第23話 勇者とエルフの剣士③
扉の先は広い部屋になっていた。
どうやら一階まで吹き抜けになっており、幹に開いた穴から光が差し込んでいる。
竈がいくつもあり、その近くを何人ものエルフが忙しそうに行き来したり、灼熱の鉄を打っていた。
「何の用だ!」
扉の一番近くにいた鍛冶師が怒鳴った。
槌音がうるかったがそれをかき消すほどの声量に俺とミレイナは思わず耳を塞いだ。
「義勇軍の方が剣を研いでほしいと!」
「ああぁ、義勇軍だぁ?」
鍛冶師が片方の目を大きく見開いて、眉を吊り上げる。
眼前のエルフは髪こそ他と同じような金色だが、その腕は槌を振るい続けているので丸太のように太く、手はごつごつとしている。
「人間の剣なら、同じ人間に頼みなッ!」
言い捨てて作業に戻ろうとする鍛冶師を慌てて引き留める。
「ま、待ってくれ!俺の剣はあなた達でないと研げない。人間の技術では無理なんだ。頼む!」
頭を下げて頼み込む。数秒そうしているとはぁと溜息が聞こえてきた。
「……俺達だから頼むってなら無下にはしねぇさ。ただ人間は嫌いだ。だから、研ぐかどうかは実物を見てからだ」
手を差し出されたので鞘ごと剣を渡す。
鍛冶師は剣を受け取ると剣を引き抜き、刀身を露にした。矯めつ眇めつ、軽く振ってみたりと様子を確かめている。
「……おい小僧、いい剣だがこいつはもう無理だ。諦めな」
「それなら、リーフェリオンって人……エルフを紹介してくれないか?それでこれを渡してほしい」
師匠に渡された羊皮紙を取り出す。
鍛冶師は胡散臭そうに羊皮紙を受け取った。
「なんだ、儂の客か」
工房の奥から一人の巨漢がこちらに向かって歩いてきた。
無精ひげを生やし、あちこちに古傷があり、鍛冶職人でなく戦士といっても疑わない体つきをしている。今話していた鍛冶師よりもずっと年季の入った雰囲気を纏っている。
彼が師匠の言っていたリーフェリオンらしい。彼は近づいてくると鍛冶師が持つ剣を一瞥した。
「この剣は……お前のか、人間」
迫力のある目で睨みつられる。その眼光の鋭さは並みの戦士には出せないものだ。
俺は怯まずに視線を返した。
「そうだ。俺が師匠から譲り受けた」
数秒、視線を交錯させた後、リーフェリオンは鍛冶師に向かって手を差し出した。
「見せてみろ」
鍛冶師は言われるままにリーフェリオンの手に剣を乗せた。
「親方、これも。なんでも親方に見てほしいとか」
剣と一緒に羊皮紙を渡されたリーフェリオンはまず丸められた羊皮紙を広げて中身を読んだ。
一瞬、それまでの強烈な圧力が嘘のようになくなって、懐かしむ顔をした。
しかし、すぐに読み終わったであろう羊皮紙をぐちゃぐちゃに丸めてズボンのポケットに押し込んだ。
そして、何事もなかったかのように抜き身の剣を見分しだした。
「それなりに使い込んでいるようだな。あいつの手よりもお前さんになじんでいる。……しかし、まだまだ未熟、か」
もう十分なのか、音を立てて鞘に納める。
「この依頼、儂が受けよう」
「お、親方⁈その剣はもう無理だ。死んじまってる。溶かして別の剣にうち直すならともかく、もう見かけしか戻せない」
「儂にはまだ生きているように見える。そもそもこいつの命運はまだ終わっていない」
そして、あらかた見終わったようで剣を鞘に戻すと、工房の奥へと引っ込んでいった。
気になる会話をしていたが、依頼は受けてくれそうだ。
数分経ってリーフェリオンが奥から戻ってきた。手には黒革の鞘に収まった剣を提げている。
「修繕の依頼はリーフェリオンが確かに引き受けた。こいつは修繕が終わるまでの代替品だ」
そういって渡された剣を受け取る。引き抜いてみると、俺の剣にそっくりで握ると手に吸い付くようになじむ。これまで握ったどの剣よりも、一番手に馴染んだ。
「本来なら四日は欲しいところだが、お前さんたちの出発には間に合わせる」
それだけ言うとリーフェリオンはまた工房の奥へと向かっていった。
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