第7話 特訓

この街で募った討伐軍の出発は二日後なのでまだ時間がある。戦闘での役割などは翌日に話し合うことにして今日は解散した。


街中を歩き幸運にも一部屋だけ空いている宿を見つけることができた。街の端、海に面している宿屋でぼろいように見えるが、中は掃除が行き届いている。


部屋はかなり狭い無理やりベットを二つ押し込んでそれ以外のものは排除したような感じだ。


冒険者が集まるということで急遽、用意したのかもしれない。


とりあえず荷物を部屋の隅に置いて、剣を手入れする。


「明日の訓練で使えそうな場所を探してくるから、その間、これをやってなさい」


師匠は自分の荷物から取り出したものを放ってくる。


磨かれたような光沢をもつ黒い石。僅かだが魔力を帯びている。


「これは——魔力石、ですか?」


魔法への耐性や耐久力が優れた武具を作るのに必要な鉱石の一つ。


また何らかの魔法を使うことができる魔剣の生成にも使う。


しかし、加工が尋常でなく難しく、専用の工房でないとまともなものは作れない。


「ちょうどいい機会だから魔法に対抗するための修練をしようと思ってね。家にあったのを持ってきた。それを魔法を使わずに剣で斬ってみなさい。期限は……次の街に着くまでにしようか」


他に何も言わずに師匠は部屋を出て行った。


最低限のことしか言わないということはすでに教わったことを使えば何とかなるということでもある。


「斬鉄と同じ感じ、か?」


鉄を斬るための剣技であり、鍛え上げられた鋼の鎧でさえ紙と同じように斬れるようになる。


真っ先に思い付いたのはそれしかない。


ベットの上に立ち、剣を構える。


広さ的にはぎりぎりであるものの、剣を振るえる。


斬鉄の際にどうにか言葉にできるものがあるとすれば、核のような場所を斬ることだ。最も脆い部分と言ってもいい。


それを見極める感覚と、狂いなく精確に切り裂く技術が必要となる。

左手で魔力石を放り投げる。


神経を尖らせ集中する。


落ちてくる魔力石がやけにゆっくりと感じる。


直観的にここだ、という場所を狙って斬りつける、が——


ぎゃりんと、鼓膜を刺激する嫌な音がした。


石は斬れていない。何事もなかったかのようにぽす、とベットに落ちる。


手ごたえもない。失敗だった。


それから何度か斬りつけるが一向に切断できる気がしない。


返ってくるのは耳障りな音と、硬いものを斬りつけた時の感触だけだった。


そうこうしているうちに師匠が戻ってきた。俺のことを一瞥すると、まだまだだなとだけ言って自分はさっさと寝る準備をしている。


師匠が寝ている傍で剣を振るうわけにはいかないし、明日は早い時間から三人で訓練をすることになっている。


今夜はあきらめ、眠りにつこうとしたが石を斬る方法が気になって考えてしまう。


そうしているうちに窓から見える空は明るくなっていた。

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