第37話 終着点
師匠は俺を突き飛ばすように距離を取る。剣が抜け、胸の穴から更に大量の血が流れ出る。
そのまま倒れそうになった師匠に駆け寄り、抱きとめる。
「師匠!」
「まったく、僕を、倒せるくらいになるなんて、人間の成長は、恐ろしいね……」
「……なんで、最後の最後で剣を止めたんですか!」
師匠の剣は明らかに鈍った。
それがなければ相打ちになっていたはずだ。
息も絶え絶えになりながら、師匠は微笑みを浮かべた。
「さて、どうしてかな……自分でも、よくわからない」
触れている身体が冷たくなっていく。
「本当は戦うつもりなんてなかったんじゃないんですか?」
疑問があった。勇者と戦った時もその前も俺を殺そうと思えばできたはずだ。
「目的のために全力で戦っていたさ。君が生き残れたのはそれだけ強くなったからだ」
訥々と師匠は話し始めた。
「僕は最強になりたかったんだ。ずっと、ずっと憧れていた。魔王の力を得られればまた目指せると思ったんだけどね。ここで終わるとは思わなかった」
師匠は俺に剣を教え始めたころ、口を酸っぱくして、強さだけを求めるなと言っていた。その意味が今ならよくわかる。
「ルプス、君には奥義を使う資格がある。これを受け取るのも受け取らないのも、自由だ。使えれば、今の魔王なら倒せる。あいつはまだ完全には復活していなかった。
そうは言っても猶予はそう多くはないだろうね」
「……倒せるほどの力なら、なぜ師匠が使わなかったんですか」
「僕には資格がない。無理やり使っていから全力は引き出せなかった」
ルプスならできる、と師匠は言う。
「さあ、どうする?」
「受け取ります。それでみんなを助けらるのなら」
心臓のあたりに手を当てられた途端、何かとてつもない力の塊が自分の中に現れた。
その正体を直感で理解する。
「これで思い残すことはない」
師匠の命が消えかかっている。あと数分もしないうちに完全になくなってしまう。
勝手に口が動いて思っていたことを吐き出していた。
「俺は師匠を許すことは出来ません」
大勢の仲間がその凶刃に倒れた。
「…当然だな」
「だけど、俺には守りたいものがあります。だから、この力はその為に使う。…………それと、これまで、ありがとう、ございました……剣を教えてくれて、ここまで育ててくれて…」
「そうか」
よかったと、満足げな顔をする。
なんでこの人はこんな顔をできるのかという思いと、僅かにでも師匠の喜ぶ顔が見れてよかったと思う自分がいる。
そのまま師匠は動かなくなった。
悲しかった。
怒りもあった。
それ以上に託されたものが、俺を動かした。
師匠を地面に横たえ、その近くに大太刀を墓標替わりに突き刺しておく。
泣きたかったけれどそれは出来ない。師匠は少ない時間であったが共に過ごした人達を斬った。
師匠は俺に教えてくれた大切なことを自分で裏切った。
「見ててください、師匠」
だから、涙の代わりに俺は剣を振るうことにした。
この力で魔王を討つ。
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