第80話
汝、カイル・シュヴェリアは見事、ハデスの凶行を止め、使い魔にした功績を認める、と言った内容だった。
当然である。
また師匠であるヤトについても弟子を支えた功績が認められている。
これも当然だとヤトとカイルは互いに頷く。
「ん? 師匠。何か続きあるみてェだけど」
「何なに……カイル・シュヴェリア並びにヤト・クライスには規律違反も認められたため、反省文、始末書、顛末書の提出を要求する……」
規律違反。
しでかした覚えは……と、二人はカイルが内緒で持ち出した聖水を思い出す。
「よって、カイル・シュヴェリアは次の任務の決定があるまで儀園神社にて待機。ヤト・クライスに関しては提出物の処理が終わり次第、更なる任務を与える……」
ヤトの声が段々と落ちていく。
カイルもまた、力が抜けたように床に突っ伏している。
「待機……」
「任務……」
「よかった! じゃあカーくん、ずっとここにいられるんだねっ」
「やはりパパ上からの悪戯に弾除けがいるのといないとのでは大違いだからな」
落ち込むカイルに祭はいつものように飛びついた。
何にしても、事態は落ち着いた。
絶望にくずおれる二人を除いて。
****
それからさらに数日後。
儀園神社の一室では、大量の紙、紙、紙のタワーに埋め尽くされたヤトとカイルが死んだ顔で文句を連ねていた。
「抗議文送ったら倍以上になって返ってくるなんて……段々、聖水の強奪関係なくなってきてるし。何の為の反省文と顛末書か訳分からないし」
「カイル様! 次は何をしましょう! 掃除、洗濯、料理にマッサージ。私め、何でもいたします!」
「今は頼むから黙っててくれよ……」
「あーもう……。反省文って何を書けと? 前回送ったものは反省しているように見えないとか反省が足りないとか。わざわざ添削までして。何。赤ペン先生のつもりなの? 小学生じゃないんだから。腹が立つからびっしりと、赤インクで呪いのようにごめんなさいごめんなさいごめんなさい私達は反省しています死ねジジババ許して下さいって書いて送り付けてやろうか。今の時代に紙ってバカじゃないの。もったいない。とっととくたばって地球に謝れあのクソ共」
「やめてくれよ師匠。んなことしてみろ。また別件で反省文書けって言われるじゃねェか。これ以上関係のねェ反省文なんて書きたくねェ。んでもって口調、崩れてっから」
遠く離れた魔術協会に文句を吐き捨てながら完全に二人の手は止まっている。
「何だ。まだいたのか。ハデス、呼びに行ったのではなかったのか?」
「申し訳ありません。お二人があまりにも死にそうだったので、私めがお手伝いをと」
「何だよ大河。オレらは今、魔術協会に巣食うゴースト共から精神的な虐めを受けてんだよ。ブラック企業も真っ青な規模のな」
家事なら全てが片付いてからにしてくれ、とカイルが大河に言うが大河は気にした風もなくハデスに行こうと呼びかける。
「残念ながら邸に帰ったが、晴明の奴がせっかく菓子をくれたのだがな。いらんと言うのなら、俺が責任をもってあの美味い菓子を頂いておこう。邪魔をした」
「待って大河くん! 私は呼ばれるよ! 休憩しないと死んじゃう!」
「待て! 食う! 食うに決まってんだろ!? それを先に言えよハデス!」
とヤトとカイルはペンを放り出し、揃っていつもの食事をする部屋へと向かった。
そこには天、紫月、煉、流雨、蒼司も揃っていた。
「お、来おった。惜しいのぉ、もう少しでオレっちが食べようと思っちょったのに」
「あら、主従が来ましたわ! あぁ、本当にここはネタが尽きませんわね」
「やぁ、カイルもヤトさんもすっかり面白いくらいに死んだ顔をしているね」
それぞれ事後処理も終わったらしく、やっと久々の暇を手に入れたとのことらしい。
特に紫月はやっと落ち着いてお酒が飲めると嬉しがっていたとのことだ。
「カーくん、カーくんっ。早く決めないとなくなっちゃうよ!」
「カイルくんの分はパパのもの~。さーて、カイルくんは何を食べるのかな!?」
「誰がクソ狐にやるかよ!」
相変わらずどこまでも弄ってくる。
どれにしようかとケーキの箱を覗き込むが、これといって好きなものは残っていない。
「カイル様のものは私めの独断と偏見でショートケーキを確保しております! どうぞ、召し上がって下さい」
「よし、よくやったハデス」
スッとハデスに差し出されたケーキは、カイルが好きな苺のショートケーキだ。
甘さと甘酸っぱさのバランスが素晴らしいケーキに、カイルはハデスの淹れてくれた美味しい紅茶でほっと息を吐く。
「それにしても、聞いていた話とは面白いくらいに性格が違っているね」
紫月もケーキを頬張りながらハデスを見る。
まるで引きこもりが元気になって……というか性格が変わって外に出た! という感じだと誰もが口を揃えてハデスの性格について言う。
「きっとカイルくんの力で頭がおかしくなっちゃったんだよ。あ、そもそもは晴明か」
