第十六話

 カイルが帰ると言う話を聞いて神は明らかに落ち込んだ様子があったが、ひとまず置いておいてカイル達は先に風呂に入ろうという話になった。

 祭に倒された場所はカイル達の部屋からもまだ少し離れていたため、部屋に戻るのが少々遅れた。

 それがいけなかった。

 部屋に戻ったカイルはその惨状が目に入った瞬間に……絶叫した。


「あんっの悪徳クソ狐ェェエエエエエエエエエ!!」


 カイルの声に、大河と祭もすっ飛んできた。

 一体、何があったのかと部屋を確認してみれば……たった数分の間に、神によって悪戯が施されていたのだ。

 母屋は広くその分、通路も多くて通路が別のルートと繋がっている場所もある。

 別ルートからカイル達の部屋に行くことも出来るのだ。

 いつ出発をするのかという大河の問いに対してカイルは準備出来次第、と答えた。

 つまり準備が出来なければカイルは出発出来ないということだ。

 部屋に戻るまではカイルも普段からトランクは整理整頓をしているし、服も多くは持っていないのですぐに準備は終わるだろうと想定していた。

 エアメールにはご丁寧に航空券も入っていた。

 カイル自身で、その手紙をぐしゃぐしゃに握り潰してしまったが有効だろう。


「うわぁ……えっと、カーくん。大丈夫……?」

「……。祭。パパ上を探してきてくれ」

「え? うんっ。分かった! パパー! パぁパ~!」


 走り去る祭。

 精一杯叫んだ後、カイルは全身の力を抜いて、部屋の前で四つん這いになった。


「これは、酷いな……」

「……。大河」

「断る」


 四つん這いの姿で顔だけ大河を見ながら口を開いたカイルの言葉に、即座に大河は断った。


「オレが何か言う前に断るんじゃねェよ……! 見て見ぬ振りをするなよ……!」

「断る! 貴様が言いたいことはすでに分かっている!」


 手伝え。

 そう言う事だろう。

 神の悪戯とはいえ、何故、自分が手伝わなければならないのか。


「手伝ってくれよぉぉぉぉおおおお!」

「断ると言っているだろうが! 風呂に入り、食事の用意をしなければならんだろう」


 カイルに足を掴まれ、大河は空いている足でカイルの頭を踏むが、彼はまったくといって引き下がらなかった。


「このままテメーの横に汚部屋があっていいのかよ!?」

「それもダメに決まっているだろうが!」


 このままだと風呂に入れず食事にもありつけず、手伝いも何も出来ないとカイルが言い出し、大河はついに折れた。

 仕方がない。

 汚部屋があるということは、Gが出やすい環境になるということだ。

 つまり、Gがこの儀園神社で繁殖しているということに他ならない。

 それは容認できない。


「チッ。とっとと片すぞ……! この愚図の疫病“人”が!」


 何故自分が……。

 しかし、と大河は仕方なく神によって酷く汚されたカイルの部屋を一緒になって片付けることにした。

 後は祭が神を見つけてくれると良いのだが、遠くから祭が神を呼ぶ声は聞こえているものの、神の声は聞こえていない。

 つまり神は祭とかくれんぼをして遊んでいるつもりなのだろう。


「どんだけ害獣なんだあの野郎ぉぉぉぉおおおお!!」

「まったくだ……。貴様には同情はせんがな」


 そこは同情しろよ、とカイルは大河に声を掛けつつ手を動かす。

 よくもまぁ短時間で酷く汚せたものである。

 畳の状態も悪ければ、襖の状態も最悪。

 その辺りは綺麗に落ちることからカモフラージュだろう、とスーパー主夫……いや、家事エキスパート大河は見抜いた。


「とにかく手を動かせ!」

「動かしてんだろうが!」

「遅い! 鈍間!」


 まだ風呂に入って食事の支度をしなければいけない。

 その前にカイルの部屋の掃除がねじ込まれてしまうとは、予想外である。


「部屋に鍵でもつけてくれよ!」

「障子に鍵などあるはずないだろうが。無駄な出費! 馬鹿か貴様は」


 鍵などつけた所で、今度は障子が破れるに決まっている。

 まったくといって無意味だ。


「くっそぉぉぉおお!」

「叫びたいのは俺の方だ……!!」


 朝もそうだが、余計な尻拭いを一番させられているのは大河だ。


「ハデスぅぅぅぅ! 帰ってこいぃぃいぃいぃいい!」


 今日に限ってハデスは何やら集会があるから、と出掛けてしまったのだ。

 何の集会かはよく分からないが、死神の集会というのもあるらしい。

 こんな時にいないとは。

 少ない時間でカイルと大河は、必死になって部屋の片付けをするのであった。


「とにかくとっとと片せ!」

「だぁからやってんだろ!!」


 その頃、祭はまだ神を探していたのであった。


「パパ~! ぱぁぱぁ~! どこ~?」

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