第7話 繋がり

リファの家を出た2人は、夜の町を歩きながら帰っていた。


「付き合ってくれてありがとう」


「大丈夫だけど、どっか寄る所でもあるの」


 ニーニャは、俯いて、顔を赤らめながら言った。


「龍君と、喋りたくて……」


 その表情と声のトーンに、龍も思わず意識してしまい言葉に詰まった。


「おっ、俺も喋りたかった」


 その行き場の無い会話に、暫く沈黙が続いた後、ニーニャが話を切り出す。


「ねぇ、龍君」


「どうしたの」


「龍君の、名前の由来って何」


 唐突な質問に、少し戸惑うも、話を続けた。


「龍って名前は、龍つまりドラゴンの様な強い人になって欲しいって親父が付けた名前なんだよ」


「龍って、ドラゴンって意味なんだ」


「そう、前の世界では、呼ばれてた」 


「そうなんだね」 


「ニーニャの名前の由来は、何」


 ニーニャは、恥ずかしそうに、言った。


「ニーニャて言うのは、こっちの世界の言葉で、出逢いって意味なの」


「両親が、素敵な人と、出逢います様にって付けてくれた名前なの」


「私ね、運命とかあんまり信じない方なんだけどね、龍君との出逢いは、何となくその運命なんじゃ無いかと思ったの」


「私達の、出会いって、あの草原が最初でしょ……」


「いきなりドラゴンが現れて、そこにたまたま、私と、龍君がいて、私を助けてくれた」


「それで、私と龍君が出逢い、今ここにいる……」


「それって凄い事だと思うの!」


「なんと言うか、初めて会ったその日から龍君と居ると、なんだか心地良くて……」


「でも、それと同時に龍君がいつかどっかに行ってしまう事が怖くて……」


 そう話すニーニャは、手を強く握りながら震えていた。


「ごめんね、なんか変な――」


 その瞬間、龍は、ニーニャを自分の胸元に引き寄せ強く抱きしめた。


「龍……君」


 龍は、溢れ出す感情を抑えきれず、ニーニャに、その想いをぶつけた。


「ニーニャ俺は、何処にも行かない!!」


「俺だってあの時ニーニャと、会えた事を運命なんじゃ無いかと思った」


「前世界で、死んだと言われ、息つく間も無く異世界に飛ばされて、不安で不安で、でもそんな事考えてる暇なんか無くて、必死に感情隠して、それでもニーニャと出逢えたから、頑張れた!」


