第二十九話

「と、言うわけで。二人とも、この後一緒に行くよ」


 所変わって、いつもの美味しい朝食を食べながら、神は大河と祭に話を切り出した。

 今朝の朝食は和食だ。

 土鍋で炊き立ての白ご飯。

 豆腐とわかめの味噌汁。

 炭火で焼いた焼き立ての塩鮭。

 大根おろしを乗せた綺麗な卵焼き。

 納豆に、海苔、青菜とたくわん……立派な和朝食である。


「と、言うわけで……と言われましても。よくわかりませんが」

「どうしたの? パパ~」


 朝から電話が鳴り響いているのは知っていたが、この神社に電話が入ってくるのは滅多にないこと。

 何か良からぬ人物からの電話であろうと推測されたため、大河は放っておいたのだ。

 が、出たのはハデス。

 大河は物陰から自分はいない、とジェスチャーでハデスに伝えた所、上手くメッセージを受け取ったハデスは、大河は買い物に出ていると伝えたのだ。

 大河は内心、グッジョブだと親指を立てた。

 ロクな電話には出るべからず。

 出たが最後、巻き込まれる。

 電話の人物から神に代わるように言われたのか、ハデスは大人しく神を呼びに行ったのだ。


「朝の電話の件ですか?」


 とはいえ、電話の内容はどうやら大河や祭にも関係のあった話であるらしい。

 出ても出なくても、どうやら何かに巻き込まれるようだ。


「そ。大河クンが無視してくれた電話。綺羅々ちゃんがね、全員集合! って号令出してるの。来ない奴は京ノ都タワーのてっぺんから、百万回釘バットで叩き落とすの刑だってさ」


 しかも全員集合とは。


「ハーくんはどうするの? パパ。ハーくんはカーくんの、えっと……下僕さんだから、レイキ会とは関係ないよ?」

「詳しい話が分からないから、とりあえずハデスくんには神社でお留守番していてもらおうかな。ね? 大河クン」

「そうだな。ハデス。悪いが残っている家事を任せてもいいか?」

「かしこまりました。わたくしめはこの神社にいますので。カイル様がいつ戻って来ても良いようにしておきます」


 そういう訳で、神、祭、大河の三人は朝食を食べた後、すぐにレイキ会本部へと出かけた。

 京ノ御所から北東。

 つまり、艮の方角にレイキ会本部は在る。

 普段は人の目につかない、古い民家。

 国の文化財に指定されているが、その入り口から一歩入った先は異界に繋がっていた。

 ちなみにその民家の所有者は代々の安倍晴明だ。

 余談だが普通の“人”がその民家に入った場合は、内装も空間も普通の民家である。

 三人はその場所へ向かい、堂々と民家へと入っていく。

 長い回廊を歩き異界へと通り抜けた先は、体育館のように広くなっていた。

 一部を使用する場合は結界で仕切り、部屋として使用することが出来る、便利な異界となっている。

 今回はそんな体育館のように広くなっている場所に、レイキ会に所属するありとあらゆる“人”や“人ならざるモノ”達が集っていた。


「わー! すごいねっパパっ」

「壮観だねぇ。でも、全員を集めるほどの、何が起こったんだろうね」

「おーぅ! ひっさびさじゃのぅ!」


 声を掛けられて振り返れば、ひしめく“人ならざるモノ”達の間を縫って天が手を振りながら近づいてきた。


「何だ馬鹿天狗。相変わらず汚くて臭いな。風呂に入ってから来い」

「オレっちは気にせん気にせん。そんな怖い顔せんで。それより、話は聞いたかのぅ?」


 どうやら天は事情を知っているらしい。


「何も聞いていないのに知ってるわけないじゃない。というか、いつ鞍馬の良いお酒送ってくれるわけ? 前回奪われた高級酒の怨み、全然消えてないからね」

「意地汚いのぅ。酒くらいなんじゃい。酒はコレクションするんじゃなくて飲むもんじゃ」

「意地汚いのは貴様だ。馬鹿が」


 神、大河は天を睨みつける。


「ねぇねぇ、天さんっ。どうしてボク達、綺羅々ちゃんに呼ばれたの?」


 小首を傾げながら祭が天に問うと、天は声を潜めてここだけの話、と口を開く。

 神と大河は天を睨みつけつつ、しかし綺羅々が全員招集する理由は聞きたいため、天の言葉を待った。


「実はの……オレっちも知らん」


 三人はずっこけた。

 盛大に。


「貴様は……ふざけているのか! 今すぐ土下座をしろ。そうすれば三分の二殺しで許してやる」


 大河は腰に刷いている刀を抜くと、天に向ける。

 今すぐにでも首を落としそうな雰囲気である。

 狭い空間で、大河が刀を抜いたため、周囲の“人”はもちろんのこと“人ならざるモノ”達も一斉に空間を空ける。

 今にも刀を振り下ろそうとした大河を止めるように羽交い絞めにしたのは安倍晴明であった。


「お久しぶりです、大河っ。あぁ、逢いたかったです」

「離せ! 今すぐこの馬鹿天狗を斬り刻まなければ、この怒りは治まらん!」

「おやおや。ご乱心ですね。でもダメですよ、綺麗な顔をしているんですから、馬鹿天狗に怒りを向けるより、私に愛情をくださいよ」

「うるさい。貴様も一緒に刻んでやる。存在自体が気持ち悪いから離せ!」


 その時だった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る