第35話 最強とエルフの剣士

「少し合わなかったうちに随分と顔つきが変わったね、ルプス」


 結界を出ても攻撃は来なかった。


 師匠はじっと佇んでいた。


「あれだけのことがあれば変わりますよ」


 エルフの里を出た途端に森には僅かにだが月明かりが入るようになり、視界は悪くない。


 覚悟したはずなのに足が重たい。


 佇んでいるだけで、剣も抜いていないのに、次の瞬間には斬られるという直感がある。


「師匠、本当に魔王の仲間になったんですか?」


「そうだよ。僕はあいつの剣として君ら相手に戦うことを選んだ。君らを滅ぼす敵として剣を振るう」


 師匠が太刀を構えた。これ以上は話すことはないと言わんばかりに。


 月が雲で隠れ、ほとんど辺りが見えくなる。


「俺は、師匠にそんなことをさせないために、貴方を止めるために剣をとる」


 剣を抜き放つ。修繕された剣は体の一部であるかのようによく馴染む。


 雲が風で流され、月明かりが差し込む。


「ッ!!」


 それが合図であったかのように、同時に地面を蹴った。


 師匠の太刀が月明かりを受け、煌めく。


 瞬きの間に迫る刃を、剣で受ける。


 ———まだ眼で追える!


 鍔迫り合いになるが、全力で押して、師匠を後ろへと下がらせる。


 師匠が僅かに目を見開いた。膂力で負けるとは思ってもいなかったのだろう。


 僅かに開いたスペースで剣を小さく振るう。


 師匠はさらに距離を取ろうとするが、それより早く、連続で斬りかかる。


「ハ……ァァァァッ!」


 思考が追いつかない速度で剣をひらめかせる。


 これまで培った剣技を出し惜しみなく、放ち続ける。


 師匠から学んだ技だ。太刀筋は知られている。


 それでもこの速度ならば、師匠に反撃する隙は無い。


 俺の力とミレイナの力では剣を届かせるには少しだけ足りない。


 普段の俺ならこれ以上、強くなることはできなかった。


「憑依、召喚ッ!」


 剣戟の只中で、術を行使する。


 身体の芯が燃えているかのような熱を持ち、それが全身に回る。


 俺の動きが、剣を振るう速度がさらに上がる。


 師匠が驚愕し目を見開いた。同じ術を使い、俺に術を教えた師匠だから、気づいたのだろう。


 ほんの僅かに師匠の動きが鈍る。


 ———ここしかない。


「お……おぉぉぉぉぉッ!」


 雄たけびを上げる。防御を考えない全力攻撃。


 身体の中で血管や筋肉がちぎれる音がした。骨が無理な動きを強いられ悲鳴を上げる。


 それでもこの瞬間を逃すことは出来ない。


 師匠が躱しきれずに初めて、剣で防御した。


 それでも押し通し、師匠の太刀を上へ弾き上げる。


「っ———」


 これで剣での防御は出来なくなった。この距離なら回避も間に合わない。


「リャァァァァァッ!」


 全力を超えて放った斬撃。


 切っ先が師匠の肩口に深々と突き刺さった。

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