第3話 ギルド

「……君……龍君……朝だよ……起きて」


 耳元で、囁く声に、気付きゆっくりと目を開けた。


「あっ、やっと起きた! 」


 すると、目の前には、ニーニャの姿があった。


 腰を引くして、こちらを見ているニーニャに、気づくと慌てて飛び起きた。


 なにせ、ニーニャの着ているパジャマは、少しぶかぶかで今にも胸の谷間が見えそうだったからだ。


 龍にとって刺激が強過ぎたのか、動揺しながら、挨拶をした。


「おはようございます――であります!」


 どっかの緑のカエルみたいな挨拶をすると、ニーニャは、ニコっと笑た。


「おはよう龍君、いや、寝坊助君かな」


 龍は、ちょと恥ずかしいと思うと同時に、なんだ、特別な感じで嬉しかった。


「龍君、朝ごはん出来てるから、着替えて降りてきて」


 マルネスさんから借りたパジャマを脱ぐと、綺麗に畳んで元の服に着替え朝ごはんを食べに下に降りた。


「おはようございます――マルネスさん」


「おはよう――龍君」


 そう挨拶すると、ニーニャが朝ごはんを持ってきた。


「はい、どうぞ召し上がれ」


 プレート上には、パンと色々なおかずがのっていた。


「美味しそう」


「良かった――私が作ったんだけど上手に出来てるかな」


「うん、凄く美味しいよ」


 その言葉に、ニーニャは、ヤッタと、両手でガッツポーズした。


 その行動が、龍には、可愛いくて、たまらなかった。  


 朝ごはんを食べ終わると、ニーニャが切り出した。


「じゃあ、早速だけど、ギルド登録しに行こうか」


 龍は、立ち上がると、ニーニャの後に続いて、家を出た。


「昨日も思ったけど、やっぱり綺麗な町だね」


 ニーニャが嬉しそうに言った。


「でしょ! 私この町、凄く好きなの」


「町は、綺麗だし、人は、優しいし」


「それにね、お母さんとの思い出が詰まってる大切な場所

なの」


 最後の言葉の時のニーニャの表情は、少し悲しそうだった。


 この時龍は、思った。


 ニーニャは、母を失った悲しさを誤魔化すために、いつも笑顔でいるのだと。 


 いつか、その悲しみを、乗り越えられる程の、沢山の思い出をニーニャと作れたらなと龍は、心の中で呟いた。


 そんな事を思っていると、既にギルドの前だった。


「着きましたよ」


 笑顔に戻ったニーニャが、言った。


「思ってたより、大きいんだね」


 堂々とした建物の上には、大きな文字で何か書いてあった。


 「「パープルギルド会」」


「パープルって確かこの町の、名前だよね」


 龍がニーニャに、問いかけた。


「そうですよ! ギルドの名前は、その町の名前なの」


 そう言うと、ニーニャは、ギルドの扉を開けた。


「龍君、ちょと待ってて」


 ニーニャが、受付と書かれた窓口に、掛けて行った。


「あら、ニーニャ久しぶり!」


「お久しぶりです! ロズンダさん」


「珍しいね、ニーニャがギルドに来るなんて」


「で、何の用だい」


「今日は、ギルドに登録したいって人連れて来たの」


 ニーニャが、龍に向かって、手招きした。 


「龍君、この方が、ギルド受付のロズンダさん!」


 龍は、軽く挨拶した。


「初めまして、大和田 龍です――宜しくお願いします」


「龍君て言うのね! 宜しくね!」


 ロズンダさんは、元気でとても明るい印象だ。


「じゃあ、ギルドに、登録したいって子は、龍君だね」


 ニーニャが、話を進めてくれていたのでスムーズに事が進む。


「それじゃ、龍君まずこの申請用紙書いて貰える」


 申請用紙を受け取ると、その場で書き始める。


「名前は、大和田 龍、年齢18才、人種は、人間族、職種は、」


「職種!?」


(職種ってなんだ。 転喚者、それともニート?)


