第二十七話
ヤトへの依頼。
リト・エトワールの捜索、あくまで事情聴取のための連行。
カイルへの依頼。
ノイン・ログの捜索、犯人の特定、取り戻すこと。
「兄貴が蔵書室にってことだけどよ、他にその日、蔵書室に入った奴は?」
「それがおらんのだ。申請ではリト・エトワール以外おらん。じゃが、何かしらの方法を使い、入り込んだ上、持ち出したのであろう」
「今回の依頼を成功した暁には、ヤト・クライス。お主には魔術協会十二円卓の席を用意する」
「そしてカイル。お前には日ノ国支部の支部長に正式に着任してもらう」
もちろん、前回の顛末書などはこれ以上はなしにするということだ。
「え。円卓の席なんていらないんだけど。まったくもってご褒美にならないんだけど」
「日ノ国支部の支部長ってよ……結局、派遣されてるのオレ一人じゃ……」
「では、これにて話は終わりじゃ」
ベルで呼ばれた三賢人付きの魔術師が入って来てヤトのロープを手際よく外す。
「ちょ、待って待ってクソジジババ!?」
「お主らの成功を祈っとるぞ」
「ちょ、マジっスか!?」
「渡航費も報酬ももちろん別途出してやるからご褒美の為に仕事はきっちりとしろ」
そうして、追い出された。
ヤトとカイルは、閉じられた重厚なチョコレート色のドアをしばし見つめる。
「……どこが、ご褒美? 余計な重荷、背負いたくないんだけど」
「全然ご褒美じゃねェよ。ご褒美どころか正式に左遷じゃねェか」
せめて好きな報酬なり願いなり言ってみろと言われた方がご褒美だ。
「師匠」
「ま、とりあえず放ってはおけない案件だよね。リトが巻き込まれているし、ノイン・ログが持ち出されたってのも……」
ひとまず、報酬やご褒美のことは全てが終わってから訴えなおそう。
そういうことでカイルとヤトは魔術協会で空いている一室に入る。
「私はクソジジババの言う通り、リトを探すよ。まったく、あの子面倒くさがって携帯に番号登録してくれなかったから探すのが大変だ。とりあえずカイルは言われた通り、ノイン・ログを頼むよ」
「分かったぜ」
と、不意にヤトの携帯に着信が入った。
どうやらメールらしい。
「やっぱり携帯って楽だよね~。今まで自腹だったのが去年ようやく協会からお金出してもらえるようになって嬉しいよ。こんなことなら、全員支給にすればっと、晴明さんか」
どうやら晴明からの着信だったようだ。
内容を見て、気楽な表情をしていたヤトの表情が段々と真剣なものに変わる。
そして無言で携帯をカイルに手渡した。
読めということらしい。
カイルはメッセージで届いた文面に目を走らせる。
事件は日ノ国でも起こっているらしく、霧野 零なる人物が行方不明であること。
東の黒魔術の書として“人ならざるモノ”達に伝わっている第九の書が消えたことが書かれていた。
似ている。
消えた人物は、西はリト・エトワール。東は霧野 零。
消えた書物は、西はノイン・ログ。東は第九の書。
「師匠。これってよ……」
「どうやら、東方魔術協会がちょっかいかけてきたってジジババ共が言ってたから、手法は東西混合。必要かどうかは分からないけど生贄も東西で一人ずつ。何かしらやろうとしているという所かな。多分だけど」
生贄が必要になるような儀式。
ハデスのように死神などの高位の存在が勝手なことをしているのではない。
人工的に、何かを召喚する場合もあるのだ。
そこに魔術師が絡めば、それは当然、大ごとである。
「東方魔術協会のことカイルは知っていたかな?」
「いや。あんまり知らねーな」
そうだろうなとヤトは頷く。
自分自身、カイルには存在だけ教えて具体的に説明はしていなかったはずだ。
「東方魔術協会は悪魔の存在を至上としている魔術協会でね。黒魔術がメインなのさ。正直なところ、私としては魔術に白も黒もないとは思うよ。どちらにしても人を殺すことが出来るのだから。この魔術協会だって神や女神を崇めているわけじゃないしね」
カイルはヤトの言葉の続きを待つ。
「かつて歴史上にあった魔女狩りや異端審問。そこには東方魔術協会と魔術協会の前身も関わっていたんだ。魔女狩りや異端審問が過ぎ、人々の記憶から魔術というものが薄れてきた頃、二つに分かれて今に至る」
「二つに分かれたっつーのは、何かあったのか?」
「さて。何があったのかは私も知らなくてね。あの化石のようなジジババなら知ってるとは思うけれど……。ま、様々なものの発足というのはいつも突然に、そして事件が絡んでいるものさ」
「とにかく東方魔術協会とやらは、何かを召喚しようとしてるってことか? 生贄が必要になるほどのことを」
そういうことだとヤトは携帯をしまって頷く。
敵、と言うには少し違うが止めなければならないのは東方魔術協会だろう。
「魔術協会も東方魔術協会がどこに拠点を置いているか分からなくてね。ただ何を召喚するにしても場所が重要だよ。だからカイル、もしかすると日ノ国にノイン・ログを持ち込んだということは、日ノ国で召喚は行われるということだと思う」
カイルも思い至り、頷く。
後は生贄が揃ってしまえば儀式を始めてしまうかもしれない。
リトが逃げ回っているということは、まだリトは東方魔術協会に捕まってはいないということだ。
ヤトが保護するのが先か、東方魔術協会の魔の手に絡めとられてしまうのが先か。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます