第十二話

 儀園神社の母屋に到着すると、玄関で祭が待っていた。


「あ! おかえりっ大河! カーくんっ」

「あぁ。今戻った。どうした? 祭。玄関で」


 何かあったのかと問えば、祭はニコニコと笑って、大河とカイルが出掛けたようだったから帰ってきたら


「おかえりなさい」


 を言うために待っていたというのだ。

 祭のその言葉に、いつもはさほど表情が大きく動かない大河も相好を崩して祭を抱き締める。


「それだけで嬉しさは倍増だ」


 そうだ、そんな事をする前に買ってきた食材を冷蔵庫に入れなければ、と大河はカイルを促して台所へ向かう。


「ボクも行く~!」


 その後を祭がついてくる。


「あれ? カーくん。どうしたの?」


 難しい顔をして、と祭が言うが何となくカイルは祭を観察している。

 台所に辿り着くと祭がエコバッグから食材を出して大河に手渡していく。

 何か、違和感がある。

 カイルはじっくりと考えた。

 一体、自分は何に引っ掛かっているのか。


「すまんな。祭」

「ううん。大丈夫だよっ」


 重たそうなエコバッグを持っていたからだ、と祭が言えば大河は祭の頭を撫でる。

 そして―――ついに、カイルは違和感の正体に気付いた。

 嫌な予感だ。

 いつもはしないことを誰かがする。

 つまりそれは、何かが起こる前触れではないか、という今までのカイルの経験が、勘が、嫌な予感を告げていた。

 大河はそんなことも気付いていないようで引き続き祭と話をしている。


「今日はパパ上と祭のリクエスト通り、おあげのフルコースだ」

「わぁい! やったぁ! 大河とカーくんは?」

「俺達はボタン鍋をいただく」


 スーパーのタイムセール戦線において、カイルが中々、優秀な成績をおさめたのだと祭に説明をする。

 珍しく猪の肉が並んでおり、豚肉と間違えたとはいえカイルが確保したことを。


「すっごーい! カーくん凄いねっ!」


 だがカイルは祭を見ているばかりだった。


「あれ? カーくん。どうしたの?」


 小首を傾げる祭。

 自分は何かしただろうか、と振り返るが記憶にはない。


「祭」

「なぁにー? カーくん」


 ニコニコと笑う祭。

 対するカイルは祭を睨んでいる。

 意味の分からない大河はカイルが何を言おうとしているのか、さっぱりと予想がつかなかった。


「オイ。貴様何を言おうとしている」

「祭。テメー、何でオレらを玄関でわざわざ待っていやがった」


 普段は出迎えなんてしない。

 カイル達を手伝って食材を冷蔵庫に入れるということもしない。

 そんな彼が、今日に限って珍しく行動に移したのだ。


「そんなことどうでもいいだろう。祭がやってくれた。その事実だけで」


 祭ファーストな大河の言葉は宛にはならない。


「どういうつもりだ? 祭。オイ」


 だが嫌な予感が消えないカイルにとっては問い質しておかなければならないことだ。

 彼は一体何を隠しているのか。

 最初はキョトンとした表情をしていた祭だったが、口を開いた。


「えへっ。カーくんにはバレバレだったかぁ……」

「祭? お前、一体何を隠しているんだ?」


 祭の言葉に大河も祭を見る。

 どうやら何かを隠していたらしい。


「んーっと。カーくんは何だと思う?」

「んなの答えるより、とっとと隠してること吐け」


 首絞めるぞ、と脅すと大河が出てくる。


「貴様、祭の首を絞めたら首を落とすぞ」

「テメーは邪魔すんな! 大河!」

「祭を傷付けてみろ。その瞬間、貴様の首と胴体は離れることになる」


 大河とカイルの間で一触即発の状況となった。


「祭! とっとと吐け! 何か持ってんなら出せ!」

「はーいっ」


 そして、祭が出したのは―――

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る