小話 大河の甘味な日常⑩
「美味しーい!」
「うんうん。美味しいねぇ。祭ちゅわん!」
あれからも俺は例の甘味処に通っている。
春夏秋冬色んな甘味を楽しめるのは幸せそのものだろう。
「ウメーな。にしても、この菓子屋変わったな。前は和菓子がほとんどだっただろ?」
「大河様。このクリームどら焼きなるお菓子は美味しゅうございます」
今回、俺が買って帰ったのはどら焼きだ。
普通のどら焼きとクリームを挟んだ洋風どら焼き。
ふむ。
カイルの奴は何度か俺と行っているが店主が変わったことは知らなかったか。
「あぁ。甘味処の店主が代替わりしつつあってな」
「なるほどねぇ。弟子クンは若いのかな」
流石、パパ上。
悪戯などをやめて頂けるのなら、家計は赤字だが多少は融通しようと思うのですが。
「ボクこっちのも好きだよ! 前のお菓子はたくさん幸せを見て来た味! 今のはね、これからたくさんの幸せを見つけていく味だと思う!」
流石、祭だ。
言うことが違う。
邪悪なパパ上の息子とはまったくもって信じがたいほど純粋無垢な天使だな。
「また行こうぜ。大河」
「貴様が金を支払うのならな」
「マジかよ!」
「カイル様。何だったら私めが金策を!」
ほぉ……ハデスには金策があると……一体どういう―――
「昔の仲間と時折接触をしていまして。ちょこっと小遣い稼ぎに魂をサクッと運べば」
アテにしてはならん類の金策だった。
よし、やって来いというカイルの奴は馬鹿なのか。
「まぁでも……”人”の世界は本当に早いね」
「パパ上……」
「という訳で、大河クン。毎日買って来て!」
パパ上に感動しかけた俺が馬鹿だった。
「ボクもボクも! 毎日食べたいなぁ~」
「……。毎日は、少し……金策が……。気が向いた時に……」
折れた。
俺は、完全に折れた。
だが後日、ハデスの金策の結果を家賃代わりに頂くようになって儀園神社の家計が助かるようになったのは事実なのであった。
―――結論。
俺は自分の隠れ家を暴露しただけではないのか、と思うのだが……。
その後も甘味処に通うのは見咎められないのも事実だ。
つまり、良い、ということだな。
甘味に厳しい俺も、この店だけは甘く評価をしているかもしれん。
だが一つくらいそういう所があっても良いだろう。
月日が早く流れ移り変わる”人”と違い、俺は悠久の時を生きる”神”だからな。
あの若い店主が切り盛りをしていくだろうあの菓子屋の発展が楽しみだ。
《小話 大河の甘味な日常 了》
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