第6話 ミレイナの理由

その小さな体のどこに入るのだろうか。


ミレイナの食べっぷりを見ていて不思議に感じた。


テーブルの上を占領していた皿の半分を一人で空にしている。


「あの、一つ聞いてもいいですか?」


ミレイナが視線を師匠に向けて聞いた。


「構わないよ。これから一緒に戦っていくのだから」


「それでは……」


テーブルに身を乗り出し、声を抑えながら口を開いた。


「リュウさんは、エルフですよね?純粋種の」


思わず口元に運んでいたスプーンの動きが止まる。


なんで師匠がエルフだとわかったんだ。


食事中はもちろん、この街に来てから耳を見せるようなことはなかったはずだ。


「ああ、そうだよ。森と共に生きるエルフさ」


フードを少し持ち上げてとんがり耳を見せる。


「そうなんですね・・・あ、言いふらしたりはしないので安心してください」


「助かるよ。エルフというだけで因縁をつけられたりすることもあるのでね。それにしてもよく僕がエルフだってわかったね」


「それは纏っている気配と魔力が自然すぎたので……」


「なるほど。いい感覚をもっている。そこまでの感覚を持っている魔術師は希少だ」


魔力を知覚するのは魔術を使うための基礎だ。自分のでさえ知覚するのさえ難しいが他人の魔力であれば尚更だ。


相手が魔術を使えばなんとなくならわかることもある。それを何でもない状態でやってのけるとは……。


ミレイナのことを少し頼りなく感じていたが、認識を改める必要がある。


「ミレイナさんは凄いな。気配は兎も角、魔力はまったくわからなかった」


素直な感想を口にする。


これから鍛錬すればできるようになるだろうが何年かかるか。


「昔からそういうものはわかるんです」


それから食事を再開した。


お互いに緊張が解けたのか普通に喋れるようになっていた。


村でのことや剣術、魔術のことなど色々話した。


ミレイナが貴族の娘であることには驚きもしたが納得もした。礼儀正しいし、見るか

らに育ちがよさそうではあった。


これまで会った魔術師は傲慢な奴が多かったから余計にそう見えるのかもしれない。


貴族といっても大きな領土や権限を持っているわけではないそうだ。


なんでも祖母が商会を作り、国の交易に影響を起こしたので貴族に召し上げられたそ

うだ。


「ミレイナは貴族なのに戦うんだな」


「貴族としての責務もありますけど、祖母の言葉でもあるんです。自分にできることを見つけたのならまっすぐ前に進みなさいって」


ミレイナの力は敵を倒すものではない。誰かを助けることができるものだ。


しかし、彼女自身は非力だ。前に出てまで戦う必要があるのだろうか。


「そういえば祖母が若い頃、盗賊に襲われた時のことなんですけど……。大きな剣を持ったエルフの剣士が現れて、助けてくれたそうなんです」


「大きな剣を持ったエルフの剣士……」


俺とミレイナの視線が師匠に向く。


大太刀を佩いた師匠は件の剣士と特徴は一致するが———。


「僕じゃないよ。期待に沿えなくて悪いね」


「そんなことないです。ただ、今の私がいるのはその人のおかげでもあるので……お礼を言いたかったんです」


ミレイナは胸元に手をやって何か大事そうに握りしめた。


師匠の横顔を盗み見ると、たまに向けてくる優しそうで、そして誇らしそうな表情をしていた。

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