第34話 エルフの剣士と

「師匠なら近いうちに攻撃してくる」


 臨時の住まいとして用意されたテントの中でミレイナは俺の話を真剣に聞いている。


 相手が弱っていて、油断しているような時に強襲してくるはずだ。


 今は勇者含めて大勢が戦えず、復興を進めことにほとんど意識を割いている。


「それなら戦える人を集めて防衛に専念しましょう」


 ミレイナの魔法やエルフの魔法、残りの戦力を守ることに専念させることは間違いではない。


 しかし、ミレイナは知らない。


 勇者を倒したときの師匠の圧倒的なまでの強さを。


「いや、守ることは出来ない。今の師匠なら一人で壊滅させられる」


 師匠の奥義ならば抵抗する時間などなく一刀のもとに消される。


「逆にこちらから迎え撃つ」


「迎え撃つと言ってもリュウさんがどこから来るかわからないと何もできないんじゃないんですか?」


「それは考えがあるから大丈夫。きっと師匠は俺達の前に顔を出すよ。それで迎え撃つ場所なんだけど……」


 地図を広げて考えを話す。


 ミレイナは頻りに頷きながら最後まで聞いてくれた。


「———なるほど。でも、確かにリュウさんの剣技を一番知っているのはルプスですけど……大丈夫なんですか?」


 俺が師匠に剣を向けられるのか、と言外に聞かれた。


 あの勇者が敗北するほどの相手だ。それでも俺が僅かに肉薄することができる瞬間があった。


 だから勝てる可能性はある。


 ———覚悟も決めた。


「俺が師匠を止めるって決めたからな」







 日付が変わって翌日。


 まだ日が上がる前に俺たちは出発することにした。


 周囲を照らすのは生命樹のあかりだけで、人間もエルフも寝静まっている。


 ミレイナと頷き合ってテントを出る。


 師匠を迎え撃つのは、エルフの里がある森を西に向けたところ。


 最前線と森の間に広がる平原が目的地だ。


 そこならば全力で戦える。


 森の中を西へ進む。生命樹の灯さえ届かないのでほとんど何も見えないくらい暗い。


 里から十分に離れたところでミレイナの魔法で明かりを出すが、それでも数メートル先は暗闇だ。


 その状況でしばらく歩いてた。


「ルプス、そろそろみたいですね」


「ああ、内側からだとわかりやすいな」


 目の前が結界の縁だ。視覚的な変化はなく、同じような森が続いているように見える。


 しかし、魔力で形作られた壁を知覚できる。


 ここを超えたらもう一度正規の手順を踏まないとエルフの里には入れない。


 たとえ出てすぐに後ろに下がっても無理だろう。


「すぐそこに来ているなんて、随分速いな」


 何の変哲もない森の中、二百メートルくらい先。ここからは目視できないけれど、真っすぐに向けられた殺気がある。


 予定よりずっと近くで戦うことになったがそこまで問題じゃない。


「私も一緒に戦った方がいいなじゃない?なんだか嫌な予感が」


「いや、予定通り頼む。全力で戦うなら自分でも制御できる自信がないんだ。だから、一人の方が戦いやすい」


「……わかりましたけど、必ずリュウさんを止めたら戻ってきてくださいね」


「そっちこそ、ちゃんと結界の中で待っててくれよ」


 会話が終わり、事前に話していた魔法をかけてくれる。


 俺は結界の外へ、踏み出した。

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