第2話 村と報酬

村に戻って村長に魔獣を引き渡した。


数日の間に少なくない被害が出ていたので、本当に助かったと感謝された。


「魔王の復活から、収穫量が減っていたところにこれだからな。本当にありがとう、ルプス坊」


「もう坊って年じゃねーよ、村長。村の人たちには食料とか分けてもらってるんだし、お互い様。それより、その魔王ってやつ、まだ倒されないのか?」


「勇者の伝説をしらんのか?」


「まったく。師匠はそういう話してくれないし、剣術には関係ないからな」


あきれたように村長は溜息をついた。


「よいか、魔王とははるか昔に現れた災厄の名じゃ。当時の国がいくつも滅ぼされ、

勇者が現れなければ、この地は魔王に支配されておったじゃろう。そもそも配下の魔獣でさえ、討伐するのは一苦労だそうだ」


「ああ、そういえばガキ共がそんなこと言ってた気がするな」


もっともそれは勇者ごっこに付き合わされた時に言っていたことなので、半分以上聞き流していた。


「ルプス坊もまだ十五じゃろう・・・。そういえば、今度の討伐軍では勇者様がついに出陣なさるそうだ。あと少し耐えれば、昔のような生活に戻れるはずじゃ」


「討伐軍?そんなものがあるのか」


「正規軍だけでは人が足りないのかもしれんな。魔王を討伐することのみを目的として結成するらしい」


「それなら今度こそ倒して欲しいな」


報酬の入った袋を担いで、村長の家を後にする。足りなくなっていた日用品などを買い足した。


ずっしりと重くなった袋を担いだところで声をかけられた。


「あ、ルプス兄ちゃん!」


村の端の広場で遊んでいる子供が三人、駆け寄ってくる。


「ダイア、ヨーク、オニキス。久しぶり」


いつも集まっている三人組。森に入って迷子になっているところを助けてから懐かれた。


以来、村に来るたびに遊んだり、話したりしている。


「ねぇねぇ、ルプスが熊を退治してくれたんでしょ!ありがとう!」


「魔法は?魔法は使ったの?」


わいわいと楽しそうに聞いてくる、ダイアとヨーク。


そんな男児二人と少し離れて、オニキスは弟達を見守る姉のように笑顔を浮かべてい

たが元気がないように見えた。


「オニキス、どうしたんだ。具合でも悪いのか?」


オニキスは首を横に振り、大丈夫というだけだ。


何かあるのだろうが、話したがらない。


こういう時、師匠ならそれとなく聞き出せるのだろうが正直俺はそういうのは苦手だ。


どうしたものかと考えていると、ダイアが教えてくれた。


「兄ちゃん、熊が襲った家畜小屋はオニキスの家のなんだよ」


「そうだったのか・・・」


オニキスの表情が一層沈んだ。


小屋の中は凄惨なことになっていたと聞いた。


詳細は聞かされていなかったが、子供たちが言うには、飼っていた家畜は全滅したらしい。


建物自体もいつ倒壊してもおかしくない程度には壊れているという。


ぐぅとオニキスのお腹が鳴った。手を当てて恥ずかしそうにうつむいた。


家畜も満足に育てることが難しい状況で、今回の被害を受けたら経済状況はかなり悪くなるだろう。


だからと言って俺は何もできない。


魔獣討伐の報酬が入った袋を漁って、黒パンを取り出す。少々固いが日持ちはする

し、腹持ちもいい。


「腹が減ってたら、遊べないだろ」


オニキスはパンを見て、迷うように視線を動かした。


このままでは受け取りそうにないので押し付けるように渡した。


「お前たちも、これ食ってオニキスの家の手伝いしてやれよ」


ダイヤとヨークにもパンを渡した。


「いいのかよ、ルプス兄ちゃん」


「俺は別に。食料の備蓄はあるからな。それより、お前たちの元気ない姿を見る方がよっぽど嫌だ」


いざとなれば木の枝や、虫でも食える。森にあるものは大抵は食おうと思えば食える。


師匠に鍛えられたから。


それじゃあな、とその場を去って森の中の家へ歩を進めた。


自己満足だろうとこれくらいはしたい。


子供たちもだが、村の人たちはほとんど元気がなかった。数年以上、不作が続いている。それは年々酷くなっているらしい。


今のところは餓死する人はこの村では出ていないが、来年はどうなるかわからない。


それもこれも魔王が復活してからのことだ。




「・・・魔王討伐、か」







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