小話 大河の甘味な日常⑥

 ―――美味い。

 氷の器で冷やされた錦玉羹。

 海か青空から星空へと変わる彩色、金平糖ではなく口の中で弾ける飴が面白い。


「美味かった……。俺は菓子にはうるさい方なのだが……これは見た目も味も良い」

「ありがとうございます」


 しかしこれだけの甘味を生み出せるのだ。

 縮小をするとはどういうことなのか。

 そう問えば、弟子の男は言った。


「俺はまだまだ、小手先が器用なだけですよ。師匠にも奥さんも体を大事にしてもらいたいんです。だから店先に出す品数、種類を月ごとに変えて開店時間を短くして、その分教えてもらいたくて……」


 なるほど。

 そういうことだったか。

 店主は心配をしていたが、弟子もまた師匠である店主を心配してのことか。


「師匠のように、もっと多くの甘味を。小手先だけでなくもっと心を込めた甘味を作るにはやっぱり師匠達に長生きしてもらわないと。その上での修行兼店の甘味や時間を縮小してはどうか、ということなんですよ」


 その理由であれば、心配は無用だ。

 何か悪いことでも考えて店を乗っ取ろうとしてることではないのは目と表情で分かる。


「ならば、アドバイス、とやらを。一つの寺と、一つの神社に参り、その水を飲めば良い。店主も、その奥方も多少は元気が戻るだろう」


 本来ならば、肩入れしてはならんだろう。

 だが―――ここを……次を担う”人”のいる店を失うには惜しい。

 だからこそ俺はほんの僅かな力添えとして伝えた。

 一つは清キ水寺。

 万病に効く霊水として名高い。

 もう一つは奴の……晴明の奴を祭る晴明ノ神社。

 奴は気に入らんが、そこにある水は難病平癒の水だ。

 伏見の神社でも良いが、この辺りで行ける範囲といえば、その二つだろう。

 これで少しでも、この店が良くなるとそれだけ菓子が食えて俺も嬉しいからな。

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