第四話

 カイルの下僕となってなお、この場にいても良いのか。

 大河の質問に対してハデスは青い空を見上げて息を吐くと言葉を続けた。


「わたくしめは―――構いません」


 これで良いのだ。


「今はカイル様にお仕えし、この場所にいたいのです。カイル様が死する時には死神としての力もそこそこ戻っていましょう。その時は、わたくしめが責任を持って、カイル様の魂を導こうと」


 そう心に決めているとハデスは大河に言う。

 “人”の生は短い。

 だからこそ神々や“人ならざるモノ”にとっては限りある生の“人”に時折、惹かれてしまうのだ。

 まるで新しい玩具を見つけては弄り倒し、時には壊してしまう。

 純粋で、残酷な。

 それが神々であり“人ならざるモノ”達の性の一片。


「そこまで、か」

「はい」


 もう一度、ハデスはまだ庭で追いかけっこをしている神、祭、カイルを見る。


「いやはや……。カイル様は本当に良い巡り合わせをお持ちで」

「良い、巡り合わせ……か?」


 ただ単に遊ばれているだけだと思うのだが、と大河は言う。


「そして一方で、悪い巡り合わせもお持ちのようで」

「……ハデス。何が視えている?」

「いえいえ。視えているというほどのことでは」


 良い巡り合わせと悪い巡り合わせ。

 そんなものは“人”だろうが“人ならざるモノ”であろうが、持っていると思うが、と大河は思うのだが何となく、ハデスの言っているのは違うような気もする。


「こんのクッソ狐ェェェェェェエエエエエエ!」

「あっはっはっ! こっちこっち~! カイルくんののーろまー」

「カーくんカーくんっ! こっちだよっ」


 煽られているのを真に受けて、カイルは神と祭を追いかける。


「ふざっけんなぁぁぁああああ!!」


 神の狐術、そして安定しつつある祭の狐術、カイルの光の魔術がぶつかり合い、光と炎、そして風が飛び散る。


「……どうか、庭を破壊してくれるなよ……」


 大河は遠い目でポツリと呟いた。

 何か、嫌な予感がするような気がする。


「いやはや。本当に皆様、お元気で」

「元気過ぎるというのも、暇だというのも、困ったものだな……」


 収拾がつかない。

 彼らの間に入ってしまえば最後。

 完全に巻き込まれるだろう。

 何度も何度も神と祭の狐術、カイルの魔術が火花を散らす。


「こっちこっち~!」

「ちょこまかと逃げるんじゃねェよ! クソ狐のくせに、人間様に生意気なんだよ!」

「言ってくれるじゃない。私達からすればクソ人間のくせに、妖精様に生意気だよ!」


 神が狐術を放てば、祭もそれに倣い、カイルは光の盾で防いで光の玉を複数出して神に向ける。

 別にカイルとて祭には恨みはあまりない。

 多少はあるが。

 今この場で倒したいのは神だ。


「やってやるぜ……!」

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