第十八話

 そして夕食―――。


「大河クン酷い! 何で大河クンとカイルくんは美味しそうなステーキ定食を食べて、祭ちゅわんはパパのリクエストのおあげのフルコース食べて、パパだけお漬物二切れなの!?」

「知りません」


 神の抗議に大河は素っ気なく言葉を返し、優雅にステーキを切り分けて食べる。

 美味い。

 日ノ国ブランドの柔らかい高級肉……A5ランクの牛肉を贅沢にもステーキにしたのだ。

 付け合わせはサラダにポタージュスープと、やはり日ノ国特有のライス。

 どれも短時間で出来たとは思えないくらいの完成度である。


「美味ェーな。柔らけーし。塩だけでイケるな」

「フッ。日ノ国が誇る日ノ国牛ブランドで最高ランクのA5ランクの肉だからな。大きさばかりで霜降りもない靴底のような硬いステーキを食べる蛮族とは違う」


 一口、口の中に入れれば油が溶けて消え、肉は力強く噛みしめなくても良いくらいの柔らかさ。

 口に入れる度に美味さが口の中で広がる。

 ステーキソースも合うが、シンプルに塩で十分の美味しさ……むしろソースは不要だ。


「うぅぅ~! パパが何したって言うのさ!」

「自分の心に手を当てて聞いてください」


 だが神が言葉を発する度に大河は冷たく言い捨てる。


「覚えないもん!」

「今日、やらかしたことを、パパ上は、本当に、知らないとでも……?」


 言葉を切って一言ひとことを強調して神を睨みながら言う大河に、やりすぎたことを思い出した神は口を閉ざして目の前の漬物二切れに目を落とす。


「大河! おあげのフルコース、美味しいよ!」


 祭は大満足にフルコースを頬張っていた。


「……。祭ちゅわん」

「ごめんねっパパ! これはボクのおあげさんだからっ」


 可愛いに息子に同情してもらっておあげのフルコースから一品でも貰おうと神は画策したが、祭に拒否されて項垂れる。


「自業自得だろ。あれだけやらかしたんだからよ」

「洗濯物が綺麗になるまで、パパ上の食事は漬物二切れだけです」


 当然の報いだと大河はまた一口ステーキを頬張り、いつもと違って表情を軟化させる。


「そんなぁ! パパだってステーキ定食食べたい! おあげのフルコース! というかそんなお金、どこから出てきたの!?」


 家計が火の車であることは、大河の言動から神だって知っている。

 とはいえ悪戯はやめられない。

 大河が頑張ってくれたらそれでいいだろうと思っていたのだ。

 あんな良い肉が食べられるほどの金はなかったはずだと神は大河に訴える。


「パパ上の高級なお酒を鬼喰に売り払いました。まぁ少し前に臨時収入もありましたので。そのお金に加えて煉がA5ランクのステーキ肉を譲ってくれたので夕食に使いました」


 あの二人か、と神は歯ぎしりをする。

 紫月はきっと面白がって金を作りに来た理由を大河に聞いたのだろう。

 その上、売り払ったという酒は結構な金になったらしい。


「パパ上のコレクションを売り払いましたので、それはもう」


 やられた!

 神は天井を仰ぐ。

 前に鬼喰の綺羅々と天狗の天にコレクションを奪われたので、別の場所に移したというのにまさか大河には知られていたとは。


「ど、どうして場所が……」

「水は眷属ですからね」


 どうやら大河は水に聞き込みをしたらしい。

 そして水分でさえも眷属として力を引き出そうと思えば出来、声を聞くことも出来る。

 甘く見ていた。


「行き過ぎた悪戯仕掛けてきたら、今後も遠慮なく高級酒を売り払います。まだまだパパ上の秘蔵コレクション、ありますよね? 今回は完全に食事抜きにされなかっただけ、マシだと思ってください」


 漬物二切れだってかなり譲歩したのだ。

 本当なら抜きにしても良かったのである。


「祭ちゅわぁぁぁあああん! 大河クンがパパをいじめるぅ!」

「ごめんねっパパ。今回のことはボクも、カーくんの味方だからっ」


 味方になってくれると思っていた、愛する息子の思わぬ寝返りに神はしょんぼりとお漬物を二切れ、涙を流しながら食するのだった……。

 あぁ、おあげのフルコース。


「祭ちゅわん……少しでもいいからおあげ……」

「ごめんねっパパっ。もう食べちゃった!」


 ペロリと食べきった祭の皿は綺麗だった。

 何一つ残っていない。


「カイルくん……」

「何で迷惑かけられた一番被害者のオレがテメーに恵んでやらなきゃなんねェんだよ」

「大河クン……」

「食事含め家事一切は俺の管轄ですので」


 結局、神はその日、漬物だけで済ませる羽目になった。

 夜中にこっそり冷蔵庫に触れようとすればカイルか大河が仕掛けをしていたらしく、冷蔵庫に触れることすらなく退散する羽目に。


「うぅぅ……こんな反撃食らうなんて……!」

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