第10話 模擬戦闘と反省会

「ん~~~、おいしい~」


ミレイナが感激したような声を出して料理を口へ運んでいく。結構なハイペースで皿を次々と空にしていった。


模擬戦闘が終わった後、完全に体力と魔力を使い果たした俺たちは師匠から渡された回復薬——お手製のやつ——を飲んだ。


その時の記憶が曖昧になるくらい衝撃的な味だったが、飲んですぐに動けるようにはなった。


さすが師匠だ。


そして、反省と夕食を兼ねて昨日と同じ店に来た。ちょうど込み始めたころだったが


何とか三人分の席を確保した。


回復薬のおかげで体力が回復したとは言え、腹は減っている。


昨日食べて旨かったものと気になるメニューを頼み、食べていく。


「「ふぅ~~……」」


満腹だった。これ以上ないくらい食べた。それに聞いたこともなかった料理は予想以

上に旨かったし、昨日食べたものもすごく旨いと感じた。


それはミレイナも同じだったようで幸せそうな顔をしている。


「さて、食事も終わったところで本題に入ろうか。二人とも今日はどうだった?」


そう師匠が切り出して、まずミレイナが答えた。


「私はルプスを援護することしかできなかったのですが、自分の身を守れなくてルプスに助けてもらったりして……足を引っ張ってしまうことが多かったと」


「俺も師匠に一撃入れることばかり考えていて、ミレイナを助けるのが遅れた」


ミレイナは自分の身を守れなかったと言っていたがそんなことはない。あの師匠が相手なのだ。もっと協力して立ち回るべきだった。


「確かに二人とも動きがかみ合っていないことが多かったけど、最後のはよかった。拘束のタイミングも、呪いをかけられるのも追い詰められたよ」


呪い?


魔力の感知に集中していたが発動した術は事前に聞いていた拘束魔術だけだったはずだ。


疑問に思い、ミレイナに視線を向けると目があった。


苦笑しながら説明してくれる。


「実は拘束魔術と同時に、動きを鈍くしたり平衡感覚を狂わせる呪いを発動させてたんです」


一番魔力を消費する術に紛れていたから気が付けなかったようだ。感知できなかった理由はわかったが、複数の魔法を同時に発動させるのかなり難しい。


「あれは本当に焦った。解呪しようにも魔力が乱されすぎて、まともに発動できる術なんてなかった。君は強い魔術師だ」


「そんなことは……」


ミレイナは褒められてまんざらでもなさそうだ。


「それはそれとして、師匠。最後のアレ、どうやったんですか?」


「あれ?」


「炎と風を一瞬で切り替えたじゃないですか。召喚の手順を完全に無視してるじゃないですか」


最後の一瞬、師匠は火球を放つように見せて、実際には風魔法を暴走させた。


それに気が付けなかった俺は不可視の衝撃波をまともにくらってしまった。


「ルプス、召喚の手順は覚えているかい?」


魔法を学び始めた時に教わったことだ。当然覚えている。


「まず門の形成、開門、召喚、固定の四つです」


召喚獣とは俺たちとは別の世界で暮らす存在らしい。彼らをこちら側に呼び寄せるための道、それが門と呼ばれるものだ。それは魔法の術式としての概念であり、大きさや強度は召喚する対象によって異なる。


次に形成した門である術式を魔力を込めることで発動させる。これが開門。


そして、憑依召喚でも通常の召喚術でも最も重要なのが召喚の段階だ。


門を通して召喚獣を俺たち側へ連れてくるのだが、門を通ることは容易ではない。


限定的とはいえ、別の世界とつながる穴をあけるのだから、召喚獣にもよるが消費する魔力はかなり多い。


最後に召喚を固定させる段階。


召喚直後は存在が不安定で強力な力なども使えない。そのため魔力で召喚獣がこちら

側にとどまるための器を作る。こちらでの姿と言ってもいい。


憑依召喚では器を自身の肉体とすることで固定させるための魔力をなくしている。


「そうだね。通常の召喚ならば魔力さえあれば同時召喚だってできる。しかし、僕らの憑依召喚では召喚先が自身の体だから、複数同時に使うことはできない」


「えっと、それならその工程を速めて召喚したのではないのですか?」


「いや、それはできない」


ミレイナの考えをすぐに否定する。


「俺も師匠も限界まで工程を速めることはしてきた。そのうえで早すぎるんだ。憑依召喚では中の召喚獣が完全に退去するまで新しい召喚獣を呼ぶことはできない」


門の構築でさえままならない。身体を器とすると出入口が一つに限定されてしまうから。


「答えは簡単さ。僕が最初に宿していたストーム——風の召喚獣を普通に召喚してから炎の召喚獣を憑依召喚したんだよ」


「確かに、それなら……」


工程を速めるよりもずっと早く召喚できる。


召喚術を使わないミレイナはまだわからなそうに小首をかしげているので説明する。


「召喚術は召喚獣を呼び出すために世界に穴をあけるんだ。大きさは召喚獣の強さに

もよるけど、一時的ですぐにふさがってしまう程度なんだけどさ。


その段階が一番時間が掛かるんだ。術式も複雑だし。けれど、それは世界をまたいで召喚する場合の話で———体の内側から召喚しようとしたら、普通よりも術式が簡略化できるし、時間もかからない」


それに憑依召喚は二体同時に体に宿すことが不可能なだけで、術式自体は呼び出す寸

前まで進め待機させておけば、身体が空いた瞬間にほぼ時間差なく召喚できる。


召喚術におけるその辺りのことを教えると、ミレイナは納得したように手をぽんと叩

いた。


「それであの発動速度なんですね」


「強力な分、術式の同時発動は難しいからそう乱発はできないけれどね」

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