「昨日、隠してた感情が、溢れた時もニーニャの優しさと温かさがあったから、死んだ事も受け入れる事が出来た」  


「会ってからまだ数日なのに、何故かニーニャとは、ずっと一緒にいたかの様な、気持ちなんだ」


「だから、これからも一緒に居よう、そんで、お互いのいい所も、悪い所ももっと良く知って、それで……」


 龍の言葉が詰まった。 


 会ってから数日の、ニーニャに勢いで告白しそうだったからだ。


 すると、ニーニャが龍の額に、自分の額をくっつけると、優しく龍に、言葉を掛けた。


「龍君、急がなくて良いよ――私待ってるから……」


「その言葉の続きを――聞かせてくれる日を……」


 それから、家に戻るまで2人は、無言で歩いた。


 ただ、その手は、お互いの温もりでいっぱいだった。


———————————————————————————

 次の日、朝目覚めると昨日の事を思い出し、少し恥ずかしかった。


 お店の手伝いの為、部屋から出ると、既に仕事を始めている音が聞こえた。


「ごめん、ちょと遅れちゃったかな!」


 ニーニャは、一瞬、昨日の事を意識したのか、ちょと照れくさそうにした。


「おはよう、龍君、大丈夫だよ、今始めた所だから」


「龍君は、昨日と同じく、洗濯物干してくれる」


 ニーニャからの指示を貰うと、昨日と同様、洗濯物を干した。


「これで、良し!」


 昨日とは、比べられない程上手く干せたので、ちょと嬉しいかった。


「ニーニャ、洗濯物終わったよ!」


「ありがとう、龍君」


 2人は、朝の仕事を終えると、リファとの待ち合わせ場所へ向かった。


 待ち合わせ場所の、ギルド前に着くと、既にリファが待っていた。


「遅いぞ! 2人とも」


「ごめんね、リファ」


 龍は、リファに言う。


「リファ、俺達は、遅れてない」


「リファが、早く来すぎなんだ」


 リファは、龍の屁理屈を華麗にスールした。


「じゃあ、練習場所に行こうか」


 てっきり、昨日の異空間で、練習をするのかと思った龍は、リファに聞いた。


「あれ、昨日の異空間じゃ無いのか」


 リファは、1枚の紙を指先で持ちゆらゆらと、揺らして、龍達に、見せた。


「これなーんだ」


 リファの、持っているその紙に、依頼書と書かれているのが見えた。


「龍、キミは、ラッキーだよ!」


「どう言う事だ」


 リファの、その得意げな顔が少し、腹立たしいが自分の為の特訓なので我慢した。


「これは、ギルドの依頼書なんだけどね、さっきたまたま掲示板見たら、龍の特訓に、丁度いい依頼があったんだよね」


 昨日は、依頼なんて、当分無理だと言っていたのに、どうゆう手のひら返しなのか、リファに尋ねた。


「龍は、力の制御が出来て無いって昨日言ったのは、覚えてるよね!」


 龍が、頷いた。


「それで、まだ依頼は、危険って言ったのは、人間相手の依頼の事なの、つまりは、盗賊退治とか悪い人捕まえたりとかのね!」


「でだよ、今日の依頼は、珍しく魔物退治が有ったのだよ」


「しかも、洞窟内だから、龍が、多少やらかしても、問題無いしね!」


 リファは、そう言うが、龍は、ニーニャには、危険だと思った。


「ちょっと待って、それって魔物が襲ってくるんでしょ!」


「ニーニャには、危険すぎないか」


 龍のその言葉に、リファは、大爆笑した。


「にゃはははは!」


「ニーニャには、危険って何言ってるの!」


 龍には、何がなんだか分からなかった。


「龍、ニーニャは、こう見えて、かなりの剣の使い手なんだよ!」


「えっどう言う事」


 今までそんな素振りは、無かったので龍は、驚きを隠せなかった。


「ニーニャと私が一緒の、パーティーだったのは、知ってるよね!」


 その話をしようとしたリファをニーニャが止めようとした。


「ちょっとリファ、やめてよ!」


 ニーニャは、龍に、野蛮な女の子と思われそうで嫌だったのだ。


「良いじゃん、どうせ、いつかは、分かる事だし!」


 その言葉にニーニャは、諦めた様だ。


「じゃあ、話を続けるけど、ニーニャは、人間族のスキル、クラフトの、精度がかなり高いの!」


「だから、大体の物も作れるし、それに、剣の腕前なんか、この町1番なんだよ!」


「その、凄腕から一時期王宮入りしないかって、スカウトが来てたぐらいなんだから」


 龍は、ニーニャの以外な一面が知れて、嬉しいかった。


「でも、王宮入りは、断ったけどね」


 なんで、断ったのか、気になったのでニーニャに聞いてみた。


「ニーニャ、何で断ったの」


 ニーニャが、答える。


「その、話が来たのは、お母さんが亡くなって直ぐだったの」


「とても、王宮入り出来る状態じゃなかったし、それにこの町からは、離れたく無かったから……」


「ニーニャ、もし今その話が来たらどうする」


 龍は、嫌な質問をしたと、口走った後に気付いた。


「今でも、断るよ!」


「やっぱりこの町が好きだし、それに今は、龍君が居るから……」


