作魔法 ソリッドで、人型人形を作りだし、それを壊さない程度に、攻撃する練習だ。


「俺の中だとかなり 手加減してるつもりなんだけどな」


 思う様に行かず、かなりむず痒い。


「いい龍、あんたは神様の、力でいきなり強くなったから自分でその感覚を分かってないの」


「だから、とにかく慣れなさい!」


 リファの特訓は、毎日続いた。


 1日、2日、3日……そして、王宮との交渉前日。


「良くやったわね!」


「これなら合格よ」


 リファとニーニャのお陰で、力の制御どころか、身体全体のコントロールすら、出来るようなった。


「龍君、お疲れ様、そしてよく出来ました!」


 ニーニャは、そう言うと龍の頭を優しく撫でた。


 龍は、リファの前で恥ずかしかったが、それよりも嬉しかった。


「私の前でそんなイチャイチャしないでよね!」  


 リファは、口ではそう言っていたが2人に向けたその目は、とても穏やかなものだった。


 王宮との交渉当日、話し合いの場所はギルドで、同伴するのは、ニーニャ、リファ、バルクさん、それと何故かマルネスさんまで居た。


 暫くすると、馬車の音が聞こえた。


 ギルドの前に馬車が止まると、中からは綺麗な、貴族ぽい服を着た、ガタイの良い男の人が出てきた。


 それを見ると、バルクさんとマルネスさんは、その男の人に前に行った。


「久しぶりだな、バルク、マルネス」


「ああ、久しぶりだなグランデ」


 その名前を聞いて、その人が誰だか分かった。


「王宮騎士団長……」


 まさか、王宮騎士団長が来るとは、思って居なかった3人は、度肝を抜かれた。


 グランデ様が、龍達の方へと歩いて来た。


「なんだ、お前も居たのかリファ」


 リファは、王宮魔族隊の元隊長だったので、グランデ様とは、顔見知りの様だった。


「げっ、来るのってあんただったのかよ、グランデ」


 リファは、グランデの事があまり得意ではない見たいだ。


「初めまして、王宮騎士団隊長、グランデだ、君が龍君だね」


 その堂々たる姿に、萎縮しそうになった龍は、またまたあれをやってしまった。


「初めまして、観音會3代目総長、大和田龍と申します」


「今日は一発カマシに来たんで夜露死苦!」


 何をカマシに来たのかは謎だが、龍は、何故か落ち付いた。


 とりあえず、話をする為にギルドの会議室に場所を移す事にした。


 会議室に、着くとニーニャが、気になっていた事を

聞いた。


「お父様とグランデ様は、お知り合いなのですか」


 その質問に、グランデ様が答えた。


「ニーニャちゃんだね、小さい頃に実は、会ったことあるんだぞ!」


 ニーニャは、サッパリ覚えが無さそうだった。


「マルネスとバルクとは、一時期パーティーを組んで一緒に冒険をしていた」


「期間は、短かったが、最高に楽しかったよ」


「それに、マルネスとバルクは、俺の命の恩人でも

あるんだ」


 そう言うと、マルネスさんが会話を止めに入る。


「その話は、もう良いだろ」


 マルネスさんとバルクさんは、照れ臭そうにしていた。


 どうやら、パーティーを組む前一匹狼だったグランデ様は、依頼中に、進化物に遭遇して殺されそうになった所に2人が助けてくれたそうだ。


 マルネスさんは、グランデ様と一緒のパーティーだったと言うと、何となく自慢げに聞こえそうだと思っていたので、この話をニーニャにもした事は、無かったらしい。


 マルネスさんは、久しぶりにグランデ様に会えるとバルクさんから聞いて今日ここに一緒に来たのだった。


 一通り雑談が、終わったところで、グランデ様が本題に入り始めた。


「さて、龍君報告によると、王宮で捜索していた進化物をキミが倒したそうだね」


 龍は、頷く。  


「よし、じゃあ証拠品を見せてくれるか」 


 リファが、空間魔法ポケットの中の、進化物の死体を

見せた。


「間違いないな」


 そう言うと、龍にギルドカードの提示を求めた。


 龍は、偽造された、ギルドカードをグランデ様に見せると一瞬で、それが偽物のステータスだと見破られた。


「何故、カードを偽造した」 


 グランデ様がバルクさんに、問いかけた。


「これには、色々訳があってな……」


 これ以上嘘は、隠しきれないので、本当のステータス表を見せる事にした。


「嘘だろ……」


 龍の、ステータス表を見てグランデは、動揺を隠せないでいた。


「龍君、キミは何者なんだ!」 


 元々、その事を話すつもりだったので、龍は、自分の素性を包み隠さずに、全て話した。


 その話を聞いた、グランデ様は、早速王宮へのお誘いをしてきた。


「龍君、キミの力は膨大過ぎる」


「ハッキリ言ってこのまま、キミを野放しにする事は、到底出来ない」


「だから、王宮に入り、キミが安全な人だと証明するんだ!」


 その、予想通りの展開に、龍は、交渉に入った。


「グランデ様、確かに貴方の言う通りでしょう」


「ただ、王宮入りには、条件があります」


「なんだ」


「1つは、俺の素性を知っている者へ危害を食わない事」


「2つ目は、この町からの通いを許してもらう事です!」


 グランデ様は、追求した。


「1つは何ら問題ない、了承した」


「2つ目は、どう言う事だなんだ」


「この町から王都までは、馬車で1日掛かる」


「それをどうやって通いで王宮まで来るのだ」


 龍は、テレポートについて、説明した。


 人の記憶に、ある場所に瞬間移動できる技だと言う事


 一緒にテレポートする人が持っている記憶の場所にも行ける事


