小話 大河の甘味な日常④

 あれからまた時は過ぎ。

 季節は夏。

 相変わらず俺は例の店主が営む甘味屋に通っている。

 ふむ……夏に相応しいといえば、やはりかき氷だろうか。

 いや、錦玉羹きんぎょくかんも涼しげで美味い。

 水まんじゅう、あゆ、水ようかん、わらび餅……。

 はてさて……これは困った。

 いずれも美味しいからな。

 今の時代、春夏秋冬関係なくあらゆる菓子はもちろん、野菜、果物が簡単に手に入る。

 インターネットとやらで全国各地の甘味も、ご当地の食も味わえる。

 便利な世の中になったものだ。


「これはこれは。いらっしゃいませ」

「うむ。あれから弟子が出来たと言っていたが、どうだ?」


 そう俺が問うと、少しばかり店主は曇った表情を浮かべた。

 何やら問題があるのだろうか。

 これでも俺は神だ。

 といっても、水に関係することがほとんどだが。


「何か問題でもあるのか?」

「いえいえ。むしろ逆で。飲み込みが早く、百年に一度の天才とも言える弟子ですよ」

「すまない。表情が曇ったのでな……」


 実は、と店主は口を開いた。


「今まで色んな甘味を提供していましたが、少しばかり作るものを絞ってはどうかと提案されましてな」


 なるほど。

 どうやら店の経営や行く末を気にしてのことだろう。


「いずれも作れるようになるだろう弟子なので、残念に思っていましてね。あぁ、すいませんな。注文を」


 そう言われて俺は、口にした。

 弟子の作った特に得意としている夏向けの甘味を食べてみたい、と。

 これから先、この店主の後を継いで立派にやっていけるのか、試してやろうではないか。

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