第15話 障壁④

俺たちを掴んでいる魔力の腕がさらに加速した。


砦へとまっすぐに向かっていく。


このまま何もしなければ中で死んでいる人たちの仲間入りだ。


何もしないなら。


「ルプス、斬っていい」


「分かりました、師匠!」


これだけ派手に魔力を放出され近くにあったのだから完全に核が見えるようになっている。


剣を抜き放つと同時に俺たちを掴んでいる腕を両断する。


自由にはなったが地面までは高さがある。少しでも着地の衝撃を緩和する必要がある。


「憑依召喚:ストーム」


師匠が風の召喚獣の力で俺たちの落下する速度を緩める。


どん、と着地すると衝撃が足から突き抜けてくるが怪我はしていない。


「もう少し衝撃の流し方を覚えたほうがよさそうだね、ルプス」


ミレイナを抱きかかえた状態でありながら師匠は静かに着地した。


「———いますね、大量に」


何か言おうと口を開く前に何かが近づいてい来る音がする。


それはべちゃというものや、重たい何かの足音などがあって、いろいろ混ぜっているみたいだ。


「あれはゴーレム、それにゾンビとキメラまで……」


ミレイナが杖を構える。


砦の中から次々と出てくる使い魔。キメラとゾンビはほとんど人間の大きさだが、ゴーレムは2メートルくらいある。


一体だけなら大したことはないが数が多い。すでに姿が見えるだけでも三十体はいるが、出てくる数は一向に減らない。


「憑依召喚:サラマンダー!」


体内に自分とは別の魔力が宿る。それは腕を伝って剣に込められ、炎が刀身を包む。


「召喚:サラマンダー」


今度は師匠が通常のやり方で召喚獣を呼び出す。


師匠を中心にした魔法陣が展開し、周囲の魔力が集まり召喚獣を形作る。


燃え盛る炎の瞳を持つオオトカゲ、炎の召喚獣であるサラマンダーが顕現する。


「ミレイナは師匠から離れないで。師匠、お願いします」


「もちろん。先陣はまかせたよ、ルプス」


「ルプス、無茶しないで」


心配してくれながらもきっちりと支援魔法をかけてくれたミレイナに大丈夫、と手を振って使い魔の群れへ突っ込む。


使い魔たちが間合いに入った瞬間に剣に魔力を込め、斬り払う。


「ハアァァァァッ!」


炎が剣から放出され、範囲内にあるものを灼熱で焦がす。


ゾンビや死体で継ぎ接ぎされたキメラはそのほとんどが燃え尽きるが、岩石や鉄鉱石を材料に作られたゴーレムは半分くらい残った。


今ので消し飛んだのは十体くらい。魔力の消費が激しいこの技を連発していればすぐに魔力切れになってしまう。


「行け」


師匠が命令を下すと俺の頭上を火球が尾を引いて駆けていった。


それはまっすぐに使い魔たちが出てくる入り口、その上の壁へと当たり爆ぜる。


爆発に負けてガラガラと壁が崩れ、室内が見えた。そこには使い魔はいないように見える。


高さは五メートルくらいあり、もう少し前進しないと届かなそうだ。


「もう一度!」


さらに敵へと肉薄し同じ斬撃を放つ。今度は十三体、戦闘不能に追い込む。


そこへ師匠が走りこんでミレイナを抱えたまま、壁の穴へと飛び込んでいく。


俺だと身体能力が強化されていてもぎりぎり届きそうにないが、幸いにも踏み台が近くにある。


炎で倒せなかったゴーレムの一体へ走り寄る。


ゴーレムは所どころ焼け焦げているもののまだ動けるようだ。


俺を攻撃しようと丸太のような腕を振り上げる。


そして、俺が攻撃範囲に入った瞬間、振り下ろされたそれをぎりぎりまで引き付けて横に飛んで回避した。


腕は石畳を砕き地面へとめり込む。その腕へと飛び乗り、駆け上がる。


肩まで登り切ったところで思いっきり足場を蹴って飛ぶ。


限界まで手を伸ばして何とか破壊された壁の端に手を掛けた。


「ルプス、よくやった」


師匠が引き上げてくれる。その際に、下がどうなっているか横目で見てみると、際限なく現れる使い魔に埋め尽くされていた。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る