第5話 仲間

ギルドから、帰って来ると、マルネスさんが、夕食を作って待っていた。


 夕食を食べながら、ギルドでの事をマルネスさんに話した。


「なるほど、そう言う事になったのか」


「まぁ、バルクがそう言うなら大丈夫だろう」


 ニーニャのお父さんと、ギルマスの、バルクさんは、昔同じパーティーで、仕事をしていた戦友的な存在らしく、お互いの信頼度も高い。


 夕食を食べ終わるとお風呂に入った。


 少し湯当たりしたので、外で星を見る事にした。


「綺麗だな」


「前の世界とは、大違いだ」


 ふっと、前の世界での事を思い出すと、なんだか悲しさが込み上げてきて、涙が溢れそうになった。


「皆んな元気かな……」


 そろそろ、中に戻ろうとした時、ニーニャがコーヒーを持って家から出てきた。


「風邪引いちゃうよ」


 そう言うと、ニーニャは、持っていたコーヒーを龍に、渡した。 


 「ありがとう」


 家の前にあるベンチに、2人は、腰掛け夜空を見ながら、コーヒーを飲んだ。


「ねぇ、ニーニャは、お母さん亡くなった時、悲しかった」


 さっきまで前世の事を、思い出していた龍は、触れちゃいけない事と、思いながらも口に出てしまった。


「ごめん、変なこと聞いちゃったね」


 ニーニャは、龍を見て首を横に振った。


「大丈夫、そうだね、悲しかったよ」


「正直、今でも悲しい」


「暇な時とか、ついお母さんの事思い出しちゃって」


「でも、なんでそんな事聞いたの」


 龍は、少し恥ずかしそうに、答えた。


「俺さ、前の世界では、死んだ事になってるじゃん」


「前の世界の、友達とか、家族とかって俺が死んでやっぱり悲しいのかなって不意に思ってさ」


 ニーニャは、龍の顔を見ると、ある事に気付いた。


「龍君…………」


 龍の顔は、気付かない内に涙で、ボロボロになっていた。


「あれ――なんか――変だな」


 この時、龍は初めて、自分が死んだと言う事を、実感してその思いが、涙となって溢れたのだった。


 それを見たニーニャは、龍の頭をポンポンと撫でる、そっと抱きしめて、話始めた。


「大丈夫、大丈夫だよ、龍君」


「辛かったよね、怖かったよね、苦しかったよね」


「だから、今は、いっぱい泣いて良いんだよ」


「私もね、お母さん亡くなった時に、沢山泣いたの」


「でもね、その度にお父様は、私を抱きしめて、大丈夫って言ってくれたの」


「私には、お父様が居てくれたけど、龍君は、1人でその悲しみに立ち向かった」


「それって凄い事なんだよ」


「だけど、龍君、いつまでもその悲しみに溺れては、ダメだよ」


「私も、まだ完璧には、消せないけど龍君と出会えてからは、余り悲しい気持ちに、ならなくなったの」


「だからね、これから一緒に、沢山色んなことしてその悲しみが消え去るぐらいの、笑顔の思い出を作ろう!」


 まさか、自分がニーニャに、思っていた事をそのまま言われるとは、思ってなかった。


 暫くして、龍は、落ち着きを取り戻した。


「ごめん、ありがとうニーニャ」


「もう大丈夫」


 ニーニャは、抱きしめた手をそっと離した。


「ニーニャは、お母さん亡くなって、なんか変わった事ある」


「そうだな……」


「隠してた訳じゃ無いんだけど、お母さんが亡くなる前は、私ギルドのメンバーとパーティー組んで、依頼受けたり、冒険したりしてたの」


「そうなんだ」


「お母さん亡くなってからは、お店手伝わなきゃいけないからパーティー解散しちゃったんだけど」


「正直ギルドでの仕事結構好きだったからちょと心残りがあるの」


 龍は、その話を聞くと、閃いた様に、提案した。


「じゃあ俺も、お店手伝うよ、無料で泊まるのも申し訳無いし、それにお店の仕事が、早く終われば、ギルドの仕事も出来るんじゃ無いかな」


