第4話ギルドマスター

2人は、ロズンダさんに案内され、ギルドマスターの部屋の前に着いた。


 ロズンダさんがギルドマスターの部屋の扉をノックした。


「「コンコン」」


「入りますよマスター」


 すると、中からガサガサと、音がすると、しばらくして声がした。


「入れ!」


 そう聞こえると、ロズンダさんが扉を開けた。


「マスターまた、エッチな本でも読んでたんですか」


 ロズンダさんの、その言葉が図星だったのかギルマスは、顔を赤らめた。


 初めて会ったギルドマスターは、とても大柄で、屈強そうな見た目だが、そんな人でも男の子なのだと龍は、心ながらに思った。


「それで、何の用だ」


 ロズンダが、真剣な表情で言った。


「マスターまずは、これを見て下さい」


 そう言うと、ロズンダが龍の、ステータス表をギルマスに渡した。


「これは…………」


 ギルマスは、一通りステータス表を確認すると、口を開いた。


「このステータス表は、誰のだ」


 ロズンダが答える。


「ニーニャが今日連れて、ギルド登録をしたいと言った龍君のステータス表です。」


 ギルマスが、龍の顔を見た。


「お前が龍か」


 ギルマスの、その迫力のある声に、少し驚いた。


 龍は、ギルマスの雰囲気が、前世界で、暴走族、観音會をやっていた頃の、知り合いのヤーさんに、似ていたのでついついあの、挨拶をしてしまった。


「お初にお目に掛かります!観音會、3代目総長、大和田 龍と申します」


「気合だけは、誰にも負けないんでそこんとこ夜露死苦」


 龍は、またやってしまったと後悔した。


「変わった挨拶だな」


 ギルマスが、そう言うと、続けて、挨拶した。


「龍君、私がここのギルドマスター」


「名をバルクと言う、宜しく」


 その見た目通りの名前を龍は、直ぐに覚えられた。


 龍は、バルクの事をよく見てみると、ある事に気づいた。


「尻尾がある!?」


 見た目は、普通の人間族と変わらないが、バルクの腰の下辺りからは、尻尾が生えていたのだ。


「ギルマスの、バルクさんは、ビースト族なの」


 ニーニャがそう説明してくれた。


「ビースト族ってもっと獣ぽい人かと思ってたよ」


 龍のその言葉に、バルクは、大声で笑った。


「ガッハッハッハ」


「龍君は、面白い事を言うな」


 特に普通の事しか、言ったつもりの無い龍は、呆然とする。


「確かに、名前だけ聞けばそうかも知れないが、実際は、人間族と見た目の大差は、無いんだよ!」


「唯一有るとすればこの尻尾ぐらいなんだよ」


「特に、魔族は、見た目だけじゃ人間族と区別つかんよ」


「エルフ族は、耳がちっと長いから直ぐに分かるよ」


 その話が、終わるとバルクは、真面目な顔になる。


「で、話は戻るが、このステータスは、どう言う事だ」


 ロズンダが、答えた。


「見ての通り、全てのステータスがMAX以上の測定不能値で、尚且つオールスキル持ちなのです」


 バルクが、少し声を荒げながら言った。


「そんな事、あるわけないだろ!」


 ロズンダが、冷静に話を進める。


「いえ、マスター、ステータス表に間違えは、ありません」


「龍君のステータスは、これが事実なのです」


「マスターは、昨日ドラゴンが現れたのは、ご存知ですよね」


 バルクが、またも声を荒げた。


「当たり前だろ、そのドラゴンの捜索のせいで昨日は、寝ずの番だ」


「マスター、信じられないかも知れませんが、昨日のドラゴンを倒したのが、この龍君なのです」


 バルクの興奮が収まらない。


「馬鹿な、ドラゴンを倒したなんて、情報聞いてないぞ」


「それに、ドラゴンの死体も何処にも無いじゃないか」


 ここで、ニーニャが話に割って入った。


「バルクさん、昨日私は、花を摘みに草原に言っていました」


「草原……ドラゴンの飛んでいった方角か!」


「そうです――そこで私は、ドラゴンに襲われそうになったのです」


 バルクは、無言で話を聞く。


「その時、たまたま居合わせた、龍君が助けてくれたのです」


「龍君は、ドラゴンを、一撃で粉粉にしました」


「なので、死体が見つからないのは、当然です!」


 バルクが、暫く考えた後、疑問をぶつけた。


「良かろう、仮に龍君がドラゴンを倒したとしよう」


「だが、それ程の力を持っている者が何故そんな所に偶然いたのだ」


「それに、私は、ギルドマスターだ、ドラゴンを倒す程の手練れを知らない訳がないだろ」


「ニーニャも、知っているだろう、ドラゴンと言えば、この国最強の生物で、王宮騎士団長ですら倒せないと言っているのだぞ」


 ニーニャが、龍を庇うかの様に、強い口調で言った。


「「だけど、龍君がドラゴンを倒したのは事実です!!」」


 その、ニーニャの気迫に、バルクも、驚いたのか、少し冷静になった。


 龍は、早急に、事情を話した方が良いと思い、本題を切り出した。


「バルクさん、これから話す事は、ニーニャと、ニーニャのお父さんと、ロズンダさんしか知らない話です」


「その話をする事によってもしかしたら、何か面倒になるかも知れません!」


「それでも、話を聞いて頂けますか」


 バルクは、考える素振りもせず答えた。


「その話の為に、ここに来たのだろう」


 龍が頷く。


「よかろう、話せ」


「ありがとうございます」


