第七話
趣味のないカイルに、大河は別のことに目を向ければ見えなかったものが見える時がある、と言えば、カイルに
「じじくさいな」
と言われた。
まったく、失礼だと大河は怒る。
自分はまだ数百年しか生きていない、と。
「その時点で十分、じじいだっつの!」
「“人”と一緒にするな。俺なんかはまだ子供だぞ」
そんな話をしながらカイルと大河は庭の整備を再開する。
夕食前にはある程度は片付けてしまわないと、また神にあれやこれやと言われるため、それは避けたい、と必死にショベルを動かす。
一番苦労したのは当然……
「クソッ。重てェ……!」
「言うな。重たいのは、当然だろ。石なんだからな」
壊れた灯籠だ。
これを積み直すことは不可能なため、壊れたものを纏めるのだ。
後日、レイキ会に引き取って貰うという。
引き取って貰った後はレイキ会に所属している“人ならざるモノ”の職人が修復してくれるらしい。
「金、かかるのか?」
「かかるに決まっているだろう。だから、家計は火の車になるんだ……!」
何というか、ごめんなさい、とカイルは素直に謝罪した。
破壊をする度にそこまで金がかかっていたとは。
「謝るくらいなら、パパ上の悪戯に過剰反応するな」
「約束しかねるぜ。それ。あのクソ狐の所為だっつの」
先ほどの謝罪はなんだったのか。
大河はやれやれ、自分の苦労は一生涯続きそうだと肩を落とした。
「そーいう日常も悪くねェ。とか思ってんじゃねェだろーな?」
「はぁ? 何でそんなことを思わないとならない。俺の苦労は一生涯続きそうだと思っただけだ」
ある程度、庭の土は雑だが元に戻した。
壊れた灯籠は固めておいてある。
まだ折れた木の枝などが残っているが、これ以上作業を進めれば、あっという間に夜になってしまう。
「煉さん呼べよ」
「呼んでみろ。あの女が金をむしり取りに来る。金には困っていないくせにな。単なる嫌がらせでな」
大河が言う、あの女、とは当然、紫月のことである。
“鬼”と酒と女の子には興味があるがそれ以外には大して興味を持っていない。
「本当に、ゴーストっつーのは……」
「そのゴーストというのはやめろ。情緒も何もない」
情緒を求めるなよ、とカイルは呆れた。
情緒以前の問題だろう。
「気持ちの問題だ。ゴーストというのは違う。日ノ国の言葉で言えば、幽霊という意味になる」
大河が言う。
道具を拾い上げ、大河とカイルは道具入れに片付ける。
時折、カイルの兄弟子であるリトが転がり出てくるため、開ける時は気配を読んでから結構、慎重に開ける。
未だにカイルですらどういうカラクリでリトが出てくるのか意味が分からない。
魔術だから、と片付けるしかない。
「残りはレイキ会に依頼するか……。金はかかるが、これらばかりは俺でもどうすることが出来んからな」
どうやら庭の剪定もそういった部署があるらしい。
“人”よりも長く生きている分、その知識、能力は高く腕が良い。
もちろんその分、頑固な一面もあるがそれも“人ならざるモノ”らしいこだわりとも言える。
そして“人”より力が強いから重たいものを持つのも躊躇うことはない。
「ん?」
道具を片付けると同時に大河が何かに気付く。
「どうしたんだよ。大河」
「……祭が呼んでいる」
カイルは首を傾げる。
自分には何も聞こえなかったが……。
大河は祭ファーストだからか、と納得していると、確かに遠くから祭の声が聞こえてきた。
「台所に向かう前に、祭の所に寄るぞ」
おそらく場所は玄関付近だと大河は言うのを、カイルはスルーした。
何故分かるかとか、そういったことを気にするだけ無駄である。
「ったく。あいつの所為でもあるんだから手伝えっつーの」
「貴様、本気で言っているのか?」
先を歩く大河が振り返った。
もちろん本気だ。
「祭に手伝わせてみろ。片付け所ではなくなるし、パパ上に何を言われてされるか……」
「……それもそうだな……。ったく、祭は祭で、無意識の悪意だぜ! クソ狐の晩飯のリクエストって話だったら無視してやる!」
そんな話をしながら、大河とカイルは手を洗って綺麗にすると、祭がいるだろう玄関の方へと歩いて行ったのであった。
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