これだから“人”は、とまるで病原菌のように言う神にカイルは蹴りを入れる。
「だが随分と助かっている。台所の手伝い、風呂洗い、掃除洗濯……進んで手伝ってくれるしな」
「わたくし、メインはハデスちゃんとカイルちゃんでお願いしたいですわ! やはり主従ものは従うものが攻め……従者の秘めたる想い……下剋上素敵ですわ!」
「お嬢。龍神の奥方は一体何を言っているんだ?」
「うーん。さぁ? 煉は何も気にしなくていいよ」
そう喋りながら紅茶を飲み干したヤトはカップを置いて立ち上がった。
「? 師匠?」
「さて、ケーキも頂いたことだし。私は旅に出るよ。仕事もあるしね」
まるで自然に言ってのけるヤトにカイルはもう少しで聞き逃す所であった。
旅に出る。
つまりは、あの部屋にある書類を放ったらかしてトンズラをする気ということだ。
「はぁ?! 師匠!」
「だって、もう書類の処理や反省文書き連ねるのに飽きちゃった。魔術協会にはちゃーんと言っとくよ。じゃあカイル。後は頼んだよ! 風と共に去りぬ、アッデュー」
目にも止まらぬ速さでヤトは神社を飛び出していった。
「あんの、クソ師匠!!」
「カイル様! カイル様の書類ならば、私めがお手伝いを!」
「祭ちゅわんっカイルくんの部屋に雪崩を起こしに行こうか!」
「何なに? パパ、それ楽しそうっ」
ケーキを最後まで食べきって神、祭は走ってカイルの部屋へと行く。
その後をカイルが、さらにその後ろをハデスが追いかける。
「茶が美味いな……」
「あぁ、先日の鬼畜な祭ちゃん。見たかったですわ……。出来るなら動画にも」
「龍姫さん、暴走しとうけど止めんでいいのかのぅ? 龍王さん」
「いつものことだ」
「さて煉。ボク達もお暇しようか。大河、カイルによろしくねっ」
紫月の後について、煉も神社を出ていく。
ひたすら妄想を語る流雨を何とか引っ張り、蒼司も水宮へ。
その頃、カイルの部屋では必死の攻防戦。
「やっぱテメーの毛皮は剥いでやる! この極悪クソ狐!!」
「あっはっは。こっちこっち! それっ」
「ぎゃぁぁぁあああ! それ終わったやつと終わってないやつじゃねェか! こちとら整理して処理してんだから混ぜんなよ! 混ぜんな危険! なんだよ!!」
ひっきりなしに届く紙束を、どれだけ整理をしながらさばいていると思っているのか。
カイルは次から次へと紙束タワーをつついて崩れさせる神を追いかけ回す。
「わぁいっ紙吹雪みたいっ」
静かになった食事部屋。
大河は遠くで聞こえるカイルの怒号と神と祭の笑い声、そして紙束が崩れる音を聞きながら茶をすすって呟いた。
「平和だな……」
ただ、部屋の畳が傷まないことだけを願いながら、開きっぱなしになっている障子から空を見上げる。
ハデスとの戦いが嘘のような、どこまでも高くて青い空。
今日も明日もしばらくはこの日常は変わらないだろう。
「待ちやがれこのクソ狐ェェエエエエエ!!」
****
古来より“人”と“人ならざるモノ”が共存しながら住んでいる国がある。
他の国の人も混ざり合いながら“人”“人ならざるモノ”関係なく生きる国が。
カイル・シュヴェリア。
後に彼は伝えている。
不思議な国がある、と。
それが日ノ国である。
ただ一つ、忠告が残されている。
彼の国に棲む超極悪悪徳クソ狐は快楽主義ではた迷惑な“人ならざるモノ”のため、要注意である……と。
今日もまた、非日常だった世界は日常となり、巡るのだ。
「待てやぁぁあああ!! この腐れ狐ェエエエエエ!!」
「パパは最強だもんねっ。“人”に毛が生えた程度の魔術師になんか負けないもんっ」
「今日も平和ですね、大河様」
「パパ~、頑張って! カーくんもっ」
「……部屋や畳、庭を壊さないでくださいね。パパ上。壊したら貴様にツケるからな」
「テメー少しはオレを認めたんじゃねェのかよ! つーか友達だろ!? 助け合った仲だろ!? このクソ狐によって不幸にされる運命共同体だろ!!? ツケるんならこの迷惑クソ狐にツケろや!! ぎゃぁああああ! GにKを放つな!!」
「ひぃっ。貴様っここまでパパ上にさせるとは何をした! それに貴様とは運命共同体ではない。単なる弾除けだ」
「テメッ今更テメーが言ったことなかったことにすんじゃねェよ!」
「ほーらほーら。大河クゥン? ゴッキーちゃんにケムケムちゃんが大河クンと戯れたいって!」
「ひぃぃいいいい!! や、やめてくださいパパ上!!」
「カイル様。大河様! ただ今、私めが片付けを!!」
……終生、彼がこの神社にいる、又は訪れた際には悲鳴、怒鳴り声、そして笑い声などが絶えなかったとか。
****
というわけで、最終回でした!
読んで頂き、ありがとうございました。
続きを一応考えてはいますが……もしもまた続きを投稿することになったら
よろしくお願い致します!
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