第八話

 庭の整備をある程度、終わらせた大河とカイルは祭が呼んでいる、と玄関の方へと向かっていった。


「大河~! カーくん!」


 祭は神社内から大河とカイルを呼ぶと、二人は庭の方から歩いてきた。

 どうやら庭の整備をしていたらしいことに気付く。


「大河、カーくんっ。ごめんねっ。ボクが狐術、使っちゃったから……」

「気にするな。祭。諸悪の根源は、そう、全てパパ上にあるのだからな」

「テメーはいつものことながら、祭に甘い上に、クソ狐がいねーと強気だな」


 これもいつものことである。

 神がいなければ、大河はこんな調子だ。


「祭ほど癒やされる“人ならざるモノ”はいない。すなわち、それこそ俺の真理であり、俺にとっての全てで―――」

「大河。ストップ。テメーがそれを語り出すとクソ長ぇ」


 カイルはそのまま語り出し、祭を褒め殺そうとする大河にストップをかけて祭に自分達を呼んでいた理由を聞く。


「えっとね、パパが、今夜はおあげたっぷりの、おあげのフルコースを食べたいって!」


 くだらない内容だった。

 大河とカイルは二人揃って頭を抱える。

 神が夕食のメニューをリクエストするのは多いことではあるが、だからといって、おあげのフルコースをするほどのおあげは買い込んでいない。


「……大河。晩飯、何だっけ?」

「今晩は鳥スキの予定だ……」


 どうするか、と大河はしばし悩む。

 祭を見れば彼は目をキラキラと、期待のこもった目で大河を見ていた。


「祭。悪いが……」


 さすがの大河も、このリクエストは断るだろうとカイルは思っていた。

 思った通り大河はフルコースにするだけのおあげがない、買い物は明日行くからせめて明日にしてもらいたいと祭に言い聞かせている。

 すでに鳥スキの具材は購入してしまっている。

 肉は使い切る必要がある。

 大河からその話を聞いた祭は少しばかりしょんぼりとしながら、口を開いた。


「そっかぁ……。ボクも、おあげのフルコース、今日食べたかったなぁ。でも仕方がないよねっ」

「よし。パパ上と祭の夕食は、リクエストのおあげのフルコースだ。鶏肉を使うメニューもある」


 まさかの手のひら返し。

 カイルは大河の変わり身の早さに頭痛で座り込んだ。

 何を言っているのか。

 先ほど、彼はフルコースにするだけのおあげはないから、明日にしてくれ、明日には買い物に行くからと言ったはずだ。


「オイオイ……。テメーさっき、フルコースにするだけのあげがねェって言ってただろーが……」

「今から買い物に行けば十分だ。時間的にもタイムセールに間に合う。仕入れに行くなら、いつ行く。今だろう」


 本気だった。

 彼なりの真剣な冗談かと思ったが、本気である。


「いいの!?」

「あぁ。コイツも連れて行く」

「はぁ!? オレもかよ!? いやいやいや。大河サン? オレ、頭イタイ……ディナーまで寝てマース」


 あまりの展開に、カイルは片言で廊下を這い部屋に戻ろうとするが即座に大河に襟首を捕まれてしまった。

 午前中は神のしでかした悪戯に鬼ごっこと術のバトル。

 その後は先ほどまで破壊した庭の整備。

 もう疲れ果てているというのに、これからまだ買い物に行かなくてはならないとは、どんな苦行なのか。

 しかも夕食作りに後片付け、風呂と一日のタスクが目白押しだ。


「オレは行かねェぞ!?」

「いいから来い。貴様はただの居候だろう? 役に立て」


 うぐ、とカイルは言葉を詰まらせる。

 確かに自分は儀園神社に金を入れている訳ではない。

 ハデスと戦う前は杖を封印されたために儀園神社にいるしかなかったのだ。

 その後は魔術協会が日ノ国支部だと多少はお金が出ているがカイル自身が稼いだ金のいくらかを入れているということではない。


「金を入れん貴様に拒否権はない」


 あぁ、無情。

 カイルは終わった、と項垂れた。


「よし、行くぞ。祭。パパ上には待っていただくように伝えてくれ。必ず、パパ上と祭の夕食はおあげのフルコースにする」

「わぁい! やったぁ!」


 ありがとう、と祭が大河に抱きつくと、大河もカイルの襟首から手を離して祭を抱き締め返す。

 神がこの現場を見ていたらと思うと一人、関係がないのに背筋がゾッとするカイルであった。

 結局、この後は買い物に行かなければならないのかと思うと溜息しか出ない。


「ではさっそく買い物に行くぞ」

「えー……」


 最後の最後まで抵抗を試みるが、大河がカイルの首に腕を回した。


「パパ上の悪戯と嫌みをさらに受けるのと、ご機嫌になってもらって乗り切るの、どちらが楽だと思っている」

「……くっそ。オレに奴の悪戯と嫌みを今受け流すだけの気力はねェ……!」


 そう思うと、どうすることが正解なのかは明白だ。

 大河とカイルは速攻で泥を落とし買い物に出掛けるのであった。

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