 その恥ずかしそうに言ったニーニャをリファがからかった。


「お熱いね〜お二人さん!」


 リファのからかいだと分かっていても、ちょと照れ臭かった。


「おっと、そろそろ行かないとな」


「依頼の、内容は、歩きながら説明するよ!」


 そう言うと、3人は、目的地に向けて歩き始めた。


「今回の依頼は、洞窟内の魔物退治だよ!」


「普段は、魔物って人里付近には、居ないんだけど、たまに、群から離れた魔物が、住み着いちゃう事があるんだよ」


 ここで龍は、ある疑問を質問した。 


「魔物ってそもそも何」


 ニーニャが、答えた。


「魔物って言うのは、人以外の物の事で、動物も、魔物だし、ドラゴンも、魔物だよ」


「基本的に、ギルドの、依頼で来る魔物退治は、イノシシとか、熊とか、虎とかだよ」


「で、魔物の中には、元の姿から進化した魔物もいるの」


「そう言うのを、進化物しんかものって言って、とっても凶暴で、見た目も、大きかったりするの」


「進化物は、ギルドには、手に負えないから、王宮の人達が対応するのが決まりなの!」


 ニーニャの、分かりやすい説明に、龍は、理解できた。


「リファ、今回の魔物は、何なんだ」


 龍が、そう言うと、リファがニヤッとして答えた。


「今回の魔物は……イノシシだよ」


「でも、この依頼の、イノシシの討伐数は、100匹だ!」


 中々の数に、龍は、ちょっとビビった。


「いいか龍、これは、力の制御の訓練だから、粉粉は、ダメだぞ!」


「イノシシの、肉や皮は、重宝するからなるべく傷付けずに倒すんだ!」


「今日の特訓課題は、イノシシを必要以上に、傷付けずに倒す事これが、課題だからな!」


 そうこう、話をしていると、洞窟の入り口が見えて来た。


「ここだな」


 洞窟の前に着くと、リファは、魔法を使い始めた。


「空間魔法――ポケット」


 リファの、その魔法は、持ち物を異空間に保存出来る魔法の様だ。


「この、ポケットの中に保存してる物は、劣化や腐食をしないんだ!」


 そう言うと、リファは、ポケットからある物を取り出した。


「ニーニャ、これ」


 それは、刀身に、綺麗な花が彫り込まれていた一振りの、剣だった。


「リファ……残しといてくれたんだ……」


 その剣は、前にニーニャとリファがパーティーを組んでいた時に、ニーニャが使っていた剣だった。 


 ニーニャは、パーティーを解散した時に、リファにその剣を渡したらしい。


「あの時、捨てていいって言ったのに……」


 ニーニャの、その言葉に、リファは、声を荒げた。


「「捨てられる訳ないだろ」」


 ニーニャは、リファのその声に、俯いた。


「これは、私とニーニャが一瞬に歩いてきた証でもあるんだ!」


「それに、この剣は、お母さんの形見なんだろ」


「そんな物捨ててなんて、2度と言わないでくれ」


 ニーニャは、お母さんが亡くなって、その剣を見るたびに、お母さんを思い出してしまうので、リファに、処分を頼んだらしい。


「ごめんなさい、リファ……」


「そして、ありがとう!」


「また、この剣を持てる日が来るとは、思わなかった」


「今ならもう、この剣を見ても大丈夫」


「私には、リファと龍君が居るから、もう寂しくないよ」


 その、ニーニャの表情は、何かを乗り越えた様な、清々しさを感じさせるものだっと龍は、思った。


「ニーニャ、剣の反対側見て!」


 ニーニャは、リファの言葉通り、剣を裏返した。


「リファ……これって……」


「勝手に、入れちゃってごめん」


 剣の、裏側には、とても良く出来たドラゴンが、彫られていた。


 それは、リファが、創作魔法――ペイントで彫った物で、さらに、付与魔法――プロテクトにより、頑丈に、強化されていた。


「リファ! ありがとう! 凄く嬉しい」


 その顔は、心から喜びに満ち溢れていた。


「その、ドラゴンは、龍を想像して作ってみたんだ」


「ニーニャは、龍と、会ってから変わったと思ったんだ」


「それだけ、龍の事が大事なのだと感じたの」


「だから、龍に、関係する物を剣に入れたくて、通信魔法、テレパシーで龍の名前の意味を聞いてみたの」


「そしたら、ドラゴンて意味だって聞いたから、ドラゴンを剣に、彫ってみたんだ!」


「リファ、本当に嬉しいよ」 


 そう、ニーニャが言うと、リファは、パンと両手で鳴らし

この話は、お終いと言うと、2人に見つからない様に、こっそりと、溢れそうな涙を拭き取った。


 それから、準備を整えて、洞窟に入ろうとした時、リファは、何か変な事に気付いた。


「洞窟なんか、静か過ぎないか」


 リファが、そう言った瞬間、洞窟の中から何が走って来る音が聞こえた。


「何か来る!」 


 そこに現れたのは、巨大で、牙を剥き出しにした熊の姿の進化物であった…………。

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