「でも、龍君に申し訳ないよ……」


「俺の事は、気にしないでよ」


「それに、俺もニーニャと一緒に、冒険してみたい」


「龍君……」


「明日、マルネスさんに、相談してみない」


 ニーニャは、その言葉に、決心を固めた。


「龍君、急がば回れだよ!」


 そう言うと、龍の腕を引っ張り、マルネスさんの部屋に向かった。


「お父様、起きていますか」


 その声に、返事が返ってくる。


「起きてるよ、入っておいで」


「失礼します」


 ニーニャと一緒に、部屋に入った。


「お父様お話が……」


 ニーニャが話を切り出した瞬間、マルネスさんが、言葉を被せた。


「良いよ、ニーニャの好きにしなさい」


 マルネスの、即答に、2人は、ポカンとした。


「2人の会話、聞こえてたよ」


「龍君、もう大丈夫かい」


 龍は、泣いてるところもまでも知られている事に少し恥ずかしかった。


「ニーニャ、済まない事をしたな」


「どうしたのですか、お父様」


「私は、ニーニャの本当の気持ちに、気付け無かった」


「本当に済まない」


「大丈夫です――お父様」


 こう言う光景を見ると、やっぱり家族って良いなと思った、


「じゃあ、明日からの事決めようか」


「ニーニャと龍君は、朝の仕事をやってもらおうか」


「大体朝5時から7時ぐらいまで、掃除とか、洗濯をお願いするよ」


「その後は、私が何とかするから」


「龍君も、済まないね、家庭の事情に巻き込んで」


「いいえ、大丈夫です」


「何もせずに、泊めて頂くのは、心苦しいので」 


「それに、マルネスさん達が居なきゃ、一文なしの自分は、今頃野宿でしたよ」


 龍のその言葉に、笑うとマルネスさんは、パンと手を叩いた。


「さてと、明日からは、朝早いから2人とも寝なさい」 


 マルネスさんに、おやすみの挨拶をして部屋を出た。


「龍君、ありがとう」


「龍君のお陰で、またギルドで働けるよ!」


「そうだ、初めて会った日、友達紹介するって言ったよね」


「明日、その友達紹介するね!」


「じゃあ、おやすみ、龍君」


「ありがとう、おやすみニーニャ」


 部屋に戻ると、朝に寝坊しない様に、直ぐに眠りに着いた。


 翌朝、時間通りに、目を覚ました。


 マルネスさんに、貰った洋服に、着替えて部屋を出ると、ニーニャも丁度、部屋から出てきた。


「おはよう――ニーニャ」


「おはよう――龍君」 


 挨拶を済ませると、早速お店の仕事を始めた。


「龍君、まずは、洗濯物干してくれる」


 龍は、ニーニャに、良い所を見せようと、張り切って作業に、取り掛かった。


 洗濯物を干していると、ニーニャが様子を見に来た。


「大丈夫、龍君」


 洗濯物を見ると、見るも無惨な、シワシワのままの、洗濯物が干されていた。


「ごめん、ニーニャ、上手く干せなくて」


 張り切っていただけに、落ち込み様も、凄かった。


 ニーニャは、洗濯物を持っている、龍の手を後ろから、掴むと、やり方を教えた。


「龍君、まず洗濯物は、シワを伸ばす為にパンパンするんだよ」


 そう言うと、ニーニャは、後ろから掴んだ手を上下に動かした。


「はい、パンパン」


 しかし、龍は、後ろにいるニーニャの、胸の感触に、気を奪われて、それどころじゃなかっが、どうにか、平常心を保った。


 洗濯物を干し終えると、ニーニャに、確認してもらった。


「うん、大丈夫」


「龍君、よく出来ました!」


 ニーニャは、龍の、頭を撫でてそう言った。


 恥ずかしいかったが、それがなんだか、気持ち良く、どっかのファミレスの、小さな女の子の気持ちが分かった。


