第十三話

 玄関での出迎え。

 食材を片付ける手伝い。

 いつもはそんなことはしない祭。

 違和感の正体を嫌な予感と読んだカイルは、祭を問い詰めた。


「オラ。とっとと出せ」

「うんっ!」


 えっとねーっと祭は懐から一通の手紙を取り出した。


「はいっ。カーくんにお手紙っ! えっと、カーくん宛で合ってるよね?」


 何と書いてあるかは分からないが、エアメールになっていた為、祭はそれがカイル宛のものだろうと判断したのだ。

 何故なら、神がエアメールを受け取っている所を一度も見たことがない。

 大河も同じ。

 自分も。

 残るは、消去法でカイルしか思いつかなかったのだ。

 祭に差し出されたエアメールを、カイルは恐る恐る受け取る。

 差出人は―――エアメールの時点で予想はしていたが、やはり魔術協会からだった。


「チッ。んだよ」


 いつもならば、原理は不明だが手紙はリト経由で送られてくるか、魔術協会の誰かの魔術でカイルの部屋にいつの間にか投函されていることがほとんど。

 それが何故、わざわざエアメールで……普通の、“人”らしい手段で送り付けてきたのか。

 気になる。

 リトに何かあったのか。

 それとも魔術が使えない理由があるのか。

 エアメールが届くのは魔術なんかよりも時間がかかる。

 時間をかけてまでエアメールなんかを使うという点に引っ掛かるのだ。


「誰からだ?」

「魔術協会だよ」


 カイルの言葉に大河も不思議に思える。


「何故、エアメールなのだ?」


 いつもはそんな手段を使っているようには感じない、と大河が言う。


「あぁ。オレもそー思うぜ」

「あれ? カーくん、エアメール受け取ったことないの?」


 もしかして間違えて持って来てしまったのかと祭が落ち込むが、カイルは彼の頭をぐしゃぐしゃにする。


「わっわっ! カーくんっ」

「エアメールで来るっつーのが、怪しいんだよ」


 表を確認。

 魔術の痕跡なし。

 裏を確認。

 魔術の痕跡なし。

 台所の灯りで中身を透かして見る。

 見えないが、どうやら魔術の痕跡なし。

 エアメール自体には一切の魔術の痕跡がなかった。


「本当に、何の用だ? いつもならリト兄貴経由か、他の魔術師のよく分からねー原理で送り付けて来やがるクセに」

「貴様の言う魔術を使うのが危険だから、ということか?」

「何かあったってことなのかな?」


 確かに大河と祭も、ポストにカイル宛の手紙が入っていた覚えはない。

 それ所か、儀園神社自体に手紙が入ることはない。

 ポストはただ単に設置をしているだけに過ぎない。

 レイキ会の連絡は基本、電話か鎌鼬達を使うことの方が多いのだ。

 時々、リトが掃除道具入れから転がり出てきて手紙を手渡してきたり、ふと気が付けば掃除された後のカイルの部屋に手紙が落ちていたりしていたため、ポストに入っているところを見たことがない。


「うー……開けたくねぇ」

「そう言わず、開けてみろ」

「そうだよ! ボク達も気になるっ!」


 開けるべきか。

 開けざるべきか。

 カイルは今一度、幻視の瞳で手紙を確認するがやはり魔術の痕跡はまったくといって見つからなかった。

 ただ単なるダイレクトメールであったのなら、容赦なく破り捨ててやろう。

 だが嫌な予感はしている。

 この手紙で何かが動きそうな気がする。


「開けないのか?」

「いや、ちょっと心の整理っつーか、心の葛藤が……」


 深呼吸を何度もして、カイルはついに警戒心をマックスまで引き上げて心の準備をしてからそのエアメールの封を開けた。

 再度、中の手紙を取り出す前に魔術の痕跡を辿る。

 それでも魔術の痕跡は見つからなかった。

 本当にただのエアメールらしい。

 一体何故。

 このタイミングで。


「カーくん?」

「祭。少し待ってやれ」


 大河と祭の声を他所に、カイルは中の手紙を恐る恐る取り出して開く。

 もちろん魔術協会を騙った罠の可能性も考慮していつでも魔術で対抗し、大河と祭に影響を及ぼさないかも確認した上で、だ。

 一体、何が手紙に書かれているのか。

 台所が静まり返る。

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