第三十話
その時だった。
「何を遊んでいる。能無しの下僕どもが」
天を蹴り倒し、その体をピンヒールで足蹴にしたのは、このレイキ会を仕切る綺羅々、まさにその人物であった。
彼女の後ろでは
「さすが義理姉様、相変わらずだねっ」
と紫月が席を作って煉を従え呑気にお酒を煽っていた。
まさにフリーダムな空間である。
「姫さん、そこ気持ちええぞ!」
「黙れ。重要な話だ。皆もよく聞け」
一体、何のために招集されたのか。
そわそわとしていた全員が、天を踏みつけたままの綺羅々の言葉を待つ。
「とあるモノが姿を消した。至急、奴を見つけ出し、レイキ会へ連行しろ」
と、一枚の紙を掲げる。
そこに記載されている人物に、空間がざわりと揺れた。
「動かんモノは京ノ都タワーのてっぺんから釘バットで千回ホームランだ」
名前は、霧野 零。
特徴は金髪である。
神、祭、そして大河も何度かこのレイキ会で見かけた人物だ。
「義理姉様、それボクも含まれるのかい?」
「当然だ。貴様は奴について知っているのだろう?」
「そこそこの付き合いだよ~。深くも浅くもない程度。まぁ、頑張ってみようかなぁ」
「ちなみに、見つけて
ざわざわっ、とさらに空間が揺らいだ。
あの、ケチな鬼喰姫が
レイキ会が発足して以来、初めての出来事である。
「わぁいっ。義理姉様、太っ腹!」
「早い者勝ちだ」
一斉に“人”や“人ならざるモノ”達が動き出した。
レイキ会内での指名手配犯の為ではない。
自分達へのご褒美ならざる、特別給料の為だ。
「んー。
「黙れ。貴様の息子を狐鍋にされたいか。探せ、と私は言ったのだ」
再度、綺羅々は床に転がっている天にピンヒールを打ちおろした。
「がはっ。ひ、姫さん……今のは、効いた……」
「ダメぇぇええええ! 祭ちゅわんはパパが守るからね! 探します! 探させていただきます!」
「それじゃあ私は邸に戻りましょうかねぇ。大河、この機会に私のお嫁に」
のほほんと言ってのけたのは晴明だ。
「一人だけ楽するなんて許さないからね! ついでに大河クンはお嫁に出しません!」
「パパ上。俺は男ですから嫁になりません。ついでに、こいつに嫁ぐのは死んでも断る」
「何、無駄話をしている。探せと言っているだろう。貴様自身も狐鍋にするぞ。私は出かける。下僕ナンバー2501。何をいつまでも寝ている。妖力車を出せ」
いつの間に復活したのか、天は起き上がる。
「姫さんのためなら、えんやこらさっさ~じゃ」
「じゃあ大河は晴明と組んでねっ。あ、あと晴明。後でお邪魔するから」
「分かりました。では大河、行きましょう」
「貴様、離せ!」
そうこうしているうちに、取り残されたのは神と祭である。
二人は顔を見合せて
「どうしようか、パパ~」
「どうしようかねぇ、祭ちゃん。頼りの大河クン、連れてかれちゃったし」
これだけの“人”や“人ならざるモノ”達が動いている中、一体、どこを探せばよいのか。
しかし捜索に参加しなければ、一緒に狐鍋にされることは必至だ。
神にはその“人”が、特別給料を出す程のものではないと思っていた。
だからこそ何故、綺羅々が特別給料を出してまでこれほどの“人”や“人ならざるモノ”達を総動員してまで探すのか理解が出来ないのだ。
「とりあえず、散歩がてら探そうか」
「うんっ。狐鍋は怖いもんねっ。パパとお散歩、久しぶりだ~」
そうして、レイキ会史上初の、特別給料を賭けた大捕り物大会が開催された。
霧野 零。
その人物たった一人のためだけに。
****
晴明に連れていかれた大河は、晴明の邸にいた。
そこにはすでに、紫月と煉が待っている。
「やぁ。先に上がらせてもらったよ」
「相変わらず足が速いですね。紫月さんは」
「おい。何故、俺達だけがここにいるのだ」
紫月から差し出されたお茶を飲みつつ、大河は不思議に思う。
またもや神や祭には何も知らせないのかと。
「神さんと祭くんには後でボクが話すよ。とりあえず、晴明と大河には先に探し始めて欲しいモノがあるからね」
「信用ならんな」
「そこは信用したまえ。前回と違って、神さんや祭くんに聞かれて困る話でもないんだから。とりあえず先にキミには話して協力してもらった方が神さんや祭くんを説得しやすいからね。分かってくれるだろう?」
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