 龍は、自分が、何者で、何処から来て、何故強いのか、全てをバルクに話した。


「異世界転喚……」


「全異世界で1番の強さ……」


 バルク、暫く独り言を言うと、ロズンダに、確認した。


「ロズンダ、これらの話から推測するに、龍君のステータスを偽って、王宮に目を付けられない様に私に、匿って欲しいと、言いに来たのだな!」


 流石ギルドマスターだ。


 これらの話を聞いただけで、全てを理解してしまったのだから。


「左様で御座います マスター」


 ロズンダさんが、そう言うと、バルクは、勢いよく立ち上がり、龍の前に来て、肩をガッチし掴みながら言った。


「龍君、何とかしよう」


 その言葉に、3人は、そっと肩を撫で下ろした。


「早速だが、これからの事を話そう」


「とりあえず、皆んな掛けてくれ」


 3人は、バルクの机の前の椅子に、腰掛けた。


「まず、龍君のステータスだが、登録後に発行されるギルドカードには、偽のステータスを書き込む」


「他のギルドメンバーと、変わらないぐらいの能力に」


「勿論、スキルは、人間族のスキルのみだ」


「それから、異世界から、来た事、全異世界最強だと言う事は、我々以外の人には、喋らないこと」


「最後に、過度な目立ち方は、控える事」


「それさえ、守ればまず、大丈夫だと思う」


「他に意見は、あるか」


 すると、龍が、馬鹿丸出しの発言をした。


「あの、今思ったんですけど、俺って世界最強なんだから、王宮に目を付けられても、皆んな、ボコしちゃえばいんじゃない」


 余りにも浅はかな、言葉にバルクは、呆れた。


「お前は、アホだな」


「力は、最強でも、脳みそは最弱だな」


 それも仕方がない、龍は、つい最近まで、喧嘩に明け暮れていた、ヤンキーなのだから。


「いいか、龍君、仮に、君がその力を使い無双したとしよう」


「そうするとまず、我々ギルドに、捕獲、又は、討伐依頼が来る」


「さらに、ギルドでは、対応しきれないと判断すると、王国の、王宮兵士が来る」


「それでも、無理な時は、王宮騎士団が処理する事になっているんだ」


「これを、全部君が倒すと、どうなると思う」


 龍は、考えたが、分からなかった。


「龍は、相当な、お馬鹿さんだな」


 気付けば、バルクは、龍君から龍に、呼び捨てになっていた。


「面目ない……」


 前世界なら、そんな馬鹿呼ばわりされたら、キレて暴れたかも知れないが、自然とそんな気には、ならなかった。


「いいか、全部倒すと、それは、王国の、崩壊なんだよ」


「我々王国に属している街は、王都同様に、王宮の、手厚い支援が受けられるんだ」


「仕事の斡旋や、食料支援、緊急時の、資金支援などな」


「今我々のいる、パープルも、王宮からの、支援で出来た町なんだ」


「つまり、龍が暴れれば、この国全員が露頭に迷う事になる」


「まぁ王国に加盟していない町や村もあるが、殆どの町は、属して居るからそうなれば事実上、世界の崩壊なんだよ」


 あまりのスケールの大きさに、龍も、事の重大さを理解した。 


「教えて頂きありがとうございます」


 龍は、そう言うと、大人しくする事にした。


「まぁ龍が王都に行き王宮入りしたいなら話は、別だがな」


「どう言う事ですか」


「君がその力を王国の為に使い、王宮に、入るので有れば力を使っても問題は、ないだろう」


「但し、王宮に入れば、王都で暮らさなければいけなくなる。」


「ニーニャには、会えなくなるな」


 その唐突な、言葉に、龍は、思わず吹き出した。


「バルクさん、なな何を言って居るのでしょう!?」


 バルクは、龍の耳元で囁いた。


「見てれば分かるよ――お前ニーニャの事が好きなんだろ」


 図星をつかれ、龍は、赤面した。


「お二人で何を喋っているのです」


 ニーニャのがそう言うと龍は、素早く言葉を返した。


「いいや、何も」


 バルクの、龍いじりが終わると、再び話に戻った。


「ともあれ、龍は、ここで暮らしたいなら大人しくする事だな」


「ギルドで、仕事を受けて報酬を貰えば普通の生活ぐらいは、出来るからな」


「それと、1つだけ言っとく、もしも、仲間や大切な人を守る為に、その力を使わないといけない時は、躊躇せずに使え」


「その場合、後始末は、俺がやってやる」


 その、男でも惚れる様なセリフに、龍は、こんな大人に慣れたらなと、心から思った。


 そして、龍にとって最も大切な存在、ニーニャは、何があろうと自分が守ると、強く誓った。


 バルクとの話が終わると、偽造されたギルドカードを受け取った。


「依頼を受ける時は、このギルドカードが必要だから無くさないでね」


 ロズンダさんに、そう言われ、今日のお礼を言って家に帰る為にニーニャと2人で、外に出た。


「そう言えば、バルクさんと、何のヒソヒソ話してたの」


 忘れていた事を思い出した龍は、またしても誤魔化した。


「あ、いや、大した事じゃ無いよ!」


「そうなんだ、なんか怪しいけど……」


 そう言うと、ニーニャは、走り出し龍に、声が聞こえないぐらいの距離で止まって何かを呟いた。


「「私も、好きだよ」」


「えっ、なんか言った」  


「うんうん、なんでも無い」


「帰ろ!」


 夕暮の中帰る2人の、心の中は、まるで夕陽の様な茜色に染まっていたのだった。

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