第五話

 飛び散りぶつかり合うカイルの魔術で出した光の球と神の狐術。

 さらに祭も加わっているため、その光は激しさを増している。


「頼むから、本当に庭の破壊だけは……」


 これ以上、激しい攻防戦が続けば、庭が破壊されてしまう。

 分かっているのだ。

 その後のことを。


「……大河様。もはや、諦めるしかないかと」


 ハデスの一言に大河は達観したというか、悟りを開いたというか、諦めの境地に辿り着いた表情で口を開いた。


「あぁ。そうだな。パパ上が絡んでいる時点で、諦めるしかない」


 何せ、彼は嵐……いや、災害だ。

 動いただけで何が起こるか分からないのだから。

 その様子を見ながらハデスは思い付いたことを口にしてみる。


「大河様。修練場など作られては?」

「ハデス。そうしたい所だがな……」


 先立つものがない。

 儀園神社の家計は、どこかの誰かの所為で火の車なのである。

 借金をしていないだけマシではあるが……。

 大河自身は質素倹約をしているが、神の我が儘に振り回され、怒りが頂点に達したカイルとの交戦の末、二人の術によって修繕のためにどんどん、金が出て行ってしまうのだ。

 位相がズレた結界の先で暮らしているとはいえ“人ならざるモノ”であっても“人”の金がなければ食事にもありつけないのである。

 もちろん、レイキ会から毎月、固定額を貰っているとはいえ修繕費などで出て行ってしまうのだから足りるはずがなのだ。


「パートか、アルバイトをするべきか……?」


 しかしそんなことをすれば、儀園神社の家事一切を取り仕切ってやるモノがいなくなってしまう。

 祭や神を放置してはならない。

 特に祭に食事を任せてはいけないし、神に頼んでしまえば何が起こるか分かったものではないのだ。

 残るはハデス。

 だが、神達を押さえることなど出来ないであろう。

 パートやアルバイトから帰ると、後始末に追われる可能性が高い。

 ではカイルに働きに……彼は魔術師だからやらないだろう。

 ハデスに至っては見た目で落とされる。

 真剣に大河がそんなことを考える傍で、庭での攻防はさらなる激しさを増していっている。

 現実に立ち返って再度、どうか庭を破壊しないで欲しいと願うがやはり、そうはいかないらしい。


「修練場代を出すことは出来ない……。だからといってパパ上の性質の悪い悪戯と奴の暴走は止められん……一体どうすれば良いんだ……」


 大河は頭を抱える。

 不意にハデスは空を見上げた。

 嵐が来そうだ。

 今のところ、空は青くよく晴れている。

 風も爽やか。

 穏やかで嵐が来るようには見えないが、ハデスにはその様子がどうも、嵐の前の静けさに見えて仕方がないのだ。


「ハデス? どうかしたのか?」

「いえ。大河様、それよりカイル様達が―――」


 カイル、神、祭の三つ巴はそろそろ佳境に入ろうとしているらしい。


「このやろっ!」

「ほーらほーら! カイルくん!」

「カーくんカーくんっ! いっくよ~!」


 やめてくれ……!

 大河は顔を引きつらせて手にしていた湯飲みを落とす。

 落ちた湯飲みはそのまま割れた。


「ハデス。止めてくれ……!」

「大河様。止めたいのは山々なのですが……」


 あれだけの激しさに突っ込んでいけない、とハデスも首を振る。

 大河はがっくりと肩を落とした。

 ハデスの言う通りだ。


「……すまん」

「いえ、大河様が謝るべきではありません」


 これはもはや諦めるしかない。


「狐術―――狐火!」

「そんなヒョロいファイアーボールなんかに負けるかよ!」

「カーくん! ボクだって出来るんだからね!」


 大河もう一度だけ呟く。


「……終わった……」


 修繕しない程度に留めてくれたのなら、どれだけ良いことか。

 後始末も修繕もしないのならばどれだけ手間が省けて金がかからないことか。


「これはまた……」


 激しい、これはもはや戦である。

 大河の願いは、やはり、と言わざるを得ない。

 お約束なことながら虚しく叶うことはなかった。

 巨大な光。

 次の瞬間には轟音。

 土煙。

 そして―――

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