第18話 両断

四天王グレゴリオを倒したことを確認した途端にルプスは眠ってしまった。無理もない。


できるようになったばかりの技とその応用を使い続けていた。まだ何の意識をしなくても使える段階ではないだろうがそれも時間の問題だ。


グレゴリオの自爆によってドームは所々亀裂が走り壁が崩れているところがある。


ミレイナは最初、倒れたルプスに慌てていたがすぐに冷静さを取り戻したみたい。


彼を担いで壁に開いた穴から通路の奥へ消えていった。


このあたりはこの砦があったことで獣が少ない。きっと無事に野営地まで辿り着ける。


二人の姿が完全に見えなくなってから隠れていた天井の梁から飛び降りる。


無理やり壁を壊してこのドームまで道を開いたが、上にも入り口はあったから助かった。そうでなくてはこっそりと壁を壊すか、壁越しに魔力を探知して状況を見守るしかなかった。


「さて、いつまで隠れているんだい。まさか隠れるしか能がないのに四天王を名乗っているんじゃないだろ?」


「言うではないか、はぐれエルフ風情が」


ドーム全体から声が響く。


突然、グレゴリオが爆発して地面がえぐれている個所の修復が始まった。肉のようなぶよぶよと弾力間のあるそれが湧き出て穴を埋めていく。


穴を埋めただけでは終わらずに次は人型になっていき、グレゴリオが現れる。


「生きていたのかと驚かぬのだな」


「あんな分かりやすい自爆でだませるのはそこで戦っている奴だけさ。外から見ていればすぐにわかる」


グレゴリオはルプスの剣を固定した時点ですでに核を切り離していた。だから、自爆魔法なんて無謀にも走れた。


「ほう……解せんな。貴様、それほどの実力を持っているのになぜ、自分から分断されにいったのだ。貴様であれば我が分身体を楽に殺せたのであろう」


「そうだね。君程度なら一太刀で十分だ」


足元が揺れだした。いや、足元ではなく建物全体が揺れている。


「それはそれは。大きく出たものだ。貴様には特別に———」


グレゴリオが驚いたような表情で固まった。


「これは、貴様の仕業、か?」


信じられない、とでも言いたげに問われたので当然とばかりに頷いた。


「弟子にはまだまだこんなところで死んでほしくないからね。少しだけ師匠らしいことをしただけだよ」


「これが少し、だと。あの小童と戦っていた程度の時間で我が使い魔をすべて壊すことが……」


「ああ、そして君を殺すことも簡単だ」


グレゴリオの顔からサッと血の気が引いた。


「ちなみにここから伸びていた血管は斬っておいたから。君に残された肉体はここだけだよ。いやいや、建物丸ごと自身の身体としているとは恐れ入った」


「貴様、何が目的だ」


「弟子を育てること。それだけさ。君には礼を言わないとね、グレゴリオ。ちょうどいい踏み台となってくれてありがとう」


「ふ、ふざけるなァッ!!」


地面とグレゴリオの身体が触手でつながる。人型が崩れ変身しようとしている。


「我は永遠の命をもって魔法の深淵を目指すもの。我が秘術、その身に受け、灰となるがいい」


グレゴリオは周辺の壁や地面と同化して巨大になる。徐々に整ってきた形は不格好ながらドラゴンに近い。


最強の生命体であるドラゴン。確かにその姿を取ればそれなりの力を得ることができるだろう。


「……ルプスは僕と一緒だと指示を待ってしまうところがあってね。自分を過小評価してしまう。剣の才能も戦いの流れを読む直観もあるのに」


四つ足で翼のないドラゴンとなった四天王は上体を大きく逸らした。


ドラゴンの最大にして最強の攻撃手段であるブレスの予備動作。


「僕が背中を押したとはいえ誰かを守りながら、自分の限界を超えてくれた。君を倒したことはあの子にとって自信になる」


ドラゴンもどきの口の端からは漏れだした魔力が粒子となって輝いている。


「ルプスを成長させてくれた君には本当に感謝してるんだ。だから——」


「消え失せろ、エルフ————」


背負っている太刀を引き抜く。


一歩踏み込んだ。


次の瞬間には吐き出そうとしていたブレスが制御を失い霧散した。いかにドラゴンに近づいたとしてもこの一撃は目に映らなかっただろう。


「一太刀で卸してやろう」


グレゴリオに一本の線が入ると左右に倒れた。


一刀両断。


神速の剣戟は認識の間を与えずにグレゴリオを真っ二つに斬った。


儚く砕け散る核を見届けることなくその場を後にした。

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