第二十一話

「はぁ……出掛ける準備、するか……」


 もう疲れ果てていた。

 派手すぎる悪戯は鳴りを潜めたものの、イライラとするような細かい悪戯は継続中だ。

 ストレスが溜まる一方である。

 エアメールがちゃんと届いたのか、再びカイルの元に航空券が届いたのは例の悪戯からさらに二週間後のこと。

 まったくもって古い文明とやり取りをしている感覚である。

 インターネットという現代の物を使えばもっとやり取りも便利で早くなるというのに。

 ある程度、若者も魔術協会にはいるものの、世間からは離れた場所で生活をしているとどうしてもアナログな人間になるらしい。

 一部を除いて。

 携帯電話を持てるようになったのだってつい最近のことである。

 ただし、こちらでは電波が繋がっていても、魔術協会に電波がないとどうしようもないものであるが。


「ったく。ちゃんと環境整備しろっての!」


 エアメールの中に入っていた航空券だってそれなりに若い魔術師が手配をしてくれているのだろう。

 記載には三日後の日付が書かれていた。


「準備は十分だな」


 航空券に記載された日にちと時間を確認し、カイルは余裕があり、かつ急ぎの用事ではないことに心の底から安堵した。

 思ったよりも切羽詰まった任務ではないのかもしれない。


「だったら、良いけどな……」


 それなのに、どうしてこれほどに落ち着かないのだろう。

 魔術協会からも急いで帰ってこい、という記載はない。

 慎重に戻って来い、と書いてあった。


「慎重に、っつーことは……」


 外部に漏れてはならないことが発生した可能性が高い。

 何かは分からないが……。

 念のため、確認をした方が良いだろうか……。

 とはいえカイル自身、他の魔術師との交流はほとんどないため、入っている連絡先は一応魔術協会の事務方と師匠であるヤトのみ。

 何度かヤトには携帯電話からメッセージを送ってみたが、ヤトも忙しいのか返答はなかった。

 これから何かまた起こるのだろうか。


「オイ。用意は出来たのか?」


 部屋に入って来たのは大河だ。


「あぁ。でも、分かんねェんだよな。急ぎではねェみてーだけどよ、慎重を期して帰って来いっつーのが引っ掛かる」


 確かに、と大河も同意する。


「あ! 大河! カーくん!」


 続いて祭が部屋に入って来た。


「パパがこの間食べられなかったおあげのフルコースが食べたいって!」


 祭の言葉に、大河とカイルは溜息をついた。

 そう言うと思っていた。


「やはりな……」

「どーすんだよ」

「どうかしたの?」


 買い物に行かなくてはならない。

 一応、おあげの確保はしているが、フルコースにしようと思うといささか足りない。

 つまり買い足す必要があるのだ。


「俺は買い物に行ってくる。貴様は用意が済んだなら掃除をしておけ」


 またか、とカイルは表情をしかめた。

 この神社は家事しかやることがないのか、と。


「ちったぁ個人の時間も寄越せ」

「何を言っている。朝か夜は空いた時間があるだろう。昼間は掃除に洗濯、食事の用意とやることはたくさんあり、かつ掃除に至っては掃除をする場所が広いのだ」


 だったらこんな広い場所に住まなくても良いだろうに、とカイルは溜息をつく。

 使っていない部屋がどれだけあることか。


「カーくん! 大丈夫だよっ! ボクとハーくんが頑張るから、カーくんはちょこっと頑張ってね!」

「祭っ……! お前、良い奴だな!」

「えへへっ。ボクだって出来るもんっ」


 有難い、とカイルは思う横で大河は遠い目をする。

 別に祭とて狐術を使わなければまともなのだ。

 狐術さえ使わなければ。

 後はそこに神が絡んでこなければ。

 だが何も言うまい。

 特に神が絡んでくればそれはもう、煩いことになるだろう。


「パパの大事な大事な祭ちゅわんを働かせるなんて……!」


 過去、何度それで大河も神と揉めたことか。

 祭が楽しいから大丈夫と言ったから今では何も言わないでいるが……。


「ん? どうしたんだよ、大河」

「いや……。悪いことは言わない。掃除をやっておいた方が良い。パパ上が、貴様に対して、祭にやらせるとはどういうことだと怒鳴り込んで来ては面倒だ」


 本音はそれか。

 カイルもそれを聞いた瞬間に、自分の時間はないのだと肩を落とすのであった。

 そんな感じで三日はあっという間に過ぎ去ったのである。

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