第十七話
神の悪戯によってカイルの部屋が汚された。
大河に何とか縋りついてカイルは部屋を片付けたのであった。
「ったく! ようやく片付いたぜ」
「だから、何故、俺が貴様の部屋の片付けをせねばならんのだ……!」
これなら、他の家事を片付けた方が良かったと大河は漏らす。
とにかく部屋というよりもカイルの持ち物の状態が酷かった。
トランクは汚損破損防止の魔術が施されて施錠されていたため、それ自体は問題ない。
畳や襖も灰塗れだったが何とか掃除が出来た。
一番の問題は服と書類だ。
トランクの外にあった服はぐしゃぐしゃの泥まみれ。
積み直しておいた書類タワーの数々はやはり無残にも全て倒されて挙句の果てには書類全てが墨塗れ。
替えの服も泥まみれにされたカイルは何だかんだ憐れんだ大河が着物を貸してくれたため、パンツ一丁の憂き目だけは回避出来た。
「書類は全てパァ。トランクは助かったけど部屋の中に置いてた服は全滅。クソが。短時間で何てことしてくれやがる。あの害獣め……!!」
「パパ上の、カイルくん行っちゃヤダ、という心がありありと出ているのだろう。一応、愛情のつもりだろうから受け取っておけ」
どこが愛情だ……嫌がらせ以外に見えない。
「しかし洗濯ものが泥やら何やらにまみれているとはな。これには一度、パパ上にはお灸を据えねばならん。一体、誰が家事をしているというのか。よぉく知ってもらう必要がある」
大河も呆れつつ、しかし酷い汚れの洗濯物で家事の手間が増えたことに対しては怒りを覚えていた。
「替えの服までドロドロなのは勘弁しろよ。本当によー」
魔術協会ではよく着ていた替えの、純白の服は一番の被害を受けている。
泥だけでなく墨、いつ台所へ侵入したのかケチャップ、醤油がぶっかけられていたのである。
これはもはや洗濯しても落ちないだろう。
「ったく。何が愛情だ。クソ。帰ってくりゃいいんだろ! 帰ってくりゃ!」
「そうだ。帰ってこい。何度も言うが、ここはもう、貴様が帰ってくる場所なのだからな」
大被害を被った洗濯ものは一旦、籠に詰め込み二人は話をしながら風呂場に向かう。
どこまで汚れが落ちるか分からないが、とにかくお湯に漂白剤を入れて汚れを浮かす。
一番被害が酷い純白の、コートを含めた服は別枠だ。
「出発は洗濯が終わり次第で大丈夫か? 白のコートの汚れが酷いが」
「とりあえず、白いのはなくていいぜ。戻れば向こうで着る分はもらえっから。その他の替えの服が三着くらいありゃ着まわせるだろ。最低、一着ありゃどうにでもなるけど……酷ェな」
後は任務地で調達するなり持っている服で着回しをすればいい。
制服があるにはあるが、カイルは他にあまり服を持っていないから着ていただけで絶対に着なければならないという縛りは今の時代、ない。
常に着ているのは魔術協会で修業をしている者や、高位の者くらいだ。
その他、任務にあたっている魔術師達は一般人が着るような、それぞれの任務地の服を着て任務を遂行することが普通だ。
何と言っても酷く目立つ。
「しかし、どれもこれも綺麗に落ちるかどうかだな。いっそのこと、全て捨てて新しいものを買った方が良いかもしれんな」
「んな金、ねェんだろ?」
「パパ上の高級な酒を鬼喰姫共に売りはらえば、金など作れる。あまり、使わん手だが、今回ばかりはパパ上のやらかしたことに怒りを覚えているからな。それに、言っただろう。貴様はもはや家族でもあるのだからな。多少の支給はして当たり前だ」
出会った頃に比べれば、かなり大河はカイルを認めている証拠である。
大河は認めたモノに対しては祭ほどではないにしてもそこそこに甘いのだ。
「……ありがとよ。大河」
「礼などいらん。とりあえず、汚れが落ちるかどうかは洗濯次第だな」
文句は一通り言ったものの、大河は何だかんだとカイルの手伝いをするのであった。
今までなら、なかったことであるが片付けている間に同情してしまい、さらに神に対しては怒りがとめどなく溢れて来た。
「洗濯は明日、徹底的にやるしかないな。……パパ上には、やはり灸を据えんとならんな」
「つーかどうやってクソ狐に灸なんて据えるんだよ」
あの神のこと、下手なことをすればイニシャルGやイニシャルKのコンボを食らわされたり、さらに酷い悪戯に合ったりすること間違いなしだ。
だが大河は珍しく、良い笑顔をカイルに向ける。
「お灸を据える方法など、酒を売り払う以外にもあるではないか」
カイルは首を傾げるばかりだ。
「一体何をするつもりなんだよ」
「俺は今から即、金を作ってくる」
大河は言う。
金を作ってどうするつもりなのだろうか。
すでに日はほとんど落ちている。
夕食にはまだ僅かに時間があるが……。
「俺の力をもってすれば一瞬だ。先に風呂に入り、楽しみに待っていろ」
まだ遠くで祭が神を探し回っている声がしている。
大河は一体何をするつもりだろうか。
カイルは大河に言われた通り、ひとまず祭に見つかる前にさっさと風呂に入った。
朝から晩までこれほど疲れるとは。
「ったく。その上、魔術協会の呼び出し……」
本当に嫌な予感しかしない。
どうか面倒なことがありませんように……シエル、頼むから兄ちゃんを守ってくれ、とカイルは風呂に入りながら祈るのであった。
そして風呂から上がると本当に一瞬で大河が珍しいほくほく顔で戻って来ていた。
「ちょうど良いな。手伝え。今夜は楽しい楽しい夕食になるぞ」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます