第二十三話
カイルが出ていった後、祭は日当たりの良い縁側で、足をぶらぶらさせていた。
その隣では大河が茶を飲んでいる。
「さっき出掛けちゃったばかりなのに、カーくんがいないと暇だなぁ……」
「そうか? 静かだ」
「大河は素直じゃないよね。ボクには、カーくんが来てくれて大河、嬉しそうに見えたもん。それに、仲良くなってから毎日すごく楽しそうだよっ」
祭に指摘されて、否定をしようとしたが考え直す。
確かに、楽しかったのだ。
飽きない。
「そうだな。祭の言う通り、そうかもしれん……。もはや、奴も儀園神社の一員だからな」
祭は嬉しそうに笑い、しかし次の瞬間、表情を曇らせた。
「早く帰って来ないかな……。怪我、するようなお仕事じゃないといいね」
「仕方があるまい。どのような仕事かは知らんが、俺達にはどうすることも出来んからな」
うん、と祭は頷く。
分かっているのだ。
カイルと自分達では、立っている場所が違うことくらい。
それでも……今までにない体験をしている。
普通とは違った場所で”人ならざるモノ”と”人”が共存している。
毎日楽しく話をして、喧嘩をして、言いたいことを言って……まるで普通の“人”のように。
本当なら出来ないことだ。
何故なら、かつてのように光は明るく、闇は暗くという時代はとうに失われてしまった。
夜であったとしても常に明るい光がある時代。
もちろん、その分、闇も深いが昔のように”人ならざるモノ”を視ることが出来る”人”は随分と減って何となく嫌な予感であったり、嫌な気分になったりという程度になり、現代”人”は闇に対して鈍感になってしまったと思う。
視えない“人ならざるモノ”はどんどんと忘れ去られて行く……。
存在していたかもしれないが、科学的には存在することなど出来ない想像上のモノ。
それが現代”人”にとっての”人ならざるモノ”の価値であり評価。
「カーくんは、大変だね」
「そうだな」
いつもならドタバタと掃除に洗濯にと大変だが、今日はハデスが料理以外をやってくれるというので大河も大いに任せている。
だから祭とゆっくりと茶を飲みながら束の間の休憩のように話が出来るのだ。
「怪我をして戻ってきたのなら、思い切り笑ってやればいい。そうだな……骨折したならば、ギプスに散々落書きをしてやろう」
「それ楽しそう!」
二人で楽しげにどんな落書きをするかを話していると、通りかかったのは神だ。
どうやらお茶が欲しくて部屋から出てきたらしい。
「何なに? 二人して何楽しそうなこと話してるの?」
「パパ! あのね、カーくんが骨折して帰ってきたらギプスに落書きしようねって言ってたの!」
「それは楽しそうだね! うん、骨折して帰ってきたら絶対、笑い飛ばして落書きしてあげなさい」
悪戯好きの神が、止めるはずがない。
「楽しみだなぁ、落書き」
「祭。一応、怪我がないことが一番だからな。“人”など弱いのだ。何事もなく無事に戻ってくればラッキーぐらいにな」
遥か向こうの国に到着するのは、まだ時間がかかるだろう。
日ノ国から出たことのない大河や祭、神にはどれくらいの時間がかかって、どのくらいで到着をして、どのくらいで日ノ国に戻ってくることが出来るかも分からない。
「何にもなければ良いのだがな……」
「本当に、大河クンったらカイルくんにべったりだねぇ」
「違います。危なっかしくて見ていられないだけです。そうでなければ、矮小な“人”ごときと交わるつもりは毛頭ありません。パパ上。奴のことでからかうことも含めて、俺に何かしでかしたら、いくらでもパパ上がこっそり買ってきては収集をしている高級酒、売り払いますからね」
しれっと言い返す大河に対し神は横暴だとか慈悲がないとかぶつぶつと文句を言うが、先日、三食漬物二切れの刑に処されたので、それ以上文句は言わず、はいはいと返事を返しておいた。
「あーあ、本当にカイルくん、早く帰って来てくれないかな」
パパつまんないっ、と一つ大きく伸びをして、神は自室へと引き上げて行ったのだった。
****
その頃―――魔術協会では騒ぎが起こっていた。
「見つけたか!?」
「いえ、見つかりません!」
一体誰が……。
魔術協会内にある蔵書室。
ここから無くなってはならないモノが消えたのだ。
突然、忽然と。
「リト・エトワールを呼び出せ! それと、ヤト・クライスも! カイル・シュヴェリアはまだか!?」
リトは連絡先がなく、連絡がつかない。
ヤトについても連絡をしているが既読がつかないと魔術師達は口々に報告をする。
唯一、カイルだけはこちらに向かっているという情報を掴んでいる。
「とにかくリト・エトワールを探し出し、ヤト・クライスは確保をしろ。それから、カイル・シュヴェリアにあてがうつもりだった任務は他の者に回すのじゃ!」
念のため、カイルには慎重を期して戻れと伝達しておいたのが少しは役に立つだろう。
不味い事態になった……そう、三賢人達は歯噛みをした。
二度と外に出さず、日の目を見ることは永遠にないだろうと思っていたが……。
「何事もなく、蔵書室に戻れば良いが……」
嵐は、すぐそこまで来ているのかもしれない、と誰もが不安を抱いていた。
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