 それを利用して、グランデ様とテレポートを使い王都へ行き、1人でもテレポート出来る様にする事


 以上を話した龍は、改めてこの町からの通いの許可を求めた。


 グランデ様は、少し考えると返答をした。


「済まないが、それは許可出来ない」


 その予想外の回答に、龍は、困惑した。


「どうして、何がいけないのですか!」


 龍は、思わず声を荒げでしまった。


「そもそも、こっちは、王宮なんかに入りたくは無いんだ」


「それを、たったこれだけの条件で、入ってやると言ってんだよ!」


 グランデ様は、冷静に、言葉を返す。


「王宮入りした者は、王都で暮らす」


「これは、絶対のルールなんだ」


「1人に、特別許可を出してしまうと、全体の指揮下が低下する」


「だから、それは許可出来ない」


 グランデ様は、更に話を続ける。


「龍君、何故そこまで、この町にこだわるんだ」


 龍は、ニーニャの顔を見ると、その答えを言った。


「ニーニャと約束したからだ」


「ずっと一緒に居ると、必ず守ると、約束したからだ」


 その言葉に、グランデは提案をした。


「ニーニャちゃんも一緒に王都に来るのは、ダメなのか」


「ダメです」


「ニーニャには、家の仕事もあるし、それにニーニャにとってこの町は、とても大切な場所だから……」


 すると、グランデ様が、とんでもない事を言い出した。


「龍君、俺を倒してみろ!」


 その予想外の発言に、龍は戸惑った。


「龍君、キミは、強いんだろ」


「だったら、俺を倒して無理やり首を縦に振らせてみろ」


 龍は、訳が分からなかったが、そのグランデ様の目は本気だったので戦う事にした。


 外に出て、お互いが向き合うと、龍は、久々の感触に心が踊った。


「タイマンじゃ! グランデ」  


 龍の、突然の代わり様にも、全く動じないグランデ様は、いきなりトップギアに上げた。


「スキル――パワー」


 元々身体の大きいグランデ様が、ビースト族の固有スキルによって更に大きな身体になった。


 だか、勝負は、一瞬で終わった。


 フルパワーで龍に殴り掛かった、グランデ様だったが、龍は、その攻撃が当たる前に腹に一発パンチを入れグランデ様を気絶させた。


 リファが、龍に近づき、一言言った。


「やるじゃん!」


 いつもとは、違うリファのその言葉が、龍には最高に嬉しかった。


 暫くして目を覚ましたグランデ様は、何が起きたかも覚えていなかった。


「俺は負けたのか……」


「異世界最強は、伊達じゃないな……」


「1つ聴かせてくれ、今のはどのくらい本気でやったんだ」


 龍は、すこし考えると答えた。


「1%も出してないです」


 グランデ様はその回答に、少し笑うと、龍の顔を見て、またいつか、やろうと握手を交わした。


 これで、通いでの王宮入りが、出来ると決まった時、マルネスさんが、ニーニャに、話し始めた。


「ニーニャ、龍君と王都に、行きなさい!」


 その唐突な、発言に、ニーニャは、言葉が出なかった。


「ニーニャお前は、今まで良く頑張ってくれた」 


「店の手伝いで、自分を犠牲にしてやりたい事も我慢して」


「だから、これからは好きな事を好きな様にやってみなさい」


「店の事は、心配しなくていい」


「仕事量を抑えて、私ものんびりやっていく事にするから」


 マルネスさんの、その言葉にニーニャは、涙が止まらなかった


 ニーニャをそっと抱きしめたマルネスさんは、ニーニャ向かってこう言った。


「「大丈夫」」


 そんな光景を見せられると、なんだか家族が羨ましく感じた。


「おい、マルネス最初からそのつもりならなんで、俺と龍の闘いを止めなかったんだ」


 確かにそうだ。


 最初から言ってればもっと早く話が終わっていたと言うのに。


 マルネスさんは、くっすっと笑うとその答えを言った。


「グランデ、お前の頭の硬さにちょっとムカついたから、龍君に、一発カマシて、貰おうと思ったのと、大事な娘を預けるのに、ふさわしい男かどうかを、試したくてね!」


 そう、グランデ様に言うとマルネスさんは、龍に向かって

深々と頭を下げながら「娘をお願いします」と言うと、一足先に家に帰った。


 全てが、話し終わった時には既に夜になっていた。


 龍とニーニャは、2日後王都に行く事になった。


 テレポートで行く予定だったが、せっかくなのでグランデ様と一緒に、馬車で行く事にした。


 とにかく長い1日が、終わり、ニーニャと家に帰ると、マルネスさんがご飯を用意して2人の帰りを待っていてくれた。


「お疲れ様――食べよっか」


 そう言うと、3人でご飯を食べた。  


 3人での食事も、後2日で終わる、そう考えるとなんだか少し、寂しかった。


 ご飯を食べながら、マルネスさんは、言った。


「龍君、キミは、もう私の家族同然なんだよ」


「ここは、龍君の家でもあるんだ」


「私もニーニャも、困った時は、全力で龍君を助ける」


「辛かったら、いつでも頼りなさい」


「ニーニャも龍君も私の大切な家族なのだから」


 忘れていた家族の、感じ


 忘れていた家族の、優しさ


 そして、忘れていた家族の絆 


 その全てが一気思い出すと、溢れた涙が止まらなかった。


 それを見た、マルネスさんは、龍をそっと抱きしめてあの言葉を言ってくれた。 


「「大丈夫」」


 久しぶりの、家族の暖かさは、心地の良いものだった。

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