 今日の仕事は、これで終わり、2人で朝食を食べた後は、昨日言っていた友達の所に行く事になった。


「多分、この時間だと、ギルドに居るはずだから!」


「そうなんだ、どんな友達なの」


「お母さんが亡くなる前に一緒のパーティーだった子なの」


「とっても面白い子だから、龍君も直ぐに仲良くなれるよ」


「そっか! 楽しみだな」


 ギルドに着くと、ニーニャは、当たりをキョロキョロと、見回した。


「どこかな――あっいたいた、リファ!」


 その呼び声に、1人の少女が、近づいてきた。


「ニーニャ……久しぶり……」


「久しぶりだね、リファ」  


「どうしたの……こんな……所で」


 リファと言うその少女は、紫のぱっつんヘアーで肩に黒色のマントを着けており、手には、長い杖を持っていた。


 さらに、喋り方は、癖のあるゆっくりなテンポで、ちょと不思議な、少女に見えた。


「リファ、今日は、リファに話があって来たの」


「結婚……する……の」


 リファは、唐突に、変な事を言い出したが、いつもの事なのだろうか、ニーニャは、さらっと流した。


「違うよ、実はね、私またギルドの仕事出来るようなったの」


「それとね、紹介したい人が居て連れて来たの」


 リファは、また冗談を言った。


「婚……約……者……」


 ニーニャは、またもさらっと流すと、本題に入った。


「リファ、まず紹介するね、この人は、龍君、私の命の恩人なの」


 ニーニャの、紹介で、ようやく挨拶出来た。


「初めまして、リファさん」


「大和田 龍です、宜しく!」


 龍は、普通に、挨拶出来てホッとした。


「それでね、私と、龍君でパーティー組もうと思っているのだけど、リファも一緒が良いなと思って今日、会いに来たの!」


「リファとは、前一緒のパーティーだったから、一緒だと心強いのだけど……」


 リファは、それを聞くと、ニーニャに、抱きついた。


「リファ……ニーニャ……待ってた」 


「リファ……ニーニャと……一緒が良い」


 ニーニャは、リファの返事に、そっと肩を撫で下ろした。


「で、その男は、何だっけ」


 リファのその言葉使いの、代わり様に、龍は一瞬訳が分からなかった。


「リファ、龍君困ってますよ」


「ごめんね、龍君、リファ悪戯好きで、さっきの喋り方は、演技で、こっちが本当のリファだから」


 ニーニャの、そう言われて、やっと思考回路が繋がった。


「龍とか、言ったけ、一応宜しく」


 一応は、余計だと、ツッコミたかったが、ツッコんだら負けな気がしたので、堪えた。


「それで、龍とは、どんな仲なのさ」


 ニーニャが龍との関係を説明しようとした時、ある事を思い出した。  


「リファ、ちょっと待ってて」


 そう言い残すと、会話の聞こえない距離に龍を連れて行った。


「龍君、ごめんなさい、私龍君の、事情すっかり忘れてた」


「龍君との、出会い話したら、龍君の、正体バレちゃうところだった」


 龍は、少し考え、ニーニャに言った。


「良いんじゃ無いかな、話しても」


「リファは、これから、同じパーティーになるんだし、パーティー内で隠し事は、余り良く無いと思うんだ」


「それに、ニーニャが紹介してくれた友達なら、誰かに喋ったりは、しないと俺は思うよ」


「だから、リファには、本当の事を教えよう!」


「ありがとう、龍君」


 2人は、リファの元に戻った。


「リファ、龍君の事について話したい事があるの」


「どうしたの、急に真面目な顔して」


「大事な話なの、ここだと他の人に、聞かれちゃうから家に来てもらえる」


 リファが了解すると、話をする為、3人でニーニャの家に向かった。

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