第21話 勇者とエルフの剣士①

ハリョク騎士団に先導され木々に囲まれた道を進む。


急に森が途切れる場所に出ると、眼前には街が広がっていた。


どれも石や木で作られた頑強そうな建物だ。往来をたくさんのエルフが行きかっている。


驚いたのが義勇軍に向けられる嫌悪の視線が思ったほど多くないことだ。基本的に人間嫌いらしいエルフとは思えない。


むしろ興味深々といった様子のエルフもいる。


そして、一際目を引くのは、ここからさらに奥にある大樹だ。


もはや木と呼んでいいのかわからないくらい大きい。その大樹の枝葉は街の半分を覆うほどに広がっている。


枝も大木のように太く力強い。


「すごい……」


思わず出た感想だ。圧倒的な存在感と同時にこの森に満ちる魔力の源泉だとわかる。


道行く人の視線を浴びながら義勇軍は大樹へと進む。


最初のうちは好奇の視線が多かったが段々と嫌悪の割合が多くなる。


街の雰囲気も変わってきた。


建物は石材などは使わず、ほとんどが木製になっている。さらには森に半ば飲まれているような場所もある。


あまり開拓していないような印象を受ける。


さらに視線を向けてくるエルフたちも纏う気配が変わってきた。


剣を抜いた時の師匠に似ているかもしれない。


浮かれ気分だった義勇軍も話し声が減っていく。周囲の変化を感じ取ったようだ。


「全軍、止まれ!」


大樹が頭上を覆い隠すくらい近くまで来たところで号令がかかる。


空気中の魔力がより濃くなり、はっきりと感じられる。


視線を前に戻すとエルフたちと騎士団以外にもう一組いた。


五人いる。その中で遠目でも目立つ黄金の鎧を着た戦士。そいつだけは別格の風格を持っている。


師匠を含めない義勇軍に敵うやつはいないと思わせるほどの何かがある。


もしかしたら、師匠と同等かもしれない。


後ろからでは見にくい。


前に行くために馬車を降りる。


俺は前の方に行ってくる、とミレイナに伝えようと彼女を見て、気が付いた。


気分が悪そうだ。顔色もよくない。


「ミレイナ、大丈夫か⁉」


「…魔力が濃すぎて。安静にしていれば大丈夫ですから、私のことは気にせずに」


言いながらも辛そうだった。


魔術師である彼女は普通の人間よりも魔力と密接な関りがある。


だから、これほどまでに濃い魔力が漂っていると影響があるのかもしれいない。


魔力に体が適応するのを待つか、もしくは薄くできれば症状を和らげることはできるかもしれないが方法が———。


「あった」


適応できないが魔力を薄めるだけならある。


馬車に飛び乗ってミレイナに近づく。


「る、ルプス?」


状況がわからないミレイナが驚いたような表情で見てくる。


「召喚」


憑依召喚ではなく普通に召喚獣を呼び出す。


召喚獣は完全な形で存在するために大量の魔力を必要とする。


特に存在を維持するための魔力は召喚獣が空気中の魔力を吸収することで補う部分もある。


できるだけ目立たないようにヒカリを召喚する。


地面に降りて俺の方を見ているヒカリを抱きかかえ、ミレイナに渡す。


されるがままにミレイナは抱きかかえる。


ヒカリが甘えるように鳴きながら彼女の胸に頭を擦り付ける。


「…かわいい」


ミレイナが小さな声でボソッと呟いた。


ヒカリは竜種にしては珍しく人懐っこい。俺がこの場を離れてもミレイナに危害を加えることはない。


「ヒカリがいれば少しは楽になる、と思う」


小さくとも竜種。ほかの召喚獣よりも多くの魔力を消費する。


ミレイナの近くにいれば魔力濃度を薄くできるはずだ。


「ミレイナをよろしくな」


「キュル~」


ヒカリがわかったと言わんばかりに鳴く。


「ありがとう、ルプス。ヒカリちゃんもありがとう」


馬車を後にして前の方へ向かう。


どうやら前の方で話し合いをしているようだが、流石に大声で話してはいないので会話は聞こえない。


話し合いの内容はどうでもいい。どうせ後から騎士たちに伝えられるのだろうし。


噂通りの強さなのか、そして勇者の仲間はどんな奴なのか見れればいい。


話し合いをしている間、俺たちのような雇われ兵がやることは何もない。


手持ち無沙汰にしている人が周りにいるが、この場の雰囲気のせいか楽しそうに喋ったり何かをすることもない。


生命樹を見上げたり、街並みを眺めたりと暇を持て余している、といった感じだ。


人垣の間から勇者を見れる位置に着いた時には話し合いが終わったところだった。


義勇軍を率いる騎士が踵を返してこちらに戻ってくる。


この後、俺たちは荷物を降ろしたり、馬車の移動をさせられるはずだ。ここまで引いてきた馬に餌と水も与えないといけない。


諸々の雑用をやらされるはずだ。


勇者とその仲間がどんなものなのか観察してみたかったが、一度戻った方が良さそうだ。


そう思った直後、勇者と目があった———気がした。


兜で顔は見えないので気のせいかもしれないが、一瞬、視線がぶつかったような。


黄金の鎧は微動だにせず、義勇軍を見ている。だから錯覚かもしれない。


些細な疑問はすぐに忘れて、ミレイナのいる馬車へ戻る。

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