第二十話

 祭とハデスに後片付けと掃除を頼むと、さっそく大河とカイルは洗濯を始める。

 昨日から盥には水を入れて汚れを浮かせるために漂白剤を入れて服を浸けて置いていた。


「しかし……なかなか落ちんな」

「そーだな……」


 二人がかりである。

 ちなみに洗濯の手法としてはまずは、昔懐かしい洗濯板を使っての洗濯だ。

 何度も濯ぐがなかなか綺麗にはならない。


「おおまかな泥は落とした。一度、洗濯機に入れてみよう」

「あー……疲れたぜ……。つーか雨だったら乾かねェだろ」

「天日干しが一番なのだがな……。雨は仕方がない。もう少しばかり降る予定だ。乾燥機でも買うか。パパ上の高級酒コレクションをあの女に売ったお陰で、久方ぶりに懐が温かいからな」


 一体、どれほどの値段で売りつけたのだろう。

 酒の値段が分からないカイルには想像がつかないが、乾燥機などの電化製品を買うことが出来る程度には金策が上手く行ったということだということは分かった。


「一体、いくらで売りつけたんだよ……」

「売りつけたのではない。あの女が、これだけ出して良いと言ったから売り払っただけだ。十分な金を貰えたぞ」


 紫月は一体、毎月いくら酒に金を掛けているのか……。

 それにしてもとカイルと大河は二人で洗濯物を洗濯機に放り込む。


「これで落ちなければ、服を買う方向が良いだろう」


 確か近くに安い服屋があったはずだと大河は言う。

 持っていない訳ではないがほとんどをこの儀園神社で過ごしており、外に出るのも和装なので洋服は数える程度しか持っていない。


「一番被害が酷い貴様の魔術師の服は最後だな」


 洗濯機を回している間に、祭とハデスの手伝いをする。


「大河! カーくん! お洗濯終わったの?」

「いや。今、洗濯機を回している所だ。その間に手伝いをとな」

「ここは洗濯か掃除か料理しかしてねーのかよ……」


 げんなりとカイルは肩を落とした。

 趣味がないので何とも言えないが、少しくらいぼーっとする時間や魔術の訓練をする時間が欲しい。


「何を言っている。毎度毎度、パパ上と合戦をしているではないか」

「アレが訓練になるとでも思っているのかよ!?」


 そうだとすれば違う、と言いたい。

 自分の能力が上昇するための訓練でも何でもなく、無駄に魔術を放っているだけだ。


「違うのか?」

「全然違ェよ! より実践的かつ高度な魔術の基礎に乗っ取った研究をだな」

「ふむ。それなりに放てば身につくものではないのだな」

「一石二鳥で簡単に身につくと思うなよ!? それなりの研究と努力の結晶なんだからな!」


 意外と勤勉なのだな、と大河は思う。

 言動からすると研究よりも感覚的にやっていれば身につくと言うのかと思いきや。


「意外だな」

「テメーはオレをどれだけ短絡的で感覚的な単細胞だと思ってんだよ……!」

「どこまでも短絡的思考で感覚的な単細胞かと思っていた。すまんな」


 まったく、謝っているような感じがしない。


「そうだ。そろそろ洗濯機が止まる頃か。まだ洗濯物を干す仕事が残っている」

「ボクも手伝うよっ!」

「わたくしめも、何なりとお申し付けくださいませ。大河様」


 力を合わせて掃除を終わらせ、洗濯も全員で空いている客間の一室に紐を張り、そこに洗濯物を干していく。


「随分と落ちたと思うが……後は乾いてみんと分からんな」

「ねぇねぇ! だったらボクが狐火で―――」

「やめろ。祭。テメーが狐術を使ったらこの部屋はぜってー火の海になる」


 狐術で乾かそうとした祭を即座にカイルが止めた。

 伊達に今まで、祭の未熟な狐術で痛い目を見て来たわけではない。

 その後……雨は二、三日降り続き、ようやくの晴れ間。

 乾いてみれば洗濯ものはそれなりに汚れが落ちていた。


「すいませんでした……カイルくん。大河クンもお願いだから許して……余り物のお恵みと漬物生活はもうこりごりだから……」


 唐突に、神が土下座を決めた。


「まぁ、洗濯物も乾いて使い物になりそうですし」

「チッ。大河が乾くまではって言ってたけどよ。どうしてくれんだよ。あぁ?」

「それはほら、だって神様が私にカイルくんに悪戯をしなさいっていうお導きで……」


 反省というものをしているようで、していない。


「反省の色が見えませんので、パパ上の漬物生活、もう一週間延期しましょうか」

「っ!? そ、それだけは……! 分かった! 反省してる! 反省してるからもう許して!? ね!? カイルくん本当にごめんなさいぃぃぃいい!!」


 結局、神は大河とカイルを拝み倒し、カイルに新しい服を自分の懐のお金で買うからということで許された。

 とはいえ、悪戯がなくなったわけではなく今回のような大被害を受けるほどの悪戯はなりを潜めただけだ。

 大人しかったのは数日のみ。


「諦めろ。あれはもはや病気だ。安心しろ、パパ上の秘密の酒はまだたんまり隠されている」

「おー。もしもの時は売り払っちまえ!!」

「もうパパの大切な高級酒は売らせないからね!?」


 やがて、再び儀園神社にカイルの怒号と、楽しそうな神の笑い声が響き始めるのであった。

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