第十四話

 カイル宛に届いたエアメール。

 何度も魔術の痕跡がないか、罠ではないかをよくよく確かめた上で、ようやくカイルはその手紙を開いたのだった。

 一体何が書かれているのか。

 大河と祭が待っていると、手紙に目を滑らせたカイルは最後まで目を通すと封筒ごとその手紙を握り潰した。


「え!? カーくんどうしたの!?」

「一体、何が書かれていたんだ」


 カイルの反応に、大河と祭が問うがカイルは詳細を口にしなかった。


「悪ィ。急遽、魔術協会に帰ることになった」


 と、だけ告げた。

 ぐしゃりと潰れた手紙をズボンのポケットに押し込むと、カイルは台所を出て自分の部屋に向かって歩き出す。

 その後を大河と祭はすぐに追いかけた。


「待ってよ! カーくんっ! 一体どうしたの!?」

「急に帰るとは何があったのだ?」

「テメーらには関係ねェよ」


 魔術協会からの突然の呼び出し。

 大河と祭は動揺を隠せなかった。

 先日のハデスとの闘いの後、カイルには日ノ国支部として、次の任務の決定があるまでは待機を命じられていたはずだ。


「驚くことじゃねーだろ。無期限じゃなくて、次の任務の決定があるまでっつーことだしよ。任務が決定したっつーことだろ。手紙にゃ内容が書いてなかったから知らねェけど」

「そんなぁ! カーくん行っちゃヤダ!」


 部屋に向かっていたカイルの腰に祭は飛びついた。

 足を止めてカイルは我儘言うなと祭を引きはがそうとするが、なかなか祭も力が強いのか引きはがすことが出来ない。


「突然だな。何も用意はしておらんぞ。帰ってくるのか?」


 さぁな、と祭を引きはがすことを諦めたカイルはげっそりとした面持ちで言葉を返す。

 やはり今の生活に馴染んでしまっていたことに、カイルは自分に驚く。

 弟のことが済んでしまった所為もハデスの件が片付いてしまった所為でもあるが、儀園神社にいるとカイルは自分が魔術協会に所属している魔術師であることを忘れてしまいそうになる。

 それくらい、心地が良かった。

 神に散々、悪戯を喰らうが。


「帰ってこい。この俺が唯一、認めた“人”なのだからな。それに、もはやここは貴様の家だ。だから、帰ってこい」

「そうだよっ。絶対、ぜーったい、カーくん帰って来てねっ。お仕事でお出かけしちゃうのは仕方ないけれど、ここはカーくんのおうちでもあるんだからねっ」


 大河と祭は


「いつでも帰って来い」


 と言葉に心を込めてカイルに言う。

 二人にとって、カイルはもう仲間だ。

 友達だ。

 種族は違えど、生の長さは違えど、仲間であり友達であり家族だ。

 彼は何の任務を受けたのか。

 完了するのにどれくらいかかるのか。

 まったく予想がつかないけれど、それでもカイルよりも生の長い大河と祭は、生の長短関係なくカイルを友達として、家族として受け入れた。

 そんな二人の想いを、カイルは決して何も口にはしないし憎まれ口を叩くが、ちゃんとカイルの心には沁みていた。

 もしも普通の”人”だったなら、こんな出会いはなかった。

 普通に学校へ行って、働いて、年を取っていずれ死ぬ。

 魔術師としての”人”生が恵まれたものなのか、良いものなのかは分からないが、少なくとも世界が広がったのは大河や祭など、本当なら”ゴースト”としていた”人ならざるモノ”達とのふれあいのお陰だろう。


「わーったわーった。帰って来てやるよ」


 仕方ねェからな、とカイルは言って返す。


「む。何故、貴様が上から目線なのだ」


 大河が柳眉を潜めて言う。

 上から目線でカイルが言える立場はないはずだが、と。


「ふふっ。カーくんらしいや」


 このやり取りも、もう日常だ。


「ねぇ。カーくんっ。本当の本当に、絶対、帰ってきてねっ!」


 約束だよ、とさらに祭がカイルの腕に絡みつく。


「んなの分からねェだろ。こっから離れることになるかもしれねェし」

「そんなの嫌だ!」

「詳細は書いてなかったのか?」


 いや、とカイルは頭を振る。

 魔術協会に帰って来い、という言葉から始まり、大きな仕事がある。

 そして魔術協会への帰り方の旨が書かれていただけだとカイルは答える。

 とにかく荷物を纏めなければならない。


「だから離れろよ! 祭!」

「約束してくれないと離さないからねっ!」


 何とか祭を引きずるが意外と祭が重たい。


「祭、放してやれ」

「やだよっ! やだやだっ!」


 そのまま祭はカイルから一旦離れたかと思えば、突撃して二人一緒に廊下に団子になって崩れる様子を見、やれやれ、と大河が溜息をついた時だった。

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