小話 大河の甘味な日常⑨
二種類の花びら餅に、冬を象った練り切り。
そのいずれも食べて俺は茶を飲み干し、しばし考えてから口を開いた。
「美味い」
なかなか、何と言って良いのか判断がつかないが、まずはその言葉からだった。
「こちらは店主のものだな?」
「はい」
長年という訳ではないが、何度も通い、親しんだ味だ。
「こちらが弟子のものだろう」
「その通りです」
さて……他に何と言うべきか。
「どうでしょう」
「どう、というのは難しいが……。やはり弟子の方が若い味がする。店主のものは年月を重ねた味だ。弟子の方も時間をかければ同じ腕になるだろう。俺は、この店の味が好きでな。どちらもこの店の味なのだろうと思う」
これで良いだろうか。
「ついては、今後も是非、この店の味を楽しみに来たい。それから……土産にいくつか、包んでもらえないか」
そうして俺は店を後にする。
この店は更に良くなるだろう。
何十年、何百年と続く店……この日ノ国にはかつてに比べれば減ったものの、未だ存在する店はある。
ここはそういう店だ。
今後もこの店で甘味を楽しむのが楽しみだ。
そして俺は、相も変わらない姿でここを訪れるのだろう。
恐らく店主は俺が“人”ではないことに気付いているかもしれない。
始まりは晴明紹介の店だが……奴は嫌いだがこのような店を紹介してくれたことには感謝しても良いだろう。
一度くらいは、奴に甘味をやっても良いだろう。
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