 色々考えた挙句、こう書いた。


「書きました」


「はい、じゃあ確認するね」


「え――と、大和田 龍君、18才、人間族、職種は……」


「ヤンキー!?」


 ロズンダさんとニーニャは、聞いた事の無い言葉に、一瞬固まった。


「あのー、ヤンキーと言うのは、なんですか」


「えっと、ヤンキーと言うのは、まぁ弱気を助け、強気を挫く者ですかね」


 何故そんな事を書いてしまったのかと後悔した。


「つまり、勇者みたいな者ですかね」


 あまりの、恥ずかしさに、説明が面倒になったので、そう言う事にした。


「申請書は、これで大丈夫と」 


 申請書の職種は、そのまま、ヤンキーになった。


「じゃあ次に、ステータスを測るから、隣の部屋に入って」


 そう言われ、部屋に入ると青い大きな石とその前にスキャナーらしき物があった。


 しばらくすると、ロズンダさんと、ニーニャが部屋に入って来た。 


「龍君、まずは、そこに立って」


 ロズンダさんに言われ、スキャナーらしき物の前に立った。  


「そしたら、目を閉じて石に、触ってみて」


「えーと、これで良いのかな」


 石に、触れた瞬間、その石が目を閉じてても、分かるぐらいの強い光を発した。


 光が収まり、目を開けると、ロズンダさんとニーニャは、まるで、銅像の様に固まっていた。


「2人とも、どうしたの」


 龍の、言葉に、2人は、ハッと我に返った。


「今のなに」


 ニーニャが、驚きを隠せない様子で言った。


「私も、あんなに光ったところ初めてみたよ」


 何が起きているのか、分からない龍は、思い切ってきいてみる。


「何かあったのですか」


 その言葉に、ロズンダさんが答えた。


「この石は、ステータスの、大きさによって光る強さが違うの」


「龍君の、光方は、今までに見た事の無い光方だったの」


 ニーニャもロズンダさんの言葉に、頷いた。


「とりあえず、ステータス表を見てみましょう」


 そう言うと、ロズンダさんが、ステータス表を取ってきた。 


 そのステータス表を見て、ロズンダさんとニーニャは、驚愕した。


「全ての、ステータスMaxいや、それ以上で実質測定不能」


「しかも、人間族なのに、魔力もあるし、エルフ特有の治癒能力、さらにビースト族特有の筋力強化まで……」


 龍は、いまいち何が凄いのか、理解出来ず、2人に問いかける。


「つまり、どう言う事なんですか」


 ニーニャがその問いに答えた。


「まず、各種族には、スキルと言う特有の能力があります」


「人間族は、スキル、(クラフト)――武器や防具を作ったり、直したり出来る能力」


「魔族は、スキル、(マジック)――色々な魔法を習得し、使うことが出来る能力」


「エルフ族は、スキル、(リカバリー)――怪我や病気を治す事が出来る能力」


「最後に、ビースト族、スキル、(パワー)――筋力強化と体力強化を出来る能力」


「これらの、スキルは、種族特有だから、他の種族が習得する事は、不可能なの」


「後、スキルの強さは、各個人で違うの」


「例えば、人間族の、スキル、クラフトだと、スキルの強さで作れる物や、直せる物が違うとかのね」


「龍君は、人間族なのに、全てのスキルを取得していて、尚且つ全てのスキルステータスがMAX」


「さらに、筋力とか知力とか体力とかの通常ステータスも全てMAX」


「正確には、測りきれないから、測定不能値なの」


「ちなみに、1人だけ、人間族とビースト族の2つのスキルを使える人がいるの」


「それが、この国の、王宮騎士団長、グランデ様」


「つまりは、この国最強の人、グランデ様を軽く超える強さなの」 


「なるほど」


 ニーニャの、説明で、自分が、いかにチートか、改めて理解した。


「あっ!?」


 龍は、夢の中で、神様おっちゃんに、言われた事を思い出した。


「そう言えば、昨日の夜、夢の中に、俺をこの世界へ送った神様が出てきたんだけど、その神様が、言ってたんだ」


「ニーニャには、俺が、この世界最強って事は、説明したよね」


 ニーニャは、コクリと頷いた。


「実は、この異世界で1番じゃ無くて、全異世界で最強の間違いだったんだよ!」


 ニーニャは、そう聞くと、納得した様な、表情をした。


「なるほどね! それなら、ドラゴンを粉粉に出来たのも、ステータスが異常なのも納得できるわ!」


「ニーニャ、どうゆう事」


 ニーニャは、話を続ける。


「まず、龍君がこの世界最強だとすると、ドラゴンを一撃で粉粉には、出来ないはずなの」


「ドラゴンは、この世界で1番強い存在なのは、龍君も知ってるでしょ」


 龍は、頷く。


「龍君が、この世界最強の場合は、ドラゴンより少し強いだけで、ドラゴンとの力の差は大幅には、無いと思うの」


「だけど、今の話を聞いて、龍君が、何でドラゴンを粉粉に出来たか、理解出来ましたの。」


「ドラゴンの、ステータスって人型種族と、比べると、雲泥の力の差が有るけど、龍君みたいに測定不能値では、ないの」


「つまり、龍君と、ドラゴンのステータスの差は、比べられない程の差がある」


「だから、ドラゴンを一撃で倒せたんだと思うの!」



 すると、ロズンダさんが、待ったを掛ける様に、話に割って入った。


「えっ、何、ドラゴンを粉粉、全異世界最強、どう言う事なの!?」


 ニーニャは、しまったと、口を手で塞いだ。


「ニーニャ大丈夫だよ」  


「ロズンダさんには、話しておこう」


 それから、龍が異世界から来た事を話した。


「なるほど、そう言う事ね……」


「隠してて、すみません」


「大丈夫、ただ、この件は、私には荷が重過ぎる」


「まずは、ギルドマスターに、会った方がいいね」


「たぶん、君の存在が知られれば、即刻王宮入りだろうし」


「龍君が、平和に暮らしたいなら、ギルドマスターに匿ってもらうしか無いからね」


 確かに、存在が明るみになれば、王宮入りは、確実だろう。


 だけど、俺は、ニーニャとずっと一緒に居たい。


 それに、俺の素性を知ってしまっているから王国が、ニーニャ達に何かをしない保証も無い。


「わかりました」


「ギルドマスターに、相談したいので、会わせてもらえますか」


 その言葉に、頷いたロズンダさんは、龍とニーニャをギルドマスターの部屋に案内するのであった。

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