小話 大河の甘味な日常⑦

 あれから再び季節は秋となった。

 店主と奥方は俺の勧めだと弟子から聞いて、清キ水寺と晴明ノ神社へ行ったらしい。

 弟子と話し合いを重ね、弟子の言う通り少々開店時間を短縮し、売る甘味の種類を月ごとに減らし、空いた時間は弟子に教え込んでいるらしい。

 様々な甘味が食べられんのは残念だが、ここの店が長く続くのならば仕方があるまい。

 それに季節ごとに季節を感じながら甘味を食べられるのは昔から続く素晴らしい時間だ。


「ふむ……これは、弟子の作か……」


 なかなか、見事に作っている。

 菓子の一つ一つが丁寧な作業を経て作られているのが良く分かる。

 春には春の。

 夏には夏の。

 秋には秋の。

 冬には冬の菓子を食べられるというのは素晴らしいことだ。

 今回の甘味は……芋羊羹か。

 なるほど。

 秋と言えば確かに、芋だな。


「しっとりと滑らか……なおかつ、しっかりとした味わい……」


 これは手土産としても最高だな。

 パパ上も大喜びだ。

 何より……


「祭も喜ぶだろうな」


 む、一応、カイル達の分も買い求めておいてやるか。

 このような美味しい甘味を食べれば俺の心も大きくなるというものだ。

 春、夏ときて、秋……そして冬が来る。

 その時の甘味も何とも楽しみだ。

 さて……名残惜しいが帰るか。

 帰りたくはないがな。

 あの神社に帰ればすでに事は起こっているだろう……。

 この芋羊羹で何とか収まってくれたら良いが。

 何はともあれ、週に一回通えるほどになったのは有難いことだ。

 そして―――神社に戻った俺が絶望するまで後……この時の俺は、まだ知らない。

 まさかパパ上とカイルの奴に祭が加わり、庭が酷い有様